週刊StagePowerTopPage
日刊StagePower

乾坤一滴
NYの日本人俳優
西山水木の使い方

野平総研!!
テレビ文芸時評

レコメンの殿堂
お気楽鑑賞記
目撃者
TheStageTribune
特集:さいたまGT
特集:小劇場史
週刊SP企画室

NEWSバックナンバー
過去の連載・記事
取材のお願い
Onlineインタビュー
このサイトは?
30-DELUX稽古場訪問
2006年5月公演
「オレノカタワレ」
@新宿シアターサンモール(大阪公演あり)
(文責:じんぼまさのり)

2003年1月に旗揚げした30-DELUXは、いきなり青山円形劇場でやり、その後はシアターVアカサカ、青山円形、シアターサンモールと、過去4回の公演がでかい劇場ばかり。どういう劇団なんだろうと、不思議だった。そもそもが、元MOTHERの清水順二と新感線のタイソン大屋とキャラメルボックスの佐藤仁志とアフロ13の佐々木智広が集まって作ったグループ「ギリギリボーイズ」がベースなんだと。小劇場界で活躍していたメンバーが揃ってるだけに、旗揚げ公演で1700人を動員し、あっという間に2000人超劇団に成長した。豪華な客演陣も目立つし、作・演出を毎回外部から招いているのもかっこいい。それにしても・・・。

名の売れた劇団の出身だからといって、そう簡単に動員できるわけではない。だいたい、客演を呼ぶのだって大変だし、作・演出を頼むのだって・・・普通断られるだろ。だって、選ばれた演出家さんは、今をときめく若手劇団の俊英だもの。いったい、どういう「交渉人」が介在しているのか・・・。

んなことを感じながら、5月8日月曜日夕方、都内某所の稽古場を訪ねた。プロデューサー担当の清水さんと、演出の毛利さん(少年社中)がいろいろ答えてくれた。


清水順二さん(稽古中!)


こっちで考えていた取材のポイントは三つ。

  • 毎回、作・演出・役者が変わるけど、それでいいの?
  • 毎回、個性の強い役者(それぞれの劇団の中心役者)が集まってて、ちゃんとまとまるの?
  • キャラメルや新感線を知ってるのに、ほかにどんなエンタメ芝居をやるの?(ジャニーズ演劇に勝てるのか?)

ということ。これを踏まえながら、30分以上お話した。で、わかったよ。すべてのカギは目の前にいる「清水順二」だな、と。

30-DELUXは、2002年春に、プロデューサー担当の清水順二さんが、バラバラに活動していた三人に声をかけて集まり、ギリギリホーイズを結成したところから始まっている。清水さんは、ひたすらかっこいい芝居をやっていた劇団MOTHER(2002年解散 作・演出はG2、升毅や牧野エミらがいた)に最後の4年間在籍。MOTHERって東京・大阪で5千人ぐらい動員したんじゃないかな?

集まった4人は全員が30歳直前。「30って、演劇人としては境目なんですよ、いろんな意味で」と清水さん。・・・そんなこと、気がつかずに30越えて来ちゃったよ、私。で、このグループを「ギリギリボーイズ」と名づけ、公演ユニットとして翌年(2003年)30-DELUXを旗揚げした。

その旗揚げ公演「MAYA−K」はメンバーの佐々木智広(アフロ13)が作・演出を担当したが、脚色協力として早くも外部から田辺茂範(ロリータ男爵)を呼んでいる。キャストもロリ男のほか、桟敷童子や少年社中、俳優座などから。その後、第二回公演「マホロバ」ではイノセントスフィアの西森英行氏、第三回公演「イエロー」では少年社中の毛利亘宏氏、第四回公演「BIRDS」ではTOON BULLETS!の浅沼晋太郎氏を作・演出として迎えている。

聞いてみた。「毎回、作家や演出家が違うと、固定客の獲得に障害にならないのか」と。劇団のカラーってのが見えないんじゃなかろーか、と。

清水さんは「役者を見せる芝居をやりたいんです。作風は固定したくないんです。」と。清水さん自身が役者であるためか、かなり「役者」にはこだわっているようだ。ただ、作・演出を変えるのは、それだけの理由でもないみたい。だって、誰でもいいってわけじゃないようだから。思わず聞いた。「どっから連れてくるの?」と。

