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(459)

2001.11.13
NYの日本人俳優(3)

sceneIII

私にはこの世の中で私自身のメントールと思い尊敬する人物が数人いる。私にクラッシックバレエのピュアの世界を教えてくれたアルフレッド・コルヴィーノ。声楽と音楽のミセス・ウルフ。ヘアーデザインはアートであるという事を教えてくれたエリック・セレェーナ。そして私に演技と哲学を指導してくれるテレサ・ハイドン。エリック以外は皆年齢が80を超えているが、いまだに現役で各々の世界で活躍している。そんな彼らの前では私は自分でも不思議なくらいに素直になれる。素直になれるというよりも、彼らの前でははったりやごまかしはすぐに見破られてしまう、そのことを私自身が認識しているからかもしれない。そして今もなお彼らのクラスやワークショップなどに行きさらけ出した私自身を見てもらう。

その日、私と私のシーンパートナーのスティーブは、いつものように土曜日のクラスで、ある芝居のシーンをやっていた。その芝居はイギリスの作家が書いた“スルース”という戯曲で、私はイギリスに移民して来たユダヤ人の青年の役をやっていた。シーンが終わると、いつものようにクラスでのディスカッションになる。今おこなわれたシーンについてクラスの皆が見て感じ思った事などを述べ、そして最後にテリー(テレサ・ハイドンの呼び名)が彼女の感想や技術的なことを言う。しかしその日、テリーは私の顔をじろっと眺めて「ジュン、ぶん殴られた様な顔をしているね」と一言。彼女は私の心の中を見事に読みとっていたのだった。あれほど手にしたかった役が自分の目の前からスーと消えていってしまった時の敗北感、そして次の瞬間からその現実を身に染みて感じた時の絶望感、そんな感情が今の私の演技の中にに表れていたのか。私はここ2週間の出来事、そして二日前にキャスティングの発表があった事などすべてを話した。するとテリーが「演出家に手紙を書きなさい、そしてどうしてジュンがキャストされなかったのかを聞いてみなさい」と言った。そのとき私はフッと何かを感じた。「ここで黙って引き下がるのは我慢できない、ジムとはもう4年近くも一緒に仕事をして来たし、俺のことを全く知らない訳がない」。私は早速帰ってジムにEメールを書いた。そして初めて彼の思惑がわかった。彼は私が心底その役を得ようと懸命だったことに気付ていたのだった。だから私の気持ちを尊重して、あえて端役を与えなかった。また、ジムは私という俳優を最高の状態で舞台に立たせるのが、彼の演出家としての義務だと感じていると。そして、私が欲していた役を得た人物は、まさしくその役にぴったしのタイプだったからだ、との返事が届いた。

ようやく何か胸につかえていたものが溶けていった気がした。私はジムの配慮に感謝し、こんな演出家と一緒に仕事が出来た事を誇りに思う。すぐに私は彼に返事を書いた。「たとえ端役でも私が必要であれば声をかけて下さい」。それと私の尊敬するスタニスラフスキーの「今日はハムレットを演じ、明日は端役を演じる。しかしたとえ端役でもアーティストでなければならない」という言葉を添えて。私はジム・シンプソンと仕事がしたいのだ、たとえそれが端役であっても、、、。

それから三週間後、私はダンスの公演を見るためにザ・フリィに行った。するとジムが私の方に向かってやって来て「ジュン、お前のための役が出来た」と突然言ってきた。私はただ驚いて「サンキュウ」とだけ言った。

そして今私は実にユニークな役で「ビリー・ザ・キッド」と「ノー・マザー・トゥ・ガイド・ハー」の二本の芝居に出演している。

(投稿)


うんうん。(じ)


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