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【No.018】

日本全国一万劇団計画

2.稽古場で何が起きているか

「小劇場の問題」を突き詰めて行くと、個々の劇団の頑張りではどうしようもないところに来ているように思えてくる。「だって世の中が『小劇場』を必要としていないんだから」とか。求められているのはブームの様相を示しているエンタメ系メジャー演劇。人畜無害の消費される演劇、だけが時代に合っているというのか・・・(これについては後述)。

なんてことを考えていたある日、知人の芝居を見に行った。見終わって、何かが物足りないと感じた。ホンが描いている世界は深く、鋭いと感じた。が、芝居の印象は薄っぺらで、ただただ楽しい系の笑えるエンタテインメント。作・演出を担当した知人に、終演後に聞いてみた。そのズレはなんなのか、と。「深いとこを書いてるよね。だってそれは、あなたが昔っから言ってたテーマだもの。演劇をやり続けることの意味だもの。だけど、いま見た芝居は・・・役者がそれを描こうとしているようには思えなかったんだけど。」

彼は間髪を入れずに答えた。「役者がね、わからないみたいなんだよ。」

彼は困惑したふうだったけど、明らかに興奮していた。「理解できないんだよ。というか、理解するという概念がない。長くやってる役者もなんだよ。表層的にしか描けない。それは役者の技術の問題じゃない。生き方の問題。もう、そういう時代なんだ。役者もまた、そういう時代に生きているんだから。」

問題なのは、そんな彼の芝居は、今のお客さんには評判がいい、ということ。お客さんも役者も、同じ時代に生きているってことだ。表層的でも、十分なのだった。お客さんは楽しみ、役者は満足していた。

「なんてことだ!」と思った。だけど、思い当たることが多々ある。ずっと「それ(ホンが描いているものを掘り下げる作業)をやるのは役者の作業だ」と言い続けてきた。できない役者には理解できるように解説してあげた。けど、うまく伝わらなかった。その理由がこのとき、初めてわかったような気がした。「思考停止の時代」「想像力の欠如」など、今の時代を非難するコトバは多い。だけど、それが創作の現場である稽古場にまで来ているとは思いもしなかった。考えてみれば、そりゃ当然なんだよなあ。稽古場だって、現代と地続きなんだから。

一緒にやってる芝居仲間が、9.11ニューヨークテロのとき、「戦争反対、だけど仕返しはしなきゃ」と言った。「オウムって気持ち悪いよね」と言った。彼らもまた、今って時代を生きているってことだ。

「演劇界を揺るがすような刺激的な芝居」が生まれるのは、とても困難だと思われる状況が稽古場にまで押し寄せてきている。創り手もまた変化しているのだから。そしてそれは、観客との共犯関係でもある。「水戸黄門・笑点・サザエさん・ドラえもん」の時代。すべての創作活動がピンチとなっている。(つづく)

週刊StagePower編集部
神保正則
2006.5.2


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