(35) 2002.06.03 ■漢方ときかん坊(13)
漢方ときかん坊 〜その13〜
「今後の落語界−その1−」
桂 歌助
漢方薬が直接病気を治すのではなく少しずつ体質を良くし、病気を治癒するように、インターネットや機関誌が落語界を良くしていって欲しい、という願いを込めて「漢方ときかん坊」と言う題で書き進めてきましたが、いよいよまとめになります。今後の落語業界を、私見ですが予想してみたいと思います。
この連載中の5月16日、江戸落語の大黒柱で人間国宝の柳家小さん師匠が、87歳で亡くなりました。一方、6月2日のNHKスペシャルではもう一人の人間国宝、上方の桂米朝師匠が、大ホールでの落語会を今年でおやめになられると、紹介されていました。米朝師匠は77歳です。後を引き受けるであろうと思われていた、古今亭志ん朝師匠も桂枝雀師匠も、この世にはおりません。「落語界は一体どうなっちゃうんだろう?」と思っているお客さまも多いことでしょう。
秋葉原の電気街を例に出してみます。
ここの店はお互いにライバルです。隣りの店では同じ品物を売ってるわけです。少しでも特徴を出して他と違う所をアピールしないと生き残れませんから、店独自の個性が重要です。最新の品を並べた大きな量販店もあれば、中古パソコン店もある。部品だけの店。パソコンを売らず無線機や電気機器の専門店もあります。しかし、勝ち残れば良いと言うわけでもありません。負けた店が店じまいをしてしまうとだんだんと秋葉原へ行くお客様が減り、ついには勝ち残った店にまで客足が遠のき儲からなくなることになります。そこで、ライバルでありながら、同業組合、商店街を形成し、一緒に催し物を行い、秋葉原全体に大勢のお客様が来てもらえるように仕掛けています。
こうやって同業種の店が軒を並べて発展していく所は多く、横浜の中華街もそうです。それぞれの商店主は自分の品が売れるように努力をしています。商店街は独自の個性を出し、お客様が多く商店街に来てもらうように企画、努力し、宣伝します。町全体の商店街の連合は町自体に外から観光客を呼ぶように努力します。どこの商店街でも、その中でも大きな店が商店街全体の発展にも心を配るようにしています。自分の店さえ良くなれば、などと考えてはいません。商店街全体に来るお客様が多くなれば、自然と自分の店へ来るお客様が増えるからです。商店街の中で一番の目玉の商店が活気があり、お客様が増えれば回りも活気づくし、お客様も増える。負けないように努力をします。
落語界を秋葉原の電気街に例えるならば、落語家一人は個々のお店、各協会は商店街。演芸連合が商店街の連合会、芸団協((社)日本芸能実演家団体協議会))がその全国的な組織、それをまとめているのが文化庁、文部科学省ということになります。
我が落語業界は、ここ数年大きなお店が店を閉めてしまったわけです。その大きな店の主は、業界全体の事も考える、大きな目と心を持っていました。これから、落語業界全体がどうなるのか、予測がつきにくいので、業界全体が発展するような作戦が出しにくくなる可能性があります。落語家は個人事業主ですから、自分の仕事さえこなせば生活できます。自分についているお客様さえ大事にしていれば、差し当たり問題はありません。しかし、それだけでは業界全体での大きな催し物はなくなってしまい、マスメディアに紹介されるのも個人的に努力した人だけになってしまいます。自分を売り出す事も重要ですが、もっと視野を広げて「自分は出演しないけど、こういう面白い芸人や行事があるから、ぜひこの落語会に行ってよ」という気持ちでいることが重要です。自らのファンが落語ファンや寄席ファンになるように、一致協力して催し物を企画、運営しないといけないと思います。それをやるのが協会であり、演芸連合であり、芸団協、文化庁なのです。
つづく
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