大江戸演芸捜査網
〜楽屋口と客席の間で〜

(36) 2002.06.10 ■漢方ときかん坊(14)


漢方ときかん坊  〜その14(最終回)〜
「今後の落語界−その2−」

桂 歌助

 これからの落語界の流れで大きく関係しそうな法律が、一昨年、昨年と施行されました。ひとつが「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」略して「IT基本法」。もう一つが「文化芸術振興基本法」。前者は首相官邸が自ら力を入れてすすめて行っています。「IT基本戦略」に基づき、IT国家戦略として「e-Japan戦略」と言う名で進めている中で、

(以下、「e-Japan重点計画」より抜粋)

5.行政の情報化及び公共分野における情報通信技術の活用の推進
(3)具体的施策
2.公共分野
イ)芸術・文化分野の情報化
 国民の文化志向の高度化と多様化に対応し、様々な文化財、美術品、地域文化、舞台芸術等に関する情報が地理的な制約を受けずにどこにおいても入手・利用できる環境を整備する。 このため、文化情報総合システムの整備(文部科学省)を行う。2005年度までに、国立博物館等が収蔵する文化財、美術品に関する情報、国立劇場等の公演や国公立の文化施設等に関する情報のデータベースを構築し、各機関等のホームページを通じて情報提供を行うとともに、公立・私立の博物館等ともネットワーク化を進め、収蔵品情報の共通索引システムの整備を行う。

 つまり、「舞台芸術等に関する情報が地理的な制約を受けずにどこにおいても入手・ 利用できる環境を整備する」ということは、落語とは明記していませんが、国立劇場(演芸場)公演のものを2005年までにデータベース化して、地方にいる方も入手可能にする、と解釈できるわけです。日本の伝統芸能「落語」を地理的制約を受けないで入手可能にしてあげられればすばらしいと思います。もちろん録画ビデオでしょう。有料なのか無料なのかはこれからの事でしょうが、国が落語ソフトを管理していくと言う訳です。IT時代の国家戦略に、芸術部分が入り、その中に落語をどんどん入れていく運動を進め、地方の方でも落語を身近に感じてもらえるよう、協会などが積極的に働き掛けるといいでしょう。となると、ますます、インターネットが重要になってきます。

 もう一つの「文化芸術振興基本法」のほうがもっと重要です。これは、「日本固有の娯楽、芸術を国が積極的に応援しましょう」と趣旨の法律です。施行が平成13年12月7日ですから出来立てのほやほや、あまり世間をにぎわせなかったのは超党派の議員団によって提出された法案でして、与野党ともに賛成したので、新聞、テレビであまり取り上げられなかったのでしょうか。これには文化庁、文部科学省が大きく関わっています。この法律の条文の中で、対象となるものを

第三章 文化芸術の振興に関する基本的施策

一、「芸術」を文学、音楽、美術、写真、演劇、舞踊
一、「メディア芸術」映画、漫画、アニメーション及びコンピュータその他の電子機器等を利用した芸術
一、「伝統芸能」雅楽、能楽、文楽、歌舞伎その他の我が国古来の伝統的な芸能
一、「生活文化」茶道、華道、書道、その他の生活に係る文化
一、「国民娯楽」囲碁、将棋、その他の国民的娯楽の枠組の他に
一、「芸能」に講談、落語、浪曲、漫談、漫才、歌唱、その他の芸能(伝統芸能を除く)
と分け、その支援をすると、はっきり明記してあります。その部分を抜粋すると

(芸能の振興)

 第十一条 国は、講談、落語、浪曲、漫談、漫才、歌唱その他の芸能(伝統芸能を除く。)の振興を図るため、これらの芸能の公演等への支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

