演出 中島晴美氏
いきなりだったんで、何がどうなってんのかわかんなかったです。稽古を見ながら、資料をさらに読み進み(ホームページには稽古場日記が掲載されている)、その作品の背景なども把握していった。台本も読みながら・・。
はっきり言って、エロい芝居です。ニコラス・ライトというイギリス人の描く作品世界は、バカバカしいぐらいのエロエロな男と女のバトルです。エロエロに対しては、アメリカ人だと、罪の意識とかが働き、日本人だと「恥」とか「汚れ」とかになります。これがイギリス人だと「皮肉」とか「照れ」とかなんでしょうか。「笑い」に転化しちゃいますよね。「クスクス笑い」のネタですもの。ほんと、バカバカしいぐらいの困ったやつらが、エロエロな欲望を押し隠しながらも、心理の駆け引きで責め責め責めます。稽古を見ながら、私は「なんでそうなるぅ!」とかツッコミいれてました。
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ストーリー
1890年の南アフリカ。その地で伝道活動をするイギリス人青年ポールくんの七転八倒。土地の美しい娘に惚れてしまい、思わず結婚してしまおうと思ったら、なんと、その地では、酋長さんが結婚する娘をやっちゃってもいい、という伝統があるとか。「初夜権」だ。どんな権利だっちゅーの。ポールくんは思いつめ、この際、先にやっちゃおうかとも思ったが、酋長の魔の手が迫っているのには変わりない。で、駆け落ちる。
が、なんだかんだあって、離れ離れ。お互いに死んでしまったもんだと思い、それぞれ、ゴールドラッシュの地で暮らし始める。が、悲しみで自暴自棄になったポールくんは、そこにいたエッチなおばさんにあっというまにやられちゃう。また、ポールくんのお兄さんのロジャーくんも、土地の大富豪の未亡人の有閑マダムに、成り行きでやられちゃう。こうして、くんずほぐれつの物語が展開していく・・・のか?
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田岡・田代の稽古の後、今度は第1幕第6場、木下・石井のシーンが19時から始まった。木下政治さんは関西の有名小劇場劇団MOPの人だ。活きのいい芝居をする。が、元気に舞台を動き回っていたかと思ったら、気がつくと、石井葉子さんに脱がされてしまっているという・・・そんなシーンだ。このシーンの稽古は21時まで2時間続いた。
中島「うーん・・・そこはぁ・・・」
ほんとは、無名塾の江間直子さん、ニナガワ芝居の常連の大川浩樹さん、道学先生の青山勝さん、それと、かなり面白いとうわさの東京タンバリンの瓜生和成さんの芝居を見たかった私だが、この日はこの木下・石井の稽古に演出家の中島さんがはまってしまい、他を見ることはできなかった・・・ざんねーん。
とは言え、この木下・石井のシーンは、この芝居全体を象徴する面白いシーンだ。失意のどん底のポールくん(木下)が、こういう時は一発やって気を紛らわすしかない、とエッチなおばさんちを訪問する(なんでやねん。お前、伝道師だろうが。いくら落ちこんでるからと言って、そんな・・・)。一方、おばさんとしては、そんな急に、いけませんわ、ってもんですが、ポールくんがかなりのタイプなので、思いっきり動揺してしまうわけだ。が、ポールくんも途中で「こんなことしてちゃいかん」と気づき、右往左往しだすわけだ。で、抵抗を試みるわけだが、方針を定めた経験豊かな熟女の前では、なすすべもなく・・・ちゃんとした会話してるのに、気がつきゃハダカになっている・・・。
まあ、そんな芝居です。深層心理のエロエロ描写が難しいです。エッチな気分を押し隠し、プライドと誠実さでバトルな会話を戦わせます。二人の距離は遠ざかったりするものの、やっぱりエロが好き。どんどんエロが盛り上がって行きます。
見ていて思いました。こりゃ難しいぞ、と。今時、ウラハラな会話って、なかなか伝わらないもんね。男と女ですから、駆け引きはあります。ホンネなんて、そう簡単には出しません。日常茶飯事でやられています。が、舞台の場合、なかなか伝えるのが難しいのが現実です。役者に要求されるものも大きいし、そのイギリス的なセンス自体が偏ってますもの。いや、男女の駆け引きですから伝わるはずです。爆笑の舞台になる可能性はあります。はたして、どこまで仕上げることができるのでしょうか。
中島さんは、稽古の間、ほとんどイスに座っていない。舞台に上がり、役者二人の間に立って、あれこれと指示している。その会話の分析から、性格づけまでも提案している。中島さん自身が女優さんだからでしょうね。二人芝居を三人で練りこんでいく。
中島「そんな感じかしらねえ・・。」