今回の「オレノカタワレ」の演出を担当するのは第3回に続いての登場となる少年社中の毛利氏。少年社中と言えば、注目度の高い若手劇団だ。東京オレンジ以降、いまいちぱっとしない早稲田劇研出身組で、唯一高い評価を受けている劇団。出会いは清水さんが少年社中の殺陣を担当してたことがあったからだとか。清水さんはプロの殺陣師でもあるのだ。宝塚歌劇団や氣志團ライブの殺陣もやってる。


演出の毛利亘宏さん

清水さんは言う。「才能のある若い劇団の作家とか演出家と一緒にやりたいじゃないですか。外部から連れてくるって言っても、自分らよりも上の世代のえらい人とやるよりは楽しいじゃないですか。」と。

私はつっこんだ。「ふふ〜ん・・・あの、前回公演の浅沼さんって、誰ですか?」と。

清水さんは身を乗り出した。「えっ、知らないんですか。TOON BULLETS!の浅沼晋太郎って、すんごくいいんですよ。三谷幸喜に匹敵するシチュエーションコメディを書くんですよ。知らないんですかっ!」

めんぼくない。知らんかったですよ。(後で何人かに聞いたら、けっこう評価が高かった)


稽古中!

要するに、才能ある若手とやりたいのだ。役者もまた、知るひとぞ知る存在のひとが多数参加している。第二回公演以降も、遊気舎、X-QUEST、カプセル兵団、リリパットアーミー、転球劇場、花歌マジックトラベラー、TEAM発砲・B・ZIN、キャラメルボックス、その他タレント、アクションスターなどなどが参加している。

「けっこう、芝居をいっぱい見ています。で、終演後のロビーで声をかけるんです。今度のうちの芝居に、あなた、出ましょう!・・・と」

いや、ほんとはたぶん「出ませんか?」と尋ねるんだろう。だが、清水さんの勢いだと、「さあ出ましょう」と言ったとしか思えない。自分の目で見つけ、交渉する。かなり芝居を見ているみたいだった。


稽古中!

「イキのいい若い役者と、若手の才能のある演出家や作家を出会わせて、きっちり環境を整えて作れば、面白いものができると思うんです。」と清水さんは言う。それはそうかもしれない。がしかし・・・それは難しいよねえ。バラバラ、ぐちゃぐちゃになっちゃわないか?

「いや、それはコミュニケーションの問題もあるんですよ。ちゃんと意思の疎通を図らないと。それに寄せ集め集団って言っても、中心になる4人は徹底的に話し合い、シンをしっかり固めてますから。」

なるほど。中心にゆらぎがないことは重要だ。普通の劇団はそれを一人の主宰がやるんだけど、3〜4人でやるのは効率的かもしれない。「たいがい、個性の強いやつってのは、客演だと一応我慢するんです。でも、本番直前になって爆発しちゃったりする。だから亀裂が入るんです。主宰も忙しかったりしてコミュニケーション不足になる。うちは、私がアレでも担当がいますから。」・・・うまい手だ。

稽古を見てたら、演出家は芝居作りに専念していた。役者間のコミュニケーションというわずらわしいことに時間を取られないのは、幸せなことだよな、確かに。


稽古中!

それを踏まえて私は尋ねた。「今回の核心になる質問を。えっと、どんなに優れたアクションがあっても、どんなにイキのいい演出家や役者が集まっても、ジャニーズエンタテインメントにはかなわないんじゃないの?」・・・なんか、むちゃくちゃな質問してると感じながら・・・。

この30-DELUXはエンタメ芝居です。アクションもあり、シンプルでわかりやすい芝居を作ってます。毛利さんが「少年社中よりもわかりやすいものって意識あります」と言ってた。だからこそ問いたい。新感線やキャラメルボックスというエンタメの王道を行く劇団のことを知っているのだから。あれとかこれとかに、勝てるのかい?

清水さんは「演劇を初めて見るお客さんに楽しんでもらいたい」と言う。私は、「今のお客さんは、ジャニーズのとかモーニング娘。のとかアイドルタレントが出てるハデな芝居とかを多く見てるんで、それと比べられるんですよ、エンタメ系は。」と問いかけた。


稽古中!

