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にんじんボーン稽古場訪問第二弾(下)

17:00、晩飯。出前とかを取る。で、夜の稽古は18時半から始まるのだが、それまでの1時間半の間に、すごいことが起きた。私は笑い転げていたのだけど・・・。

何がすごいって、「ミニにんじんボーン」という稽古・・・遊び・・・現象・・・なんか、そういうやつ。どんなことをやっていたのかというと・・・。

稽古でキツイダメ出しくらったやつとか、「次、うまくできなかったら、そのセリフカットするよ」とか、けっこう追い詰められている若手とかが何人かいるわけです。だもんだから、若手はけっこうシビアなムードも引きずりながらのメシタイムなわけです。そこに、宮本さんと村越さんという二人の悪魔が忍び寄るわけで・・・。

最初は何が起きたのかわからず、私は絶句しましたよ。いや、すぐ理解しましたけど。

若手の一人が大きな声で言ったんです。「宮本、ちゃんとオレの芝居見てくれよな。」と怒って。

また、別の若手は「成田はうまいよ。オレの芝居、食われるぜ。」とか吐き捨てるように言う。別の女優は「お前の芝居が下手だからダメなんだよ。」とか。すごいシビアな言いまわしで言うの。でも、これ、全部、宮本さんとか村越さんが横で耳打ちしてんの。若手の言いまわしがかなりうまいもんだから、すげえおかしいの。でも、言ってる若手は顔が引きつっているのだったりして。

良く解釈すれば、ダメ出しのシビアなムードを払拭する効果があるといえるのかもしれない。いや、言えないだろうな。よくわからない。若手にとってはシビアであることは変わらない。実際、村越さんが寄って来ると逃げる女優もいた。・・・逃げるよ普通。

でも、見ていた私は楽しかった。これって宮本演劇の最大の特長である「相対化」を表現していると言えないか。こういうの、双数姉妹あたりが舞台でやりそうだ。いや、やってたかもしれない。でも、こんなシビアな状況でのリアルなセリフじゃなかったと思うけどね。こういうのって、大笑いできることも重要で、見てるもんが引きつる可能性もあるわけだし。私はめちゃめちゃ楽しかったよお。いやあ、これを舞台で見たいよお。

ミニにんじんボーン、侮りがたし。

17:40、食事も終わり、夜の稽古までの間、宮本勝行トークショーが始まる。また、いろんな稽古のこと。どうやら、3章の頭って、稽古しているシーンの前があるみたいだ。でも、そこは稽古しない。芝居に慣れないよう、稽古をしないシーンっていうのがあるんだ。

18:40、3景。蒲田さんが到着したので、正規キャストで通す。こんなこと言うと、蒲田さんが気を悪くするかもしれないけど、宮本さんの抜けた穴は大きい。同じ芝居なのに、ノリが全然違う。見てて、寝そうになる(長丁場で疲れたのかもしれないけど)。

だけど、蒲田さん以外もそうだけど、テンポアップするところと間を取るところとがあいまいで、メリハリがつかなくなった。

19時過ぎに3景、終わる。ダメ出し。宮本さんの言ってることは「バカな芝居しちゃだめだ」ということ。細かいダメ出しを聞いていて、そこで行われている芝居のダメ出しというよりは、今の世の中に「バカな芝居が多すぎる」と言っているように聞こえてきた。世の中にいっぱいある「相手のセリフを聞かない」「発声だけをやっている」「ベクトルがはっきりしない」「間があいまい」な芝居に対して、ダメ出しというか、怒っているように思えた。ってゆうか、そういうダメな芝居があることを前提に、「そういう芝居をするな」と言っているわけだ。でもって、そこにいる何人かの若手役者は、「そういう芝居が芝居」だと思っていたわけだ。そこが問題なんだよな。世の中には、そういうダメ芝居を芝居だと思っているのが、あまりにも多いんだ。そういう「演技」を否定する人が少ないのが問題なんだろう。作り手も、観客も、あまりにも否定しないんだもの。

まあ、それまでゆるゆるの芝居をやってきた役者が、突然、ここに来て100のうち、99以上を出せ、と言われるのは厳しいだろう。宮本さんが要求しているのはそういうことだ。100を出せ、というのは当然なんだけどね。

宮本さんは言った。「3500円なんだよ。安くないんだよ。どうすんだよ。」と。言われた役者はきついよなあ。

19:45、4景の通し。

憩居ちゃんの芝居を見ていて、いろいろと明確になってきた。宮本さんの言っていることが、憩居ちゃんの芝居から理解される。私は彼女とかつて稽古しているので、彼女の芝居を知っているからだろう。

彼女は、そのキャラクターをだいたいは把握しているだろう。でも、内側はだいたいじゃだめなんだ。明確になっていなければ芝居にならない。そのシーンにそのキャラがどうなるのかを明確にしないと。なんとなくで喋っている。うれしいとか、むかつくとかは明確な気持ちだ。ホンが表しているのは明確だ。それを表現しないと。

