昨年の11月公演に続き、またしてもにんじんボーンの稽古場を訪問してきました。前回は宮本さんロングインタビューでしたが、今回は、ひたすら黙って、稽古場のスミっこで一部始終を見学してました。メモをとりながら。10時間も・・・。
にんじんボーンの今回の公演は4月25日(火)が初日。作品は「い・い・ひ・と」。95年の作品の再演だ。再演と言ってもキャストは大幅に変わっている。その初日の1週間前である4月18日(火)に訪問した。翌日からの通し稽古を前にした、最後の小返し稽古である。後半部分を反復して稽古していた。以下、時刻を追って、その稽古の模様をレポートしていく。いろんな発見があったんだが、それは全部を読んでいただきたいと思う。はたして、何行のレポートになるのか・・・。(上下2回にわけます)
(文:一寸小丸)
にんじんボーンpresents 「い・い・ひ・と」
4/25(火)〜30(日) 下北沢駅前劇場(03-3414-0019)
前3500円 当3800円(平日19時、土日15時・19時)
問:オフィスタップス0422-22-5641
作・演出:宮本勝行
出演:
山口雅義、村越保仁、飯田茂、憩居かなみ、成田めぐみ、秋山恭子、蒲田哲、原寿彦、唐木恵子、川上麻里恵、石塚くん
4月18日(火)13:00、稽古場着。
荻窪の稽古場についたのは13時ちょっと過ぎだった。この日、どんな稽古がなされているのか、全く知らなかったので、どきどきだった。今回の公演に関して、私が知っていたのは、作品が再演であることと(初演を見ている)、キャストが大幅に変わっていること。昨年の公演のメンバーとも大きく変わっている。そのことは、DMのキャスト欄で知ってたわけだ。そして、今回のメンバーの中には3年ぐらい前に一緒に芝居をやった憩居ちゃんが入っている。なんで彼女が入っているのかわからない。少なくとも、3年前にはかなり大変だったのを覚えているので、にんじんボーンの稽古についていけてるのか・・・かなり心配。
稽古場に入ると、既に9人ぐらいが動いていた。今回の出演者は11人。当初予定だった千野ありさという人が降りて、代わりに川上麻里恵という子になっていた。前回同様、キャストはもめているみたいだ。
翌日から通し稽古になるということで、最後の小返し稽古だとか。また、メインキャストである蒲田さんが、今日は18時ごろの入りとか・・・。
ということで、13時の時点では、メシを食ってた。テレコからBGMが鳴っている。FMをそのままかけていた。その後、CDをかけたが、選曲は憩居がやっていた。憩居が持ってきたCDをかけていたのだった。うーむ・・・。憩居ちゃんは、3年前は、ぷくぷくしていたが、かなりやせていた。アメリカいったりしていたんだが、1年ぐらい前からまた芝居漬けになってるそうだ。それでも、宮本さんに「もっとやせろ」とか指摘されていた。
にんじんボーンに出演する女優は、毎回、かわいい子が多い。今回も、そこそこ水準は高い。でも、今回はモデル系の子は残念ながら、いない。見た目、最も可愛いと思った子は、東大出の才媛だった。芝居は・・・。
14時頃に、憩居ちゃんの友人という子が見学に来た。めちゃ可愛い子だ。文学座の研究生だそうだ。しかし、「文学座の研究生」って多くないか最近。聞いたら、昼夜それぞれ40人ぐらい毎年採っているとか。十六夜社からショーマに行った木津もだっけ。
13:20、台本コピー部隊が出発。だが、宮本さんの指示は、五部とか。なぜ五部なのかこの時点では不思議だった。後で、その理由がわかる。なぜ人数分の台本を作らないのか・・・。
メシ食ってるやつもいるが、肉練しているやつも。各自バラバラにトレーニング。その間、宮本さんから新人役者さんにあれこれ質問。コミュニケーションタイムだ。
ちょっと前まで学生サークルにいたという子がいた。そこで、宮本さんが、サークルではどんなことをやるのか質問。でもって、それに対する宮本さんのコメントがおかしい。曰く、「マラソンとかやってんの? 発声とかやってんの? 発声とかやんない方がいいよ。みんな同じ声になっちゃうからね。」だって。
面白い。ほんとだよね。発声とかやって、「いい声」になると、ほんと同じ声になっちゃうもんね。個性殺しちゃうもんね。まあ、でかい声は出ないとなんないけど。
でもって、宮本さんが加藤健一事務所の養成所時代の話しになった。一期生だったんだとか。1期生だもんだから、いろいろ試行錯誤があったらしい。でもって最初のうちの授業は、毎日ドッヂボールだったとか。朝、稽古場に行くと、すぐに近所の公園に行って、ずっとドッヂボールをやってたんだって。宮本さん曰く「加藤健一なんて、顔でかいからバンバン当てたよ」・・・ありそうな話だ。
