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2008.1.15
特集:さいたまゴールド・シアター本

平凡社新書の「蜷川幸雄と「さいたまゴールド・シアター」の500日 平均年齢67歳の挑戦」を読んだ。書いたのは、橋田欣典(共同通信さいたま支局デスク)、須賀綾子(共同通信さいたま支局記者)、強瀬亮子(埼玉新聞取材班記者)。共同通信が配信したニュースと、埼玉新聞の連載企画「輝く日へ」がベースになっている。735円。

内容は、蜷川幸雄が2005年11月に「高齢者劇団」の構想を切り出したところから始まり、記者発表、募集、オーディション、劇団結成、稽古開始、2回の中間発表、本公演(2007年6月)、そして2007年9月の再スタートの日までを追っている。稽古の様子はもちろんだが、そこに集まった様々な役者のたまご(55歳〜81歳)の人生を追っている。なんと言っても、ひとりひとりの応募動機にドラマがある。ほとんどが人生をリタイアしようとしていたひとたち。残りの人生をどう生きようか、と考えていたときに蜷川さんの「劇団員募集」のニュースに出会っている。みな「55歳以上、上限なし」に飛びついている。

やっぱ「応募動機」がメインの本だ。もちろん、稽古中の蜷川さんの苦労はハンパじゃない。その苦労の連続も描かれている。また、稽古中の様々な事故や事件や家族のささえなども。なんせ、年が年だけに、すっころんで骨折したり、ガンになったり・・・。それでも、オーディション合格者48人(募集20 名に対し応募は1266人だった)のうち、稽古開始前に辞めた2人を除くと、事故や入院などで2人が「稽古に出られなかった」だけという奇跡。本公演の舞台には44人が立っている。劇団員46人はひとりも欠けていない。そして、2007年9月の再スタートのミーティングには44人が集まった。蜷川さんも「半分ぐらいになったら2期生を募集しよう」と考えていたらしいが、「減らないんじゃあ募集できない」と驚いている。

この本は、ベースには高齢者の社会問題を据えている。人生の目的を失いつつあった人々がゴールド・シアターと出合って、いかに輝いたか、を記録している。ただの老人クラブではない。蜷川さんの「プロの俳優集団になる」という目標が「老人たち」の生き方を大きく変えている。

読んで思ったのは、いったいこの国の「老後」ってのはどうなってんだ、ということ。年取ったら、おとなしく隠居して、死ぬのを待つのが「正しい老後」なんだろうか。ひどすぎる。ほとんどの人がずっと生活に追われ、懸命に働いてきて、「あとは余生」となる老後だった。そしてふと、「自分には何が残ってるんだ」と疑問を持つ。「カンオケに何も持っていくものがなかったんだけど、ゴールドシアターと出合って、ボストンバッグ一杯の荷物ができたよ」と言ってる人がいた。この本の登場人物が輝けば輝くほど、「高齢者」が置かれた環境の厳しさ、貧しさを思わずにはいられない。「充実した老後が待っていない」という意味では、「高齢者」の問題というよりは、「高齢者になるまでの長い人生」のほうの問題のような気もする。

加えて言うなら、「劇団」の持つ大きな可能性も示した本でもある。芸術や創作、だけでは語れない「劇団」の側面を示している。

「蜷川幸雄と「さいたまゴールド・シアター」の500日」(735円)

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