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21時過ぎ、稽古終了。近所の飲み屋に移動し、中島さんにお話を伺った。まずは、1994年以来、6年間も公演が空いてしまった理由。これは、ベニサン・ピットを常打ち小屋としていたライミングにも辛い選択だったようだ。つまり、1995年以降、ベニサン・ピットは「tptの小屋」状態になったからなのだ。
で、今回、TOKYO FMホールと出会ったわけだが、これは特に意図したわけでもないとか。ぼちぼち復活しようかな、と思っていたそうで、たまたま春にこの劇場と出会い、とんとん拍子にまとまったそうだ。とはいえ、6年ぶりの公演ということで不安も多そうな中島さんだ。が、それも新しい役者との出会いが解消してくれそうである。
今回の公演の最大の特徴とも言えるのは、様々な分野から集まった個性的な役者さんが挙げられよう。特に東京タンバリンの瓜生さんがイチオシみたいだ。「こんなバラバラな役者はどっから集めたんですか?」と尋ねてみた。特に何かした、というわけじゃなくて、それぞれ、紹介だったり、別の現場で知り合ったり、ということみたい。それにしてはバラエティにとんでいる。
木下「や、やめてくださひっ!」
中島「へっへっへっ・・・おとなしくせんかい。」
石井「・・・」
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さて、作品についても尋ねてみた。「初夜権ってのは、いまどきの子に通じるんでしょうか。ギャグになるんでないの?」と。中島さんに言わせると、別に「初夜権」を描きたいわけじゃなくて、現代にも通じる男と女の心理戦をやりたいのだそうだ。若い子だって、日常会話でやってるはずだという。ま、そりゃそうだ。ただし、役者がどこまで表現できるのかは、中島さんも不透明のようだ。もちろん、楽日までギリギリの作りこみはやるのだろうけど(中島さんが女優だしねえ)、今回の役者とは新しい出会いでもあり、計算できない部分も多い。古くからつきあっているのは田代さんや関川さんぐらいで、ある意味で計算できるのはこの二人だけ。これってギャンブルかもしれない。けど、「芝居は総合芸術ですから、本が最も重要ですけど、それだけじゃできない。スタッフや役者との出会いこそが人間を豊かにするんです。」という中島さんは、シェイクスピアやニコラス・ライトという完成度の高い作品を「様々な出会い」で膨らますのを楽しんでいるようだ。果たして、あと10日(初日の11/26まで)でどこまで仕上げてくるのか、期待したい。
木下「あの・・・ボクっ・・」
中島「帰さないわよ。」
石井「・・・」
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追伸:
毎度おなじみの質問もしました。「最近注目する若手の劇団・演劇人は?」・・・あまり若手の芝居見ていないんだって。ただ、今回出会った東京タンバリンの瓜生くんはイチオシだそうだ。
続いて「最近のニュースで最も興味深かったものは?」・・・遺跡やらせ事件だとか。ただ、「なんでさ、遺跡発掘のニュースって、新聞の一面トップになるのかなあ。あれがわかんない。そんなに重要なニュースなのかい!」と、叫んでいた中島さんは、かなりおかしかった(中島さんと私と制作の中山さんの三人でかなり飲んでたよなあ)。(さらには酔った勢いなのか・・・)あと、MODEの松本さんが小劇場のご意見番みたいな地位になってることに関して、なんか、めちゃめちゃ怒ってたんですけど、これは多方面にカドが立つかしら。中島さんは突然バトルモードに入って、ファイティングポーズを取ってたんですけど・・・。書いていいんでしょうか?と尋ねたら、「書いて書いて!」だって。いや、この人(中島さん)、かなりバトルな人みたいだぞ。ファイターだし、あと、ギャンブラーかもしれないね。
なお、FSTAGE特別割引の特典をいただいた。ラミングのHPより申込み、かつ申込みフォームの「その他ご要望事項」欄に「FSTAGE割引」と書くのが条件。値段は前売5000円(当日5300円)が4300円になるという。前売よりもずっと安い。お得かもしれない。
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劇工房ライミング第23回公演
ザ・カスタム・オブ・ザ・カントリー
(THE CUSTOM OF THE COUNTRY)
2000年11月26日(日)〜12月5日(火)
@TOKYO FMホール
作 ニコラス・ライト
演出 中島晴美
出演
田代隆秀・関川慎二
田岡美也子・江間直子
大川浩樹・鍛冶直人
木下政治・青山勝
瓜生和成、他
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