2007.12.28
NHK番組たまご「青春のゲート」柳美里特集
NHKが年末の12月23日から30日まで5本連続で放送する「番組たまご」は『明日のレギュラー番組を目指す新しいトライアル』というコンセプトの実験番組企画。その第三弾で12月27日放送の「青春のゲート」は著名人の青春時代を追う企画だ。「青春の門」を中途半端にカタカナにしたもの・・・。今回採り上げられた著名人は作家の柳美里。彼女の「ゲート」は二つ。16歳で家出して入った「劇団」と、そこを飛び出して作った自分の「劇団」。その後、演劇から小説へと移って行くわけだが、やはり二つの「劇団」こそが「青春のゲート」であった。
番組では、柳美里の生い立ちを紹介し、「ひきこもり」や「自殺未遂」を経て16歳で入った「東京キッドブラザース」を見せる。かつて稽古場があった場所を柳が訪ねるが、すでに居酒屋になってて全く面影がなくて企画だおれ・・・か?
番組の後半は、現在長野で演劇を目指して活動している女子高生を紹介する。長野には元東京キッドブラザースだった人が作った劇団があるのだ。その劇団に所属する女子高生。やっている演劇もまた東京キッドブラザースに近い芝居。その劇団の稽古場を柳美里が訪ねる。
ところで、柳美里が東京キッドブラザースを退団して、自らの作品を上演するために作った劇団青春五月党は、東京キッドブラザースとは対極にあるような芝居をやっていた。ほとんど、東京キッドブラザースを全否定するかのような芝居。もちろん、キッドの主宰である東由多加を生涯のパートナーとして生きた柳が「否定」というのは違うのだろうが、それでも青春五月党の芝居は柳の生きザマをなぞるようなリアルな暗い芝居だった・・・。
さて、長野の劇団を訪ねた柳だが・・番組はどんどん「青春のゲート」から離れていく。ひとしきり稽古を見た柳が「柳の方法論で稽古をする」と。知ってる人は知ってるが、最近の柳はチェルフィッチュなどのリアルな芝居に入れ込んでいるわけで、東京キッド的なファンタジー的芝居をやっていた劇団で、どうなることか・・・。
最初、柳は劇団員二人を向かい合わせ、普通にしゃべらせた。お互いの欠点を言い合わせる、とか。しかし、ホンネはなかなか出なかった。悪口は言えないものらしい。そのうち、一人の女優の過去の出来事を話させた。仲のいい親友がいたが、ある日その子は自殺してしまった、と。あの日私がつきあいを断ったばっかりに、と。柳はそれを、別の女優を相手に話せ、と命じる。次に、仲の良かったときの会話を二人に命じる。次に、自殺のエピソードを役を交代させ、なんの関係もない女優に話させる、と。途中、別の劇団員が「関係ない人がこういう重い話を自分のことのように話すのは良くないんじゃないのか」と抗議したりして。・・・リアルでした。っていうか、「青春のゲート」と関係ないような。
思うに、あまりにも稽古が面白かったんでしょうね。だからディレクターは番組コンセプトと関係ない稽古の様子を延々紹介したのでしょう。その直感は素晴らしかった。面白かったもの。番組として成立したかはともかく。あと、演劇の稽古としては普通のことがやられていたわけだけど、何も知らずに見ていた視聴者はどう思ったのか心配。「ひどいことをやってる」と思ったんじゃないかと。まあ、番組の冒頭で柳のことを「日本一スキャンダラスな作家」と紹介した時点で、番組的に不安でしたが・・・。「普通の演劇の稽古」なんだから、それなりのまとめ方をすれば良かったような気がしたけど、まあ、あれはあれで面白かったので、視聴者に不親切でも・・・関係ないか?
NHK「青春のゲート」
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