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劇団扉座稽古場訪問
2000年11月公演
「愚者には見えないラ・マンチャの王様の裸」
@紀伊国屋サザンシアター

おっしゃる通り、湾岸戦争の時にサダム・フセインに一人で会いに行ったというアントニオ猪木はすごいと思う。いや、当時は「バカだなあ」って笑っていたような気がするけど、今思うと、やっぱすごいよ。って言うか、そんなバカが今いたら、すごくかっこいいかもしんない。今、それが必要かもしれないって思う。そんなやつ、やっぱいないよなあ・・・。


作・演出 横内謙介

劇団扉座第22回公演@紀伊国屋サザンシアターは、横内謙介が湾岸戦争における連合軍の空爆開始とともに書き始め、空爆停止の日に書き上げたという「愚者には見えないラ・マンチャの王様の裸」だ。1991年に初演され、第36回岸田戯曲賞を受賞した扉座の代表作だ。

2000年10月17日火曜日、扉座の稽古場を訪問した。錦糸町の駅から徒歩で15分ぐらい。稽古場に着いたのは17時30分のことだった。そのときは、ラストシーンの稽古を繰り返していた。ちなみに私はこの「愚者〜」は未見。予備知識はほとんどない。岸田賞を受賞したことは知っていたし、扉座は前身の善人会議のころからずいぶん見ているけど。と言っても、特にファンというわけでもない。あまり楽しめなかった作品もいくつか見ている。「新羅生門」は面白かったけど・・・。はたして、「愚者〜」はどんなもんでしょうか・・・。

稽古は18時過ぎまで続いた。丁寧なダメ出しが続く。横内さんが立ち上がって、細かいとこまで指示している。感情のままに大勢が動くシーンがうまくいかない。位置どりが変で、ぐちゃぐちゃになってる。なんか、大変なことになってるぞ・・。

稽古場に舞台セットを組んでいた。ヤオヤ(斜め舞台)になっているのだ。間口5間、奥行き3間もある。サザンシアターはでかいもんなあ。


舞台セット(一瞬こうなるだけで・・)

この日、横内さんへのインタビューを予定しているが、先に通し稽古を見せてもらうことにした。サザンシアターの本番は11月2日で、まだ2週間以上も先なのに、もう通しができるのかと感心したが、実はサザンの前に厚木市文化会館で公演があるのだ。その小屋入りまでには、もう1週間しかないのだった。でもまあ、「1週間もある」という考え方もあるけどね。聞いた話では、横内さんの場合、稽古初日までには必ずホンが上がっているのだそうだ。そんな劇団って信じられないよな。いったいぜんたい、どうなってんだか・・・。

18時43分、通しスタート。音響さんもちゃんと音を出している。音響は青木タクヘイさんだが、オペは別の人だ。二人でやってる。

20時47分、終了。2時間4分もあった。前日通したときは2時間15分あったということなので、かなり短縮されたみたい。特にセリフをカットしたわけでもないらしい。たぶん、もっとテンポが上がれば、2時間は切るだろう。この日はまだ、ちょっとテンポが悪かったもの。と言っても、かなりのクオリティでできあがっていた。いやもう、面白かったよ。よくできたホンだよ。


稽古1

すぐにダメ出しが始まった。頭から順に直していく。30分ぐらいダメ出しが続き、21時20分ぐらいから横内さんへのインタビューが始まった。

まずは作品のこと。

この作品は1991年の春に初演され、かなり好評だったそうだ。あまりに評判が良かったので、その年の冬に再演したぐらいだ。その後、1993年にみたび再演を行い、今回が7年ぶりの4度目の再演だそうだ。この時期、なんでこれをやったのか?

もともと再演希望が最も多い作品だそうだ。横内さんも再演したいと考えていたそうだ。しかし、役者への要求も高く、おいそれとは上演できるものではなかったらしい。難しいんだ。で、初演の時も客演を招いてやったんだとか。そんなこんなで再演しようと思いながらも、7年も経ってしまったという。で、劇団が来年で20周年を迎えることもあり、このあたりでいっぱつやったろう、ということになったみたい。ほんとなら来年の20周年記念でやればいいのはわかっていたが、あえて前年にやることにしたんだと。「で、来年は新しいことをやります。」だってさ。20周年で過去を振り返るのではなく、前を向いた企画をやるんだと。ご存知のように、横内謙介、言うことはいつもかっこいいぞ。

で、そこで出てきたコトバが「レパートリー」だ。劇団として、タビ公演に持っていけるような「レパートリー」が必要なのだそうだ。「新羅生門」はレパートリーになっていて、学校公演も行ったそうだ。その結果、小劇場の劇団じゃ考えられないが、この「新羅生門」は数百ステージの上演実績があるそうだ。確かに、普通考えられない。


稽古2

しかし、この「レパートリー」という考え方に横内さんの「演劇」や「劇団」に対する大人の考え方が見て取れる。すごく重要なことなんだよね。後でまたその話が出てくるんだけど、つまり「ビジネス」ってことなんだ。