で、役者の原くんとか、見学者の子とか、憩居とか、みんなの繋がりが披露された。どうも、ワークショップ繋がりが多いみたい。そこで出た名は、サードステージとか、音楽座とか、東京セレソンとか・・・。なんか、いっぱい劇団名が出た。
いろんな劇団のいろんな稽古について、宮本さんがコメント。基本的に気持ち悪い、という一点で統一。芝居芝居した稽古を完全に否定している。この時、私はノートにこうメモしている。「いわゆる演劇の稽古の気持ち悪さはみんな知っている。さて、で、それを否定するとして、そうじゃない『方法論』『メソッド』はあるのか。もちろん、それらの稽古を『気持ち悪い』と指摘できることも重要なのだけど」と。私も全く同意しているわけです。絶対に「気持ち悪い」と。そう同意する人は多いはず。だけど、それに対しての新しい方法論はあるのか、と思った。はたして宮本さんは、この日の稽古で何を見せてくれるのか、と私は思ったわけだ。回答があるとは思ってなかったけど。
14:15、3景を頭から通す。この芝居は全4景である。
で、メインキャストの蒲田さんがまだ来てないので、代役を宮本さんがやることになった。代役と言っても、初演の時の宮本さんの役だとかで、めちゃめちゃセリフが入っていた。でもって、私はすごくラッキーだった。だって、宮本さんはもう役者やらないと言ってるわけで、でも圧倒的にうまい宮本さんの芝居が見れたわけだもの。ほんと、面白かったなあ。はっきり言って、これを見れないお客さんは・・・ざんねんねー。
さて、初演を見ている私だが、宮本さんアリのこの芝居はめちゃめちゃ面白かった。山口さんもすごく面白い。初演よりもずっと面白いんじゃないのか? まあ、宮本さんと山口さんを除くと、ずいぶん落ちるんだけどね。なんで、こんなに差があるんだろう、とか不思議に思うぐらいだった。
30分弱の3景が終わり、細かいダメ出しがあった。と言っても、その前半は宮本さんは役者で出ていたので、おのずと後半中心のダメ出し。宮本さんのダメ出しに対し、役者が「すみません」とあやまったら、宮本さんが「あやまらなくていいから、やってくれよー」と言ってた。そうそう。なにかっていうと、すぐあやまるんだよなあ。あやまって済むことじゃないんだから、あやまる必要ないんだよなあ。役者は演出家に教えてもらっているわけじゃないんだから、「あやまる」のは変なんだよなあ。できなかったら、「くそー」って思えばいいわけで、次に間違えなければいいわけだ。で、次も間違えるようなやつは、降ろされるわけだ。それだけのことだ。
ダメ出しが終わり、ちょっと休憩。で、宮本さんが文学座研究生に、文学座のことをいろいろ尋ねる。にんじんボーンの前身の僕らの調査局時代に、よく文学座パロディをやっていた宮本さんだが、どうやらかなりの文学座フリークだったみたいだ。一時期、いっぱい見ていたらしい。で言ったのは、「文学座は、別役ものとかやるとすごく上手かったよ。でも、つかはダメだったなあ。文学座のつかはちょっとなあ。」いやあ、なっとくだよなあ。
加藤健一養成所でも、清水邦夫とかやらされたらしい。そんときの稽古のことを思いだして、わけわかんないセリフのやりとりとかを再現してみせた。再現しておいて、「わけわかんねーよなあ。」と。ってゆうか、おかしいよね。
15:40、3景を再び。ダメ出しされたところを注意しながらだ。
やっぱり宮本さんと山口さんが圧倒的に楽しい。他の子がキャラをきっちり演じているのに対し、この二人はめちゃめちゃ過剰なんだ。普通にセリフを再現しても、見ている側は楽しめないわけで、そこが全然違う。ホンを忠実に再現してもつまらないとすれば、ホンが悪い、とかなるわけだが、そうじゃない。ホンが描いているキャラクターの広がりを表現してないんだ。「過剰」といっても余計なことをしているわけじゃない。そのキャラクターに起きているパニックとかを、きちんと表現しているだけだ。そこから逸脱しているわけじゃない。一挙手一投足の動揺が伝わってくるんだ。だけど、他の役者は、一瞬セリフを聞き流してしまいそうになる。いろいろおいしいセリフもいっぱいあるのに、ほんともったいないよ。
16時過ぎに終わり、再びダメ出し。宮本さんのキツイダメ出し。「〜さん、あそこが全然ダメですね。」・・・これ、キツイよなあ。思わずそう言ってしまう気持ちもわからなくないけど。やっぱ、役者たるもの、打たれ強くないとならんよな。
山口さんの「変化」を注意深く見ていた。ぽんぽん変化するんだ。その変化=動揺が見ていて楽しいのだけど、これって何なのか?
