大江戸演芸捜査網
〜楽屋口と客席の間で〜

(74) 2004.5.22
■お席亭は、お役所です?!
 〜公共ホールでの落語会〜(2)

●〜ホール落語と独演会両方の良さを〜
  「拾年百日亭」(埼玉県芸術文化振興財団)

 場所は彩の国さいたま芸術劇場、映像ホール。定員が150人とこじんまりしたホールは、小ホールほどではないですが、ゆるやかな幅の狭いすりばち状になっていて、席につくと無理なく自然と前方中央のスクリーンに目がゆくつくりになっています。開演時間が来ると、そのスクリーンに出演者の名前が映し出され、スクリーン前にちょっと高めにしつらえられた高座に芸人さんが座ると、落語会「拾年百日亭(じゅうねんひゃくじつてい)」の幕開きです。

 彩の国さいたま芸術劇場では、通常の演劇公演などのほかにも「言語表現芸術の分野」(劇場ニュースリリースより)にも力を入れ、能・狂言や落語の公演も多く催してきました。そのうち、落語公演の幅を広げ、次世代にも落語文化を継承させて発展させる、という目的で企画され、平成10年4月から始まったのが「拾年百日亭〜若手落語家競演シリーズ〜」です。

 この公演実現の推進役となった、落語演芸プロデューサーの京須偕充(きょうすともみつ)さんは、劇場開館5周年記念誌「Rotonda」(平成11年10月発行)の中で、こう語っています。

「これまでの4年間は…金看板(の落語家の公演)ばかりやってきた。それはそれでいいとして、二つ目や真打になりたての若い人を使ったらどうだろうということです。若い人の中でも特に目立った、何かきっかけを与えてあげれば、というような人たちでシリーズをやったらどうかと諸井(誠)館長に提案しました。…自治体のホールでこういう若手のシリーズをやっている所はどこにもないはずで、これは非常に画期的なことだと思います」
(…部分は省略、( )内はこちらの補足)

 このシリーズに登場する若手の落語家さんには、審査の上「彩の国さいたま落語大賞」が選考され、授与されます。審査員は京須さんを委員長に、県や地元自治体・地元マスコミ(新聞・テレビ)関係者の方々です。今までの各賞受賞者はこちら。大賞受賞者には金一封の他に年末、小ホールでの独演会が企画され、催されます。

「今までの公共劇場は、観客が地元の人100%だったと思うんです。地元に根ざすという意味ではいい数字に見えるかもしれませんが、それは弱い数字です。作品自体にパワーがあれば、東京や横浜から半分は引き寄せられる。その考え方によって、出し物の組み方も積極的になると思います。埼玉もそのやり方で本格化して、照準が合いはじめているという感じがしていました。…(この劇場では)ダンス、音楽、演劇・芸能この3つのジャンルが競わなければならなくなるという感じがひそかにある」
(前出記念誌より、劇作家太田省吾さん)

「拾年百日亭」のお客さまは地元さいたま市(*)が中心ですが、出演する方の顔ぶれによっては、県内の他市町村・都内・近県からの来場も少なからずあるようです。シルバー券・セット券などのチケットの割引などで地元の方に楽しんでもらいたい、という思いと、遠方のお客さまにもぜひ、という思いとのバランスをとるのは、大変なようです。10年で100回、という目標で「拾年百日亭」と名づけられた公演も、気がつけば折り返し地点を既に過ぎ、劇場の担当者もこの4月で4人目となりました。チケット面でのサービスのみならず出演者の顔ぶれなど、いろいろと公演にも工夫がこらされているようです。

「若手噺家さんの中には、東京の寄席に出ていても、自分の会を開く機会が少ない人がいる、ということを聞いたことがあります。そういう方にも公演の機会を提供する、というのが公演の趣旨のひとつです。また、演芸場の定席に比べ、出演者の数の割に入場料が高い、というご意見をいただくこともあります。が、ひとつの演目に30分以上の時間を自由に使っていただき、ネタをきちんと演じていただくことで、ホール落語と独演会両方の良さを身近に感じていただき、初めての方にも落語の面白さを十分に知っていただくことが、このシリーズ公演のひとつの役割と考えています」
(埼玉県芸術文化振興財団・妹尾(せのお)さん)(**)

埼玉県芸術文化振興財団 (彩の国さいたま芸術劇場)

(*)さいたま市=旧(与野市+浦和市+大宮市)。ちなみに劇場の最寄駅はJR埼京線・与野本町駅。
(**)平成16年3月(取材時)の「拾年百日亭」の担当者でした。現在は他の方が担当者です。



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