ところで今回の作品は再演だけど、横内さんは多作でも知られている。平均すると、年に1.5本は劇団で書いているとか。さらに外部へも作品を提供している。合わせると、年3本ぐらいの新作を生み出している。これって、めちゃめちゃすごいことだ。外部作品って言っても、ニナガワとかRUPとかスーパー歌舞伎とかが相手だから、ハンパな作品じゃない。こんな作家は、他にいない。三谷幸喜だって、ここまでは書いてない。


稽古3

そういえば、今回の公演は、オリジナルキャスト以外に「21世紀ヴァージョン」というキャストがある。一部のメインキャストを若手がやるバージョンだ。2ステだけある。若手といっても、扉座で数年のキャリアを持つ期待のホープだそうだ。この芝居は、オリジナルキャストの方では、劇団を代表する役者である岡森諦さんと有馬自由さんがほとんど出ずっぱりで活躍する。それはそれで大変な役なのだが、それを若手がやるって言うんだ。そこいらのノンキな役者にはやりきれないよ。って言うか、これをやったら役者は育つだろうなあって思う。扉座的にも、20周年に向けて、役者の層を厚くしたいわけだ。ここにもまた、劇団をワンランク高いとこに持っていくという、「ビジネス」を意識した考えが見えている。これって重要なことなんだけどね。

さて、毎回のインタビュー同様、このあたりから脱線が始まる。お話を聞くよりも、意見を言いたがる私の悪いクセだ。しゃべりすぎだっちゅーの。

気がつくと私は言っているわけだ。「劇団の代表作って何になるんですか?」とか。過去に見た作品と比べ、この「愚者〜」があまりにも面白かったので、心配になったわけだ。自分の中での扉座の位置付けと、「愚者〜」の作品の位置付けを確認したいのだ。すると、「新羅生門」「夜曲」「ジプシー」などがあるんだそうだ。私は「新羅生門」と「ジプシー」は見ている。だとすると、やっぱ「愚者〜」は扉座の代表作と言っても過言ではないだろう。大丈夫だよ。他の作品で楽しめなかったアナタも、この「愚者〜」は楽しめるってば。
(なんか失礼なことを言ってないか>オレ)


稽古4

「愚者〜」はね、童話「裸の王様」のその後から始まる。ハダカであることを暴露されて大恥をかいたあの王様のその後だ。大恥って言うか、パニくって、街から消えてしまったんだよね。王としては「終わり」だもんね。で、身をやつしていて、サンチョパンサと出会うんだ。ドン・キホーテになるという・・・。見てると、いろんなことを考えさせるよ。学校とかも出てくるし。

10年前に書かれたものを再演するのって、結構難しい。この10年って、日本は変わってしまったもんね。2年ぐらい前まで続いた10年と、今とが大きく違う。そこいらへんはどう処理したのか尋ねた。やっぱりいじったんだって。「笑い」の部分を削って、よりハードになったんだって。「笑い」とかやってる場合じゃないんだって。「お金もらえるんなら『笑い』もマジメにやるけど、そうじゃないのにそんなノーテンキな芝居やってる場合じゃない」んだとか。うん。ほんとそうだよね。でも、見ていて、今はもっともっとクールだよなあ、って思ったのも事実。金八みたいなのってもうリアリティないもん。はるかに「無関心」だもんね。とか思った。

初日までに、もっとハードに変わるかもしれない。っていうか、役者がそれを表現できるのか・・・。


稽古5

今の演劇状況について尋ねた。まずは気になる劇団とか、役者とか。町田カナさんが気になっているそうだ。リセットNは見たことないけど、町田カナの一人芝居を見たんだって。たぶん、それって「愛のコレブシ」とか言うやつだよね。私も見た。頑張って欲しいんだと。あと発砲B・zinときだつよしが気になるんだと。そりゃあ、ワタシ的にはノーコメントだ!

で、それはそれとして、今の小劇場の状況はどう考えておられるのかを尋ねた。アイドルとかを使ったプロデュース公演がいっぱい動員し、若手の小さな劇団は1000人にも満たない動員で伸び悩んでいるという状況。


スタッフ打ち合わせ

横内さんに言わせると、「ビジネスにしようという意思の問題」だそうだ。「芸術を追求する芝居だと、スポンサーとかがついてそこそこやっていけてる状況があるけど、そうじゃない芝居が食えていないという状況はやばい。才能ある人が食えないというのはダメだ。」だそうだ。横内さんは、「芝居で食う」ということを重視しているんだ。それはほんと重要なことで、そういう意思を持った人が多くないのは確かに問題だよね。いや、「芝居で食べていきたい」「芝居で食べていけりゃいいなあ」と思っている人は少なくない。けど、そのために意思を持って動いている人はほんと少ない。そのギャップは恥ずかしいよねえ。かといって、どうすりゃいいのかわからないんだろうけどね。横内さんのやってることとかを見て参考にすればいいだけなのにね。


