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結城座稽古場取材
2003年7月江戸糸あやつり人形芝居結城座
古典公演@三軒茶屋シアタートラム
「伽羅先代萩の世界」
(めいぼくせんだいはぎのせかい)

「結城座」って知ってますか? 私は、友人が舞監をやってるということで、名前だけは知ってました。「江戸糸あやつり人形」の劇団だそうですが、この「江戸糸あやつり人形芝居」については上條充さんの裏方を一度やったことがあるので、ほんのちょびっとだけ知ってました。しかし、結城座の旗揚げは・・・1635年(寛永12年)だそうです。創立368年。1635年と言えば、三代将軍徳川家光の時代です。島原の乱の2年前、ルイ14世が即位する8年前ですよ・・・。

関係ないけど、なんかすごいー!


稽古場で演奏中の竹本素京さん



7月9日からの公演を前に、多忙を極める劇団稽古場を6月末に訪ねた。本番に合わせた進行で、すでに1場の終わりのところが稽古中であった。と、稽古場の入り口からヨロヨロと、かなりお年をめされたおばあさんが登場した。足元がかなり不安で、手をひかれながら歩いてきて、ふかふかの分厚い座布団の上に座られた・・・?

と、おもむろに三味線のでっかいやつ(ふとざお)を手にすると、それまでの息もたえだえ(失敬!)の存在は消えうせ、驚異的なボリュームと多彩な声色での浄瑠璃語りが始まった。私はもう、ただただびっくりしていた。舞台上の人形劇を見ずに、そこで始まっている「なんだかわからないもの」を凝視していた。三味線のバチをチョッパーベースのようにぶったたき、ほとんど憑依してんじゃないのか、というぐらいの多重人格キャラを次々とがなりまくっている・・・。どういうメカニズムなんだろう・・・なんて考え込んでいた私だった。

その人の年齢を聞いて二度びっくり。89歳だという。そしていろいろなことを知った。名前を竹本素京さんだという。これがウワサに聞く「義太夫」というものだと。2mの至近距離でそれを聞けることなどめったにないことだと。

・・・もしかして、すごくラッキー!


結城座では、タレントの宝生舞やコシミハルらと「はりねずみのハンス」などのような現代劇も上演している。今回の「伽羅先代萩」は歌舞伎の作品。そして、結城座が行う「伽羅先代萩」は「改良人形芝居」という形をとる。これは結城座オリジナルで、九代目結城孫三郎が開拓した手法。従来の人形浄瑠璃と違い、なんと「人形遣いが自らセリフを喋る」というものだ。実際に人形を動かしながら、浄瑠璃のセリフを語る。当然、初演時には「邪道だ」「掟破りだ」との誹りを受けたとか。しかし、それからちょうど100年、現在の十二代目結城孫三郎がしっかりと受け継いでいる。

実際に、あやつり人形を操作しながら喋るというのは、見てると大変そうです。人形の操作は前かがみになって行いますし、常に下を向いた状態で、ノドを締めているように思えます。それでセリフを喋るなんて考えられません。が、みんな何事もなかったかのようにやっちゃっています・・・。どうなってるんでしょうか・・・?

さて、今回の公演タイトルは「伽羅先代萩」に加えて「の世界」とあります。これが今回の取材のポイントでもあります。(前置きが長くなってしまった)

今回の公演では、「伽羅先代萩」の上演の前に「解説」を行うのだとか。それも、ただの「作品解説」ではなく、「糸あやつり人形の構造」や操作法などを、質疑応答も交えてのワークショップ形式で公開する計画だとか。そもそも江戸時代から伝わる糸あやつり人形の構造は「門外不出」とされ、そのメカニズムの公開は基本的にはなされていなかったとか。はたしてどんなことになるのでしょうか。

実は、週刊StagePower的に最も注目したのはココです。このワークショップの部分です。なので、「伽羅先代萩」の稽古も竹本素京さんの義太夫も、あくまでも前置きであり、取材の目的はこの「ワークショップの稽古」にあったのでした。にしては、素京さんのインパクトが強くて強くて・・・ぜひ素京さんをみんなに見てもらいたいと思ってしまったわけです。(んでも、2mの距離で見れるわけじゃないけどね)

そうこうしているうちに、結城座の稽古場ではワークショップの稽古が始まりました。「ワークショップ」ということで、アドリブでメカニズムを解説するのかと思ったら、全然違っていました。結城座としても初めての試みということで、30分程度のきっちりしたステージを作り上げようというのでしょう。構成台本をもとに、座員が交互に「司会MC役」と「解説人形遣い役」を演じていました。本番でも、日替わりで担当が替わり、また、構成も毎日変わるだろう、ということでした。いろいろな可能性を試してみたい、ということのようです。思わず不安を感じてしまいますが、どこまで完成度を上げられるのかは、見てのお楽しみということでしょう。

取材を終えて感じたことは、いわゆる「伝統芸能」に分類される人たちの現場での「挑戦」への意欲でした。現在、歌舞伎の分野では、現代劇の演劇人とのコラボレーションが盛んに行われています。「伝統芸能」の名のもと、「文化財の保護」などに甘んじていることはないようです。創立368年の結城座も、現代劇に挑戦するだけでなく、ワークショップと銘打った「観客との共同作業」に挑戦しています。なんでも、結城座の江戸糸あやつり人形の一人前の人形遣いになるためには10年20年と修行を積まなければならないのだそうです。ちょっとやそっとじゃ、「体験してみましょう」とは行かないのだとか。それでも、若い観客に向けて「身近に気軽に楽しんでもらう」アプローチは必要なのでしょう。文字通り、客席に入っていくことをやっちゃうのでしょう。その挑戦の意気込みは素晴らしいと思いました。

もちろん、いろいろな困難もあると予想されます。「ワークショップの稽古」を見ていると、試行錯誤、不安と期待が交錯してました。しかし、100年前に「人形遣いがセリフを喋ってしまう」という「暴挙」を行った結城座ですから、「新しいことをやる」のはお家芸なのかもしれません。「邪道だ」「掟破りだ」などという誹りはむしろ勲章なのでしょう。ベースとなる義太夫や人形遣いの技術がありますから。つまりなんというか、89歳の素京さんの髪の毛が真紫なわけですからね。間違いありません。

観劇レポート

江戸糸あやつり人形芝居結城座
古典公演
「伽羅先代萩の世界」
@三軒茶屋シアタートラム

2003年7月9日(水)〜13日(日)全5回公演
問い:結城座ホームページ

取材/編集部:神保正則、Joy
撮影・文/神保正則


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