大江戸演芸捜査網
〜楽屋口と客席の間で〜

(29) 2002.04.15 ■漢方ときかん坊(7)


漢方ときかん坊  〜その7〜
「So-netと私(2)」

桂 歌助

どんな事でも終わってから「ああすれば良かった。こうすれば良かった」があります。そう言うのを後の祭りと言うんでしょうが、残念だった点がいくつかありました。

まず、平成11年の当時、会場のお客様はインターネットがどういうものか分からず「テレビ中継でない中継」をイメージできる方がいなかったようです。カメラもテレビカメラのようなものではなく、コンパクトなもので、三脚を立てて何ヶ所かから撮りましたが、出席者がパーティの様子をビデオ撮影しているものと変わりがありませんでした。そのため、全世界へ中継されているといった改まった雰囲気はありませんでした。会場でも「落語界初の試み」について、強調する様な紹介はしませんでした。映っている画面を、モニターを置いて会場の出席者が見られるようにすれば良かった、と思います。

So-netのプレスリリースはネット関係へのメディアに対してのみで、演芸にたずさわる新聞社・テレビ局・雑誌社の方へは届きませんでした。そして、パーティ当日は演芸関係のプレスの方は会場にいて、その同時中継を見ることができませんでした。こちらから出席者に告知していなかったこともあり、翌日のメディアでは、神奈川新聞の記事に、私が真打昇進した事の中で同時中継した事が書かれていただけでした。その他は「にゅうおいらんず」の初お目見えが中心の記事内容でした。

◇      ◇      ◇      ◇

この企画を盛り上げる形で、事前にSさんが色々なアイデアを出してくれました。「歌助さんが真打になるまで『あと何日』とカウントダウンしよう」と言ってくれ、So-netのホームページ上で真打昇進を盛り上げる企画を考えてくれました。

ところが私自身が「いつから私は真打なの?」と言う疑問にぶつかりました。一般的には、披露興行が始まる5月上席からが真打ですが、パーティ後、仕事のある方はそれに先駆けて真打であると名乗ったり、改名された方は寄席興行前に他の仕事先で新しい名前で高座を勤めます。披露宴をインターネット中継をするんですから、パーティをカウントダウンの0に持ってくるように設定したほうが都合がいいのです。

披露宴で、何か儀式があるのかとSさんから質問を受けました。例えば真打認定証の授与のようなものです。そんなものは存在しません。真打披露パーティは結婚披露宴にあたるもので、関係者とお客様とを、協会と新真打の師匠が招いて、新しい真打誕生をお祝いする会です。それが証拠に、新真打本人は舞台上で一度も言葉を発しません。授与式と言った式典はありません。免状も存在しない。それがネット上で同時中継する場合に演出不足に映ります。一般の方にはなじみがないので、わかりにくい感じがします。結局カウントダウンの構想は絵に描いた餅でおわりました。

披露興行の初日の5月1日に、末廣亭の様子をインターネットで配信できないか、とも考えました。こちらの方が真打とは何かが分かってもらいやすいのです。興行の責任者(一番最後に出演する)を勤める力を有する、と認めてもらった落語家ということをアピールするには、真打昇進披露口上と、最後に出る私の落語を聞いてもらうのが一番です。しかし、古いしきたりの落語・寄席社会でお席亭にお願いに行くには,新真打はあまりにもは若造です。

平成11年5月1日は土曜日で、ゴールデンウィークの最中で、お正月とお盆とこのGWが一番のかき入れ時。客席が大混雑する中、カメラを設置する事は難しいし、許可がおりないだろう、と考えました。また、もしおりたとしても使用許可にお金が発生した場合を考え、また末廣亭の社長交代・従業員の交代などの事情を考えると、こちらからは中継の依頼を頼めなかったのです。その頃はまだ私も自信がなかったんですね。

一緒に真打になった桂平治さんとのバランスも考えました。真打披露は同時昇進の二人でやるもの。あまり、こちらが出過ぎても迷惑をかけます。ですが、真打披露の初日の中継の方がパーティの中継より寄席関係者にはインパクトが大きかったと思います。

今思えば残念なことをしました。もっともっと大きくやれば良かったと思います。平治さんにとっても、真打披露が落語関係者以外の方に興味を持ってもらえたら、きっとプラスになったでしょう。相手の事を考えているふりして、尻込みしていた自分がいたのも事実です。

今では世間でもインターネットが当たり前の時代。これからの新真打の方はどんどんインターネットを使って、新しい形の真打披露を自分で演出してもらいたいと思います。

つづく



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