ダメ出し

私は尋ねた。「横内さんの芝居って、説教臭いって言われますけど、どう思います?」・・・失礼な質問だ。

横内さんは、顔色を変えずに答えた。「一時、説教臭くならないようにと注意したんですけど・・・やめました。説教臭くてもいいんじゃないかと思って。だから、気にしてません。ハードに行くことにしてます。」・・・いいんじゃないんですか。横内さんのカラーと言ってもいいかもしれないんで、どんどんハードな説教をかまして欲しいもんです。だけど、「愚者〜」は見ていて、説教臭いとか思わなかったし、単に受け手の感性の違いだけかもしれないしね。

「インターネット」のことを聞いた。やってますか?と。前に一度、「えんげきのぺーじ」の掲示板に横内謙介の名で書きこみがあったけど、あれは本人なのか尋ねた。本人だそうだ。あまり意識せずに、あっちこっちを見ているらしく、なにげなく書きこみとかしているらしい。で、横内さんの方から「えんげきのぺーじ」の「ホモ問題」が語られた。以前、「えんげきのぺーじ」で扉座の芝居を「ホモ差別」として糾弾する発言があったのだ。横内さんはその発言は結局読まなかったらしい。「私は、作品に対して何を言われてもかまわないと思っています。それを読みたいともあまり思わないし、反論したいとも思わない。ただ、言いたいことがあれば、直接言ってくれてもかまわないんですけどね。だって、芝居はテレビや映画と違って、その劇場でやっているんだから。そこに私がいるんだから。いる場所がわかっているんだから、そこに来て言ってくれていいんです。言ってくれれば、私も答えますよ。」・・・面白いじゃないか。確かに、居るよなあ。まあ、直接言うのは大変だけどね。でも、本当に文句があるんなら、やっぱ直接言うべきだと思うのは確かだ。目からウロコが落ちたよ。ぜひ、言ってくださいませ。


ダメ出し

ところで、横内さんに突然質問された。「あのー、『えんげきのぺーじ』に『横内会長』っていう人がいるみたいなんですけど、あの『横内』ってのは私のことですか。」と。そうです。横内謙介のヨコウチです。ファンみたいです。「その人は女性ですか?」・・・そうです、女性です。・・・気にしているみたいだ。目が泳いでいるぞ。でも、けっこう嬉しそうだぞ。カイチョーに伝えておこう。カイチョー、狂喜乱舞するぞ、きっと。

そこで、カイチョーに頼まれていた質問をした。「横内さん、美容院はどこですか。」・・・横内さんはけっこう嬉しそうに答えた。「えっと、最近変えたんです。青山の××××(フランス語みたいで覚えられなかったよ)」・・・やっぱ美容院に行ってるんだよな・・・。


ダメ出し

最後に、再び作品のことをお話しした。この時代のことを踏まえて、この作品がどう位置付けられるのか。いまのガキのこととか、ドン・キホーテ的なバカもんのこととか。通し稽古を見ていて、「やっぱエンゲキはアントニオ猪木一人に勝てないんだよなあ」って私は思ったんですもの。横内さんは言った。「この時代って、やっぱダメだと思う。どこで間違えたのか。私はやっぱり、明治維新のときに、坂本竜馬とか西郷隆盛とかが死んでしまったことが失敗だったと思うよ。それで明治は木戸孝允とか大久保利通とか・・・。竜馬とかが生きていたら変わってたんじゃないかなあ。」・・・面白いじゃないか。誰か、竜馬が生きていたという前提の芝居を書いてください。

気がつくと、1時間ぐらいインタビューしていた。15分の予定だったのに。10時をとっくに過ぎていたという・・・。作品に何かあると、見た後いろいろ話したくなるんだよね。ネットで書きこみしている人なら理解してくれると思うけどさ。それにしても、やっぱり作り手の人の話は面白いよなあ。どんどん話してくれるといいのに。そういえば、横内さんは先日、俵万智と「シアタートーク」というトークショーをやったみたいだ。そういうのどんどんやって欲しい。確か1990年の「新羅生門」のパンフに「現実と虚構がどうの、という芝居はもうヤメだ。もっとリアルなことを書いていく。オレは戦うぞ。」みたいなことを書いていたっけ。かっこいいぞって思ったもの。その「戦う姿勢」はすばらしいと思う。外見がヒヨワで、ナルシィな横内さんだが、ビジネス志向とか、ハード主義とか、意外と戦う姿勢なんだよな。20周年を迎え、さらに新たな企画に挑戦していくというし、楽しみだよなあ。商業演劇向けのホンもきっちりこなしながら、扉座というリングの上で、沈滞する社会と演劇界に、がんがん刺激を与えていって欲しいと思います。ほんと、期待してます。

ところで横内さん、やっぱ田中康夫はドン・キホーテなんでしょうかね?


劇団扉座第22回公演
愚者には見えないラ・マンチャの王様の裸
2000年11月2日(木)〜9日(木)
@新宿南口・紀伊國屋サザンシアター
作・演出 横内謙介

出演

岡森諦・有馬自由
石坂史朗・田中信也
犬飼淳治・伴美奈子
鈴木真弓・三木さつき
河合まどか・村内貞介

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