清水さんは答えた。「そうなのかなあ。確かにうちの芝居も、そんなに芝居を見たことのない人が見ても楽しめるものを目指しています。初めて見た芝居がうちので、それで楽しかったと言ってもらいたいと思ってます。で、ジャニーズのを見に行くお客さんって、芝居を見に行くって感覚とは違うんじゃないのかなあ。」

それは確かにそうかもしれない。30-DELUXが意識しているのは、そんなに芝居とか見ないお客さんだとしても、少なくとも「芝居を見に行く」という意識を持った客だ。そういう普通のお客さんだ。「そういうお客さんだけでも、1万人ぐらいはいると思うんですけど。」・・・そりゃいるだろうけど。


稽古中!

言ってることは理解できた。でもなあ、「滝沢演舞城なんて、あんなことやこんなことまでてんこ盛りでやって、それでも足りなくて劇場まで燃やしてるんですから。勝てないっしょ。」なんて言ってしまった。

清水さんと話していて、「どんな芝居をやるんだろうなあ?」と素朴に思った。言ってることを勝手に翻訳すると「舞台を見物に来た客じゃなくて、芝居を観に来た客に届けたい」ということだろう。それだけの内容があるのかどうか。

で、お話した後で稽古を見ていたら、かなり熱いものであるような感じ。エンタメ系と言っても、勧善懲悪でも予定調和でも人畜無害でも思考停止でもないみたい。まあ、あの稽古だけじゃよくわからないけど。


稽古中!

「わかりやすい芝居」って確かに誤解される。単純に悪が滅ぶんだったらアメリカの繁栄はないわけだし、気の毒な人に気の毒だね、と言って幸せになる世の中なんてどこにもない。現実の世の中も人間も、それほどわかりやすいものじゃないんだから。それでもシンプルなテーマをシンプルに届ける芝居は作れるわけだ。しかし、そういうホンを作るのは大変だよな。

「ホンは6回直しました。」と。今回は作家も別の人を抜擢した。大手の舞台も担当しているという売れっ子の米山和仁氏の書き下ろし。名古屋でブレイクし、2004年に東京に本拠を移した劇団ホチキスの人だ。その人に6回、書き直しさせたという。エンタメ系って、ホンが弱いことが多いから、このこだわりは期待できる。


稽古中!

◆ ◆ ◆

ひとりのパワーのあるやつが中心になり、役者を集め、作家や演出家まで呼んできて、娯楽性の高い公演を行うことは可能だろう。作家性の時代じゃないって言われているし。で、実際、いくつかのユニットがそれなりのクオリティの高い公演を行い、興行的に実績をあげている。しかし、新感線やキャラメルボックスのような「ブランド」にまではなっていない。それなりに評判になり、それなりにお客をつかまえることはできたのに、続いていないのだ。大きな劇場で公演するまでに拡大できたのに。なんか、寂しい。小劇場にこだわった前衛的な演劇の苦境が続いているので、そろそろエンタメ系のプロデュースユニットの成功事例が出てきて欲しいと願っているのだが。というか、ばりばりの小劇場のメンバーだけで、わくわくするような芝居を生み出し続けるユニットの登場を楽しみにしている。新感線やキャラメルボックスは確かにクオリティの高いエンタテインメントを生産しているけど、以前よりは「熱さ」が弱まっていると感じているんで。さてさて、この30-DELUXはどうだろうか。寄せ集めユニットで、ちゃんとまとまっているのかしら。熱いものが届けられる芝居に仕上がっているんだろか。「継続性」が持てるシステムとなっているんだろうか。どうだろうか。

30分インタビューして、稽古を2時間見て、やろうとしていることの面白さは理解できた。実際、うまくいけてるのかどうかは・・・わからない。やっぱりできあがりの芝居を見てみないと。公演を見れば、チームワークやシステムの達成度がわかる。帰りぎわに、「とりあえずもう一回、稽古をみにきます。芝居の全体が見える段階のを、見たいんで。」とお願いした。スケジュール、合うかなあああ。

>21日「通し稽古を見て」


30-DELUX

少年社中

30−DELUX
The Fifth Live
「オレノカタワレ」
2006.5.24〜28
 東京新宿シアターサンモール
2006.6.2〜4
 大阪日本橋インディペンデントシアターセカンド


週刊StagePower / 取材募集 / 企画室INDEX