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第2話 日本劇作家協会新人戯曲賞公開選考会〜2006.12.17

この連載の主人公は、場粍蓄光(ばみり・ちっこう)氏。現場主義。事件は現場で起こっている。

場粍氏の足取りを追う。2006年12月17日(日曜)夕暮れ、彼は東京・新宿区の紀伊國屋ホールに現れた。しかし、舞台観劇ではない。この日行われる日本劇作家協会(1993年設立)主催の新人戯曲賞の「公開選考会」を見るためだ。受付で1000円を払い、ロビーへと突入していった。

その時、ロビーでは一人の男が不審な行動を取っていた。参加者に背を向け、入場してくる人々を、うつろな目で追いかけている。と、場粍氏はゆっくりと彼に近づいていった。そして、小声で「セトーさんですよね」と話しかけた。男はギョッとした表情で見返した。「あ、どうも」と応える。次の瞬間、場粍氏はその場を立ち去った。私の横を通り過ぎるとき、場粍氏は「オオタコさん・・・変わらんのぅ」とつぶやいていた・・・。

18時25分。場粍氏は開演5分前に席についた。ホリ抜きの舞台には、横長のテーブルが。幅4間はある。白布がかけられ、7人の選考委員の名が記されていた。後ろにはホワイトボードがあった。

18時31分、開演。選考委員がぞろぞろと登壇。一番端の男があいさつを始めた。白髪の混じる年配のおじさん。彼が第三エロチカを率いた川村毅の、その後の姿であった!

選考会は、最終候補作6本に対し、それぞれ15分程度の講評を行うことで進行していく。まず最初に、川村氏によって2〜3分のストーリー紹介があり、何人かの選考委員のコメントをもらうというもの。最終候補作6本と、選考委員は以下の顔ぶれ。

■第12回劇作家協会新人戯曲賞 最終候補作(紹介順)

 突端の妖女 岩崎裕司(東京都)
 宮さんのくんち 山之内宏一(長崎県)
 風穴 松田清志(福岡県)
 返事 新井哲(千葉県)
 ダム 嶽本あゆ美(神奈川県)
 マトリョーシカの鞦韆(ふらここ) 島林愛(東京都)

■選考委員7名(舞台上手より)

・永井愛
・横内謙介
・鴻上尚史
・斎藤憐
・坂手洋二
・マキノノゾミ
・川村毅(司会)

ストーリー、登場人物、背景設定などを聞いた限りでは、この候補作6本は、大きく三つに分類されるようだ。「突端」と「マト」がいわゆる「オリピー風」(鴻上氏)と呼ばれる現代口語静か系のもの。「返事」がイメージ系で、川村氏はストーリーを紹介するのにかなり苦労していた。詩的なイメージ先攻の作品のストーリーを紹介するのは確かに大変だ。残る3本「宮さん」「風穴」「ダム」はしっかりした舞台設定があり、ストーリーがあり、複雑に登場人物が絡む作品。三作品とも地方が舞台で、「宮さん」は長崎、「風穴」はどこかの田舎、「ダム」は山間のダム建設予定地である。

15分×6本で、1時間半の審査が終了したのは19時59分。数分間のフリートークが行われ、その後投票が。選考委員一人2票で作品を選ぶ。記名式で他の委員の結果を見ずに紙に記入する方式。挙手や口頭での発表は他の委員の結果によって、いろいろ戦略を練ってしまうという問題があるため、投票式になったのだとか。結果は下図。

10分間の休憩を挟み、20時23分、後半戦へ。最初の投票でオリピー系2作品「突端の妖女」「マトリョーシカの鞦韆」が落ちた。鴻上氏は、オリピー系の作品に関しては、平田オリピー氏(オリザ)を呼んで弁護なり解説なりしてもらう必要があると指摘していた。川村氏によると、今回は現代口語静か系の作品は少ないほうで、一時はかなり多かったという。鴻上氏が、「小説の分野で私小説が誤解されてブームになったことがあったが、今の演劇界も同じじゃないのか」というコメントがあった。大きくうなずく場粍氏であった・・・。よく意味がわからないが。

さて、選考は続く。残る4作品で審査を続けるのか、作品を絞ることが可能なのかを、まずは吟味。川村氏により、票の少ない「宮さん」と「風穴」をどうするかが問われた。そこでマキノ氏が「風穴はイチオシなんだけどなあ」と。また、横内氏や坂手氏も「風穴イチオシ」のようだ。そこで「ダム」「返事」「風穴」の3作品を残し、吟味することになった。「宮さん」については永井氏により「いいリズムで、今後伸びて欲しい作家だ」というコメントがあって終了。また、斎藤氏は「近年、静かな演劇と、ちょっとしたワンアイディアの芝居ばかりがずっとあったから、そうじゃない作品が登場したことは素晴らしい」というコメントもあった。

ここで「ダム」という完成度の高い作品に対して、その「新人離れ」ぶりが問題に。しかし、「新人戯曲賞の最終候補に選び、刊行された新人戯曲集に掲載しておいて、新人じゃないというのはないだろう」という永井氏の正論に、みな「その通り」と反省。

論議は「ダム」対「風穴」に。永井氏と川村氏は「風穴」が高く評価されたことに驚きがあったと。横内氏、坂手氏は「風穴を推す」と。いい感じで対決ムードが高まった。が、時間の関係で20時41分、決選投票。各選考委員は一つの作品を選ぶ。記名式投票で。結果は下図。

この時点で「ダム」が過半数であり、「勝ち」なのか? が、マキノ氏が、本当は「風穴」だったのだが、作戦で「ダム」に入れた・・・と。どういう作戦なのだろうか。が、川村氏により、「それは作戦失敗ということにすぎない」と一蹴。ただ、「決戦投票はやったほうがいいのだろうか?」との提案も出され一瞬盛り上がったが、それで逆転するのは「面白い」が、「そういう逆転は、今の投票の意味を失わせることになる」という永井氏の正論により却下。「その通り」とみんな反省。この集団、永井氏の存在が大きい。他はお調子もんばかりだ。

さて最後に恒例、「おのれの作家生命をかけて『ダム』に反対する」という意見が出るかどうかにかかるわけだが、川村氏は「返事」抜きなら「ダム」でいい、と言い、横内氏も「ダム」で文句ない、そのスケール観にOKである、と。ということで、第12回日本劇作家協会新人戯曲賞は嶽本あゆ美(神奈川県)の「ダム」に決定した。川村氏の「あ、9時前に終わっちゃった」という一言があって、20時46分に、幕。

・・・ひとり、坂手氏は・・・やっぱ演劇界にとって坂手氏の存在は貴重です。

お開き後も必死でメモを取る場粍氏。後ろから近づき、そのメモを盗み見た。そこにあったフレーズは・・・「劇作家が選ぶということは自分の作風との距離が重要」「最終候補作が掲載されているという新人戯曲集は読んどいたほうがいい」「100人以上の観客がいるが、みな最終候補作の関係者か?」「この選考委員たちは静か系が嫌いなのか」「書く技術を持っていることを『出力がある』と表現している」「オリピー風は破綻がないがホームランがない(鴻上氏)」などなど。

20時50分、人がいなくなった客席に気づき、あわててロビーへと出る場粍氏。足早にロビーを横切り、失言の多いイベントに満足げな笑みを浮かべ、新宿のネオンの狭間に消えていく場粍氏であった。

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