気づいたのは、ベクトルの明確な変化だ。つまり、セリフを飛ばす対象を明確に変化させている。ベクトルってのは、大きさと方向だよね。その「方向」が明確なんだ。そこにあいまいさが全くない。方向が明確であれば、10の力で言うせセリフを15にデフォルメしても問題ない。もちろん、間は重要。間さえ間違えなければ、方向を明確に返せば、オッケーなわけだ。宮本さんはそれを「切り返し」と表現していた。別役の時代なら「対応」といったやつだ。
ベクトルを合わせ、相手(対象)によって変化させ、切り返すわけだ。
16:25、4景開始。見ていて、「ベクトルの変化」「切り返し」とかというよりも、「チェンジオブディレクション」というフレーズが思いついた。私は中学高校とバスケット小僧だったわけで、バスケの基本はチェンジオブディレクションなわけだ。いかに急激に方向を変化させることができるかだ。その稽古を必死でやったもんだ。そんで、捻挫しまくったわけだ。足首勝負だからね。
宮本さんが言ってるのは、チェンジオブディレクションだろう。その変化の瞬間が面白い。そこがワクワクさせるんだ。それができないと、なんだかわからない芝居になる。
17時前に、4景終了。思いっきりダメ出しが入る。憩居ちゃんの芝居で、ちょっとどうかと思う瞬間があった。もちろん憩居ちゃんだけじゃなくて、他の子もダメ芝居の瞬間はあったんだけど、でも、ちょっとヒドイ瞬間があったんだ。そこを思いっきりダメ出しされていた。
そこは、本来の間なら、がんがんたたみかけるシーンだった。前の人のセリフに乗っかって、盛りあがっていくシーン。なのに、憩居ちゃんは、間があいて、よくわからないセリフ回しで「フォロー」していた。見ていてびっくりした。
でも、なんか、そういう変な間とかがビシバシチェックされる。あいまいなセリフは、「ダメ」とか、「バッカだなあ」とか、「やばいよ」とか言われる。これは大変だ。言い間違いが許されないんだもの。「ちょっと失敗」とか許されないんだもの。ダメ出しというより、「キャスト変わる?」とかつっこまれる。実際、前回も今回もキャスト変わっているし。緊張するよなあ。(役者は育つよなあ)
宮本さんが何度も言ったことは、「こういう雑な芝居は雑にやっちゃだめ」ということ。「雑な芝居」というのは、わいわい大騒ぎになる芝居ってことなんだけど、テンポとかノリとかでたたみかける芝居の場合、ノリでわーわー躁状態になると、時として雑になるわけだ。だけど、それはサイアクだ。1個1個の丁寧なセリフで躁状態を生み出さなければならない。でないと、何がなんだかわからない大騒ぎのシーンになっちゃう。お客さんは「ノリが良くて楽しかった」とか言っちゃう。「笑った笑った」とかアンケートに書かれちゃう。そうなったらおしまいだ。そこがポイントだよな。
で、憩居ちゃんの芝居の変な間について、あれこれダメ出しが続く。結局、相手のセリフを聞いていない、というひとことに辿りつく。これは、憩居ちゃんの3年前からの課題でもあった。このことを私も言っていたっけ。そこそこうまい芝居をする憩居ちゃんだが、相手のセリフを聞いていないから、意味が通じない瞬間があったんだ。そこをずいぶん言ったんだけど、変わってないなあ・・・。
結局、相手のセリフを聞いて喋る、というのは基本中の基本なんだけど、とっても難しいことでもあるんだよね。もちろん、それができないのなら、芝居をやる資格がないんだけどさ。
17:00、晩飯。出前とかを取る。で、夜の稽古は18時半から始まるのだが、それまでの1時間半の間に、すごいことが起きた。私は笑い転げていたのだけど・・・。
(「下」へつづく)
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