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【No.010】

佐藤信と黒テントの挑戦

演劇ってのは、「お客さんが見たいもの」をやるとは限らないものである。「顧客のニーズに応えて」いないからと言って怒られる筋合いのものではない。そこんところを勘違いしたお客さんが、時々怒っている。怒ってるよ〜。

例えば昨年末で活動を休止したハイレグ・ジーザスの河原雅彦総代は、その休止の理由を「お客さんが喜び、動員が伸びるものをやるようになってきて、実際に動員が伸びたんだけど、ふと、自分たちがやりたかったものはコレなのか?と思い、終わりにしようと思った」というようなことを述べていたと思う。「お客さんの求めるもの」よりも、「自分たちがやりたいもの、自分たちが面白がれるもの」をやるべきなのだろう。でないと続かない。その「自分たちのもの」が「お客さんの波長」と合えば、それこそが喜びとなる。

一番困るのは、時代が変化していき、自分の嫌いなムードが世の中に蔓延してしまったときだ。反発される。しかし、それでも演劇は、時代と対峙して戦っていくしかない。娯楽じゃないから。エンタテインメント度100%じゃないから。

さて、黒テントである。今度の芝居は9.11だそうだ。この時期、やってくれるよなあ。期待したい。映画の「September11」は「反戦」の色が濃かったが、いまどき「反戦」芝居なんて、やらないだろうしね。戦争の悲惨さとか醜さなんて、戦前(ブッシュの戦争)ならば描けるだろうが、今はもう、それどころじゃないはず。いったい、9.11をどう描くのだろうか。

演劇だけは、「解答」を描く必要がない。歴史が検証してくれたものである必要はない。今、この時に見えているものを描けばいい。今日、「ありえる」ものを提示してくれればいい。

で、モハメド・アタを描くらしい。WTCに突っ込んだ飛行機の操縦桿を握っていたとか。元建築学科の学生だったとか。決して狂っていたわけじゃない。暴走でもない。冷静に、信念を持って行動したカレを、どう描くというのか。それへの「仕返しの狂想曲」「帝国の逆襲」はどう描くのか。なんか、人間の情けなさを眼前に晒されそうで、きついよね。ギタリスト・磯田収さんが参加しての音楽劇になってるらしいので、ギターの優しい音色がトゲトゲを和らげてくれるかもしれない。決してトランスはかけてないで欲しい・・・ま、いいけど。

演劇ってのは、なんであるのか、が問われちゃうかもしれない。今って「表現」の立場ないから。だって、戦争が始まっちゃうような世界ってのは、すべての表現にとっては敗北だもの。そんな世界になることを願って表現やってきたわけじゃないはず。「やっぱ北朝鮮怖いから仕方ないよね」とか、「フセインが残虐なことやってたんだから仕方ないよね」なんて考えが、けっこうフツーになるなんて・・・。演劇の外では、反戦を叫んでいくしかない。そして、演劇の内では、不快なソレと対峙して、何がどうなのかをお客さんに伝えなければならない。大変なんだよなあ。演劇の、「存在理由」みたいなものが問われちゃうかもしれない。ってゆーか、佐藤信と黒テントは、そこに挑戦しようとしているとしか思えない。・・・それってすごいかもしれない。

週刊FSTAGE編集部
神保正則
2003.4.15

黒テント第49回公演 佐藤信久しぶりの 新作書き下ろし
「絶対飛行機」
2003年4月19日(土)〜29日(火)
北千住西口イベント広場(予定) 特設テント劇場
黒テントHP


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