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【No.019】

日本全国一万劇団計画

3.演劇以外の創作の環境

最近、音楽の世界で新しいインパクトって出てないように感じませんか。ヒット曲は出てますけど、それでも以前ほどは衝撃的なヒット曲って、ありませんよね。ジャニーズ系か、海外楽曲の焼き直しか・・・。強烈なコンセプトを持ったアーティストってのも、モーニング娘。の登場が最後かと思われる。モー娘って1998年だもんね。20世紀のことだ。今は、マーケティングとタイアップでヒットが生産されている。70年代80年代の衝撃を浴び続けた私だから、そう感じてしまうのでしょうか。

それでいま、音楽の世界で何が起きているのかと言えば、楽曲配信と「着うた」。「音質」というアーティストが一番こだわる面で言うと、「着うた」なんてとんでもないことだけど、ユーザー的には十分みたいで、CD発売数の10倍ぐらいのダウンロードが着うたで行われるようになっている。これは音楽業界構造を劇的に変化させるものとなる。と同時に、消費者が音楽に求めるものって、「着うた」でいいのかよ?と思わずにはいられない事態だ。いや、いいんでしょう。音楽は今、消費財に成り下がりつつある・・・。(必ずしも否定的な意味だけではありません)

映画もまた、いろんな人が現状の厳しさを指摘している。「バッシング」の小林政広監督はカンヌ映画祭のときにフランスのメディアからの取材で、現在の日本の映画環境について「ハリウッド的エンタメ作品がメインで、社会性のある作品や芸術的な作品は上映する場すら与えられていない」旨の発言を行っている。ここでもまた、消費者が求めているのは「娯楽性の高い作品」ということが指摘されている。そのことを創り手もしっかりと意識している。ポップでお手軽な作品が求められているのだ。それはわかっているのだ。

2006年5月5日の朝日新聞夕刊が単館系ミニシアターの特集をしていた。何人かの劇場支配人へのインタビュー。ある支配人は「この数年、作家主義は衰退したと言われていたが、まだしばらくは頑張れそうだ。」と。やはり衰退しているみたいだ。別の支配人は「作家主義は一切あきらめているし、邦画も断っている。」と。さらに、「トレインスポッティング」「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」「ムトゥ 踊るマハラジャ」などのヒットを連発してきたシネマライズ代表は、「文学や音楽も含め、創造性に驚きや発見を求めるのでなく、スタイルの新しさをかみ砕いて見せるのが今の時代の気分」と的確に指摘している。このコトバを翻訳すると、『文学や音楽や映画などのクリエイティブ表現すべての分野で、驚きや発見などのインパクトは今、求められていないのだ。それはいらないのだ。ただ、新しいっぽいスタイルをわかりやすく見せてくれることだけが求められているにすぎない。』っつうことか。ほんとうの意味で新しい必要はない。インパクトもいらない。ただ、新しいっぽい感じをわかりやすく見せてくれれば、乗っていける。消費できる。ということ・・・。

なんせ、劇場主ですから、見方はクールですし、間違っていません。上映する映画を選択する側がこういう見方ですから、クリエイターは苦労します。しかし、「時代の気分」の捉え方は、きっと正しいと思います。消費者が求めているものを提供するのが映画館の役目ですから。

なんとなく、「それでいいのか」というコトバが浮かんできます。「いいも悪いもない、ビジネスとして、生活のために働く現場では、今の消費者が求めるものを提供する以外に道はない」と言われそうですが。確かにそれが「仕事」である限り、選択肢はないのかもしれません。今という時代に即して生きてゆくのであればです。ただ、そのためには「今」をきっぱりと肯定しないといけないのでしょうけど。(つづく)

週刊StagePower編集部
神保正則
2006.5.14


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