(73) 2004.5.8
■お席亭は、お役所です?!
〜公共ホールでの落語会〜(1)
地域に根づく落語会として、地域の文化施設などで催される落語会を見てみたいと思います。きちんと予算が組まれた上で催される会は、長期的な視点に基づいた取り組みがなされていたり、独自の観点からプログラムが組まれていたりします。そこで、文化施設の自主事業として落語会が組まれている中で、独自の活動や展開を見せているところ、地域を越えた視点から発信をしているところなどを関東エリアからピックアップして、主催者側の方にお話を伺いました。そして、その中で、共通の質問をひとつぶつけてみました。
「お近くに寄席定席があり、近隣で数多くの地域寄席などの活動が催されている中で、この地域で公共施設が落語会を催すことの意義は、どこにありますでしょうか?」
それぞれのお答えをいただくことができました。
●〜ここでしかできないことを〜
「みたか井心亭」(三鷹市芸術文化振興財団)
「井心亭」と書いて「せいしんてい」と読みます。三鷹駅と吉祥寺駅の中間、正直どちらの駅からも少なからず離れた場所にある純和風数奇屋づくりの建物「井心亭」で、毎月第三水曜日の夜を中心に落語会が催されています。関東の落語ファンにとっては「落語会の場所」としての認識が主で、日中はお茶会や華道の会などに使われている、ということを知る人のほうが少ないかもしれません。
三鷹市に住んでいらした井上良則さんからの土地の寄贈を受けた市が、そこに「井」上さんの「心」を大切にする「井心亭」を建てたのは昭和63年。そこを管理する三鷹市芸術文化振興財団により、そこでの落語会がはじまったのは、平成7年4月からのことです。
当初は三鷹近辺に住んでいらっしゃる落語家さんを中心にしたのですが、あまりお客さまの入りが良くなかったそうです。そして、第三十八夜(平成10年5月)から、現在の形の、若手の落語家さん4人が月番となり、順番に受け持ち、ゲストなどとともに毎回2席の高座を勤める形の構成に変えました。レギュラーは林家たい平・柳家喬太郎・柳家花緑・立川志らくの4人(順不同、敬称略)。出演をお願いした当時は、二つ目の方もいらっしゃいましたが、それぞれ実力と人気のある真打になりました。
番組は、人によって多少構成は異なります。例えば志らく師の場合はお弟子さんとの交互の登場での2席、喬太郎師の場合は前座無しで登場、ゲストをはさんでの2席目、といった具合です。
−−お客さまはどういった方が中心でしょうか?
「地元とそれ以外の方が半々です。5〜6割はその芸人さんのファン、といった感じの方ですね」
(以下、回答はすべて三鷹市文化芸術振興財団・森元さん)
−−チケット販売はどうしていますか?
「チケットは、会の時に、次にその方が出演する回のチケットを販売するので、その時にかなり売れます。また、会の案内は財団の情報誌への案内と『東京かわら版』に出しています」
会を続ける中で、こんなお客さまもいらっしゃいました。
「マイコップとマイお菓子を持って毎回やってくる、ご近所のおばあちゃんがいました。ある時、もぎりをやっていたわたし(森元さん)がおばあちゃんに『あなたは、いつも受付頑張っているけど・・・いつ落語をやらせてもらえるの?』と言われてしまいました(笑)」
つまり、毎回受付にいる森元さんを芸人さんと思ったわけでして・・・。ちなみに、森元さんは、この落語会の初回から運営に携わっています。
ここでの売り物のひとつが、高座が終わった後の交流コーナーです。客席から芸人さんに直接、いろんな質問をすることができます。
「落語そのものに対する鋭く突っ込んだ質問もありますが、『もらってうれしい差し入れは?』『足は痺れませんか?』などの柔らかい質問も多く、落語家さんが面白おかしく答え、毎回盛り上がっています。あと落語界での出来事、最近では桂文治師匠が亡くなられた時には思い出を聞く質問がありました」
大広間ふたつをぶちぬいた20畳あまりの空間、70人あまりの観客の顔が見える空間での落語会は出演者や観客にとっても魅力的なようです。また、正直、和風建築のため冷暖房があまり効かず、そういうことも含めて「昔の寄席はこんな感じだった」と言った人がいたとかいないとか。
「百夜(平成15年7月)の時、立川志らくさんが『マイクを使わないこの雰囲気が好き』と言って『ここは自分から(レギュラーを)降りることはない』と言ってくださいました。ぜひこれからも、出演者の皆さんが大看板になるまで続けてゆけたら、と思っています」
そして、最初の問いへの答えです。
「三鷹市文化芸術振興財団は『井心亭』のみならず、演劇・映画・古典芸能・音楽・美術・文芸など、いろいろな自主事業を行っていますが、売り物として存在している公演を買ってくるだけの自主事業はやめて、三鷹独自のオリジナリティのある企画を自主的に企画製作していくことを目標としています。そうやっていろいろなホールがそれぞれのオリジナリティを出して特徴のある品ぞろえをしてゆけば、個性のある街ができるのではないでしょうか」
−−ありがとうございました。
みたか井心亭
財団法人 三鷹市芸術文化振興財団
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