とあります。では、具体的にどういう風に国は文化芸術を振興をはかるのか、と申しますと

  1. 地域における文化芸術の振興=地方芸能の充実
  2. 国際交流等の推進=海外公演を支援する
  3. 芸術家等の養成=伝統芸能の伝承者の養成及び確保を図る
  4. 文化芸術に係る教育研究機関等の整備=文化芸術に係る大学その他の教育研究機関等の整備
  5. 日本語教育=国語が文化芸術の基盤をなすことにかんがみ、国語教育の充実を図る
  6. 著作権等の保護及び利用
  7. 国民の鑑賞等の機会の充実
  8. 高齢者、障害者等の文化芸術活動の充実
  9. 青少年の文化芸術活動の充実
  10. 学校教育における文化芸術活動の充実
  11. 劇場、音楽堂等の充実
  12. 美術館、博物館、図書館等の充実
  13. 地域における文化芸術活動の場の充実=各地域における文化施設、学校施設の充実
  14. 公共の建物等の建築に当たっての配慮=外観等について、周囲の自然的環境、地域の歴史との調和を保つよう
  15. 情報通信技術の活用の推進=情報通信技術を活用した展示への支援、記録及び公開への支援
  16. 地方公共団体及び民間の団体等への情報提供等
  17. 民間の支援活動の活性化等=文化芸術活動を行う者の活動を支援するため、文化芸術団体が個人又は民間の団体からの寄附を受けることを容易にする等のための税制上の措置
  18. 関係機関等の連携等
  19. 顕彰=文化芸術活動で顕著な成果を収めた者及び文化芸術の振興に寄与した者の顕彰
  20. 政策形成への民意の反映等
と20項目もの支援策が出ています。そして、落語界に多く関係しているのが、2、3 、5、6、7、10、15でしょうか。

 具体的にその範囲を明記しますと、

【2】、現在、我が落語芸術協会は文化庁の指導の元、日本の文化=落語の海外公演を計画中です。国がついている、って事はどれだけ心強いかわかりません。

【3】、国立劇場では、以前から御囃子さんと太神楽の若手育成を行っております。この支援体制を国が法律で明記してくれました。

【5】、「やかん」が小学校の国語の教科書に載っております。が、もっともっと授業に落語を取り入れて国語教育には落語が一番となる様、協会だけでなくアマチュアの落語愛好家も進めてもらえたらと思います。日本語を話す訓練には落語が最適であると私は思います。落語も社会人の落語愛好家と我々が連携を保ち、国が支援してくれる追い風に乗って、子供たちへの普及の道を図らないといけません。

【6】、音楽はジャスラック(JASRAC)という組織があり、ちゃんと著作権使用料をとっております。それもただ出来たわけではなく、ちゃんと国に陳情に行って、そういう団体をこしらえて、管理する事を決めています。では、落語の持ちネタは個人に著作権があるのでしょうか。協会が管理するべきなのでしょうか。現在、あいまいな落語の著作権の関係もきちんとするべき時がくるでしょう。

【7】、日本国内の公演回数を増やす力になります。今までは文化庁の移動芸術祭がありましたが、他の方法も他に考え、国に支援を願えるといいでしょう。

【10】、学校内での芸術観賞会として演劇や音楽の他に、寄席を開く「学校寄席」という形式があります。これも個々の教育委員会なり、学校に任せていた形を、もっともっと協会が動いて、子供たちに聞いてもらえる機会を増やすといいと思います。我々が直接学校に行く形もありますが、修学旅行で東京の寄席に地方から出かけてもらう、という方法も考えられます。今でも時期になりますと、修学旅行で寄席が選ばれることはありますが、もっと広く知らせるべきでしょう。何しろ先生方が寄席を知りません。

【15】、これは前述したe-Japan戦略と重複しております。ITと落語の関わりをもっともっと深めていく方法を研究する同業者や愛好家の方が増えてくれるとうれしいです。

 落語の将来の方向を国が示してくれています。迷うことなく支援策に乗り、協会と芸人と愛好家の三者が一体となって落語をもっともっと普及させ、日本を心豊かな国にしていけたらと思います。少しづつ落語が発展してくれるために、インターネットと機関誌の両方で私もやっていきます。そして、こういう事を出来る若手を育てて行く事も重要だということを語って、このコラムのしめくくりとしたいと思います。

 長い間ご購読ありがとうございました。



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