2007.7.31
演劇WSが抱える問題点
演劇ワークショップの現状と将来(3)
(The Stage Tribune特約)
俳優養成や創作を前提としない演劇ワークショップが増えている。対象は一般の人々であり、子どもや地域コミュニティ、企業人が集められている。主催者も多様であり、劇団や演劇人が直接参加者を集めるものもあるが、学校・教育者や自治体、あるいは劇場が中心になってワークショップリーダーを招いて開催しているものも多い。特に2000年以降に増加してきており、ここ2〜3年は急増している。
その結果、いくつかの問題点が見られるようになってきた。いま、演劇ワークショップが抱える問題は「次のステップ」に移行するための大きなハードルと言えるものである。
多様な団体が多様な対象者を相手に、様々な場所で演劇ワークショップを開くようになった結果、そのクオリティの差に大きな不安が生じるようになっている。それはまあ、当然かもしれない。ワークショップリーダーの多くは独自の方法論を持っており、対象者が抱える環境が変わればその内容も変わらざるを得ないわけだから。それこそが「教育」の本質とも言えるものかもしれない。マニュアル通りに行くものではない。クオリティにばらつきが生じるのもしかたのないこと・・・いえいえ、そんなことを言ってる場合ではない。演劇ワークショップが認知されるためには、一定のクオリティが保障される必要があると言えよう。
さて、なぜクオリティにばらつきがあるのだろうか。それこそが現在の演劇ワークショップが抱える問題点の本質である。その理由を箇条書きにするなら・・・
・標準化されていない
・横のつながりがなく情報が共有されていない
・内容に見合う対価が支払われていない
・ワークショップリーダー需要に応えるだけの指導者が育っていない
などなど。
「標準化」とは、ワークショップの内容のパターンが確立していないということだ。現在の演劇ワークショップのほとんどは「演劇ワークショップ先進国」のイギリスから導入されたものという共通点を持つ。にもかかわらず「標準化」されていない。イギリスに数多くある演劇ワークショップ関連の書籍の翻訳もほとんどなされておらず、共有できるテキストすらないという状況。よそで行われている演劇ワークショップの事例すら知られておらず、それぞれの指導者が独自に勉強して工夫しているという現状である。残念ながら、「演劇」の世界では、一部の職能団体はあるものの、その多くの関係者が参加している団体はない。「独自性を保ちたい」というのは「演劇人のサガ」かもしれないが、ここでは弊害となっている。せめて演劇ワークショップに関する情報の共有だけでも実現させたいものである。それぞれがどんな内容で行っており、どのような主催者が、どのような対象者を集め、どの程度の時間・期間を、どのような場所で行っているのか・・・。特に、「標準化」という意味では、その内容情報の共有化が必要だろう。
「対価」や「指導者育成」の問題も小さくない。まだまだ養成システムもない現状では、指導者は多くの場合、演劇で実績のある人(演劇WSの実績ではない)に要請が行く。彼らに対して「ボランティア(小額の寸志)」でお願いしているというのが現状のようである。世田谷パブリックシアターのように、ワークショップの対象者(参加料)に頼らず、「劇場(主催者)がある程度の額を支払う」という例はまれである。地方自治体が開くものとて、限られた予算の中から捻出するものであり、「ハコもの」に対するほどには大盤振る舞いされていない。
これらが現在の演劇ワークショップの抱える問題点である。ましてや、今後「演劇をガッコーへ」となると、さらにさらに問題は大きくなる。「標準化もされておらず、指導者を育てるシステムもない」ものがガッコーになど入っていけるわけがない。とんでもないのである。さらには、現場の先生や親への啓蒙や、「アンチ演劇派」退治や、「そもそも先生が生徒に教えるという『授業』と演劇WSは似合わないのでは?」などという疑問まで登場している。前途多難すぎるのである。
が、しかし・・・。
逆転の発想がここで登場する。問題点はわかっているのだから、それらを解決すればいいんじゃないの?と。「情報の共有」ができていないのなら、「事例を集めればいいじゃん」と。「標準化」ができていないのなら、「教科書作ればいいじゃん」と。「指導者養成のシステム」がないのなら、「作ればいいじゃん」と。「ギャラがでない」んなら、そういう「制度」を作っちまえばいいじゃん、と。
今回の特集「演劇ワークショップの現状と将来」は、この「逆転の発想」がすでに動き出していることにチカラを得てスタートした。まだまだ緒についたにすぎないとは言え、様々な動きが同時並行的に始まっているのである。次回からは、それらの具体的な動きを追っていく。
(つづく)
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