他の子もそうだ。セリフにはなっているんだけど、コトバにはなっていない。人間は普通コトバを喋る。明確な内側があって、コトバがでてくるんだ。普通ね。つまり、セリフを再現するんじゃなくて、内側を再現するんだ。ちゃんと伝えようという意思も重要。伝えようとしてないもんなあ。

20:15、通し終わり。ダメ出し開始。

20:30、おしまい。すぐにビール買いに走る。着替えて宴会。

21:00、宴会開始。

若手の芝居について、あーだこーだと。で、私から一点だけ質問した。つまり、稽古の途中で、役者が「台本見てもいいですか?」と宮本さんに尋ねたら、「だめ」と答えたのだ。台本は見てはいけないみたいなのだ。で、私は、通しが間近だから、という意味なのかとも思ったのだが、それにしては・・・・。

で、驚いた。なんと、にんじんボーンの役者さんは、個人の台本を持っていないんだと。プロンプをつけるための台本というのが数冊、コピーしてはある。スタッフ用も必要だ。今回は再演ものなので、台本というのは存在するわけだけど、役者個人に台本は渡されていないんだ。うちに持って帰ることはできない。稽古の最中も、台本置き場というのが決まってあり、そこに役者がチェックしにくることはあった。でも、個人のものじゃない。

その理由は、「うちに持って帰って役作りとかされたら大変ですから」だと。確かに作りこまれても困るだろう。余計なことはしなくていい、ってことだ。チェンジオブディレクションだけをすればいいわけだ。

それと、「台本を読む」ことで「セリフ」になっちゃうことを恐れているんだと。だから、口立てで作るんだと。次のコトバが生まれる状況を理解しながらホンを入れていく、ということだ。

これは、作る段階ではとても大変だ。セリフを覚えてきてもらったほうが速いだろう。でも、やっぱそれだと「セリフ」になるもんなあ。でもって、役者は口立てでセリフを与えられるんだから楽だ、なんてとんでもないな。そのコトバが生まれた状況を記憶しておかないと、再現なんてできっこない。大変だよ。でも、言い換えれば、その状況さえ覚えておけば、似たようなコトバは出てくるわけだ。宮本さんも、似たようなコトバであればなんでもいいんだって。

すごいなあ。台本を最初っから渡さないなんて・・。セリフを暗記したら、もうダメだってことだ。逆に言うと、そうやって作ってきた芝居なのに、段取りでセリフを言ってた子って、何をやってるんだ!ってなもんだ。やばいぞ。まあ、「セリフじゃなくてコトバだ」とか、「チェンジオブディレクションだ」とか、「内側をアイマイにするな」とか、「セリフじゃなくて状況だ」とか、そういうことを理解しているかどうか、なんだろうなあ。「相手のセリフを聞け」とか言うけど、聞くもなにも、口立てでコトバを生み出しているときに、ぼさーっとして与えられたセリフを暗記していたら、もう終わっているってことだ。でも、普通のダメ芝居しかやってこなかった子は、必死で暗記するよなあ。セリフを間違えないことが自慢だったりするもんな。忘れると怒られるし。・・・怒られるのかなあ。稽古の過程で忘れても、どうってことないんだけどなあ。

宴会の後半、酒が回ってきた役者が、こんなことを言ってた。「なあおい、ダメ出しで言われたことの意味、わかる? セリフ聞いて、とかってわかる? ま、無理だろうなあ。わからないだろうなあ。そっちのが芝居だと思っているんだもんなあ。」 問題は、そこだ。私も思うよ。キミたちがやってきたのは芝居じゃないんだよ、と。そんで、それを一から教えているヒマはないんだよ、と。続けて言っていた。教えなくてもできるやつと、教えてもできないやつがいるんだよ、と。

11:00、文学座研究生のかわいい子が話題の中心になり、ほとんどコンパ状態になってきたので私は撤収することにした。最後にちょっと若手に対してきついことを言ってしまったけど、まあ、酒のせいだということで・・・。しかし、「こっち側の芝居」というのを、残りの1週間でどこまで上げてこれるのだろうか・・・。ある意味で楽しみだし、不安でもある。毎回、女優が入れ替わるにんじんボーンだが、やっぱ役者は「打たれ強くないとならない」って思う。厳しいことを言いまくられるけど、頑張ってついてくれば、すごく成長できる場なんだから。ひらき直ればいいわけだ。「できるか降ろされるかの、どっちかしかない」のが役者なんだから。だって、来年には「小津連続上演」が控えているし、これからのにんじんボーンは面白いことになるに違いないもの。秋の宮本さんの新作も楽しみだしね。さて、本番は・・・。

(次回は、秋の公演前に、チャンスがあれば、役者さんを中心にインタビューしたいなあ)

(「小津」を作ったときのエピソードとかもいっぱい聞いたけど、それは来年までのお楽しみ)

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