大江戸演芸捜査網
〜楽屋口と客席の間で〜

(25) 2002.03.18 ■漢方ときかん坊(3)


漢方ときかん坊  〜その3〜
「インターネット以前(2)・パソコン通信 」

桂 歌助

毎日パソコンに向かうのが習慣づいたのはパソコン通信からでした。それまでは必要な時にチラシを作る等の為の道具としてパソコンを開いていましたが、それ以降はパソコンと電話を通じて、会った事がない多くの人と知り合い、相談したり、文通したり出来る様になりました。三遊亭圓窓師匠が書いたパソコン通信の本を読み、師匠にお願いして自分も入れてもらいました。マスターネット(現・ゼロ(株))というパソコン通信会社です。

ここはニフティサーブ(現・@nifty)、PC-VAN(現・BIGLOBE)のような大手のパソコン通信とは趣を異にした集まりでした。 人数も少なく、年齢層も比較的高い方が多いようでした。圓窓師匠が落語のボードの宗匠(シスオペ)。圓窓五百噺の会がオフ会になりました。主に落語、その他酒、北陸、そしてマックファームに参加し、そこで知り合った方とはいまだにお付き合いをさせてもらってます。特にマッキントッシュの愛好家が多く、パソコンの相談もできたのは大きかったです。これが平成4年の頃。

パソ通を通して多くのことを教わりました。

1、毎日パソコンに向かう習慣が付いた。
2、直接会う事がなくても友達がかなり多くそれも広範囲に出来る。
3、同じ趣味の人との交流でその道の勉強になる。
4、インターネットの時代が到来する事がいち早く知る事が出来た。
5、見えない人とのやりとりのマナーを知る。
6、正論を言うと会話が終わってしまう事が分かった。

まだ、細かく上げれば色々ありますが、大きく6つ得たものがあったと思います。

1、2についてですが、その頃パソコンをやるやつを「ネクラ族」等と言われていましたが、私も入るまでは表に出掛けず毎日パソコンに向かってばかりで性格が暗くなるかな、と心配しましたがむしろ逆でした。家にいてテレビを観ているよりずっといいです。

自分を表現し相手の事を知る双方向の通信手段はテレビよりもずっと温かい。受け身でいるよりはずっと有意義な時間を過ごせます。それまでは落語会等で来てくれたり直接お会いしたお客様しか住所を知る事ができませんでしたが、遠くにいる方に会わずに知り合え、同じ趣味で悩みを聞いたり言ったりして本当に親しくなることができました。一度も会った事がない方に名前を覚えてもらえる事の凄さを感じました。

3、4についてですが、パソコンは使い慣れれば便利な道具ですが、初めての人にはかなりハードルが高いものです。何を買ったらいいか。どういう周辺機器をそろえたらいいか、相談できる方がいるのは本当に心強かったです。パソ通で気楽に相談に乗ってくれる友達が出来たのです。買い替えが必要な時にも相談にのってもらいましたし、どうしてもうまく動かない時に、マニュアルを読んで一人で解決する苦労もしな くてすみました。マックを使って何が出来るかを趣味と実益を兼ねて楽しむ事も教わりました。

毎年2月になると(今年は3月ですが)マックエキスポに集まります。一日でも行って、打ち上げを経験します。どうしたらパソコンを使って落語業界を少しでも発展させられるか、どうしたら落語とマルチメディアを結びつけられるかのヒントを与えてくれてます。

5については、字で会話していると、どちらともとれる表現をしてしまい誤解を招くことがあります。会話なら声の調子と表情で意味が通じますが、文章となると受け手がどう感じるかを考えて書かないと、時には思いがけない誤解を招く事があります。特に一度も会った事がない人と文通するのは、マナーを知らないと相手を傷つけます。 メールのやり取りの基礎を早くに身に付けることが出来たと思っております。

6は、同時に多数の人が読んで話を煮詰めていったり、盛り上がる為には、ある程度、面白くする工夫が必要である事を知りました。それは普段の飲み会の盛り上げ方でも同じことがいえます。正論を言うとそこで議論が終了してしまいます。わざと皆を導く為に、逆の意見を言ってみたり、自分がぼけ役になってみたり、そういう事をパソ通の同じボード仲間は教えてくれました。ボード上での盛り上げ役は大概はシスオペ(そのボードの主催者)かコシス(主催者と協力してボードを支える人)がやります。その方々はオフミーティングをしても非常に細かく気を使っては、飲み会も盛り上げてくれます。自分の意見を持っているけど、それを言わず、仲間が皆一緒に楽しめるように気を配る術を教えられました。

パソ通マスターネットは現在姿を消しましたが、今でも強い仲間意識があります。東海道五十三次四百年祭宿場寄席ポスターの図案もマックファームのメンバーの一人が作ってくれました。

寄席情報誌「東京かわら版」の1999年に二度、裏表紙に大きく「はばたけ歌助祝真打」とマスターネットの友人一同の名前を連ねた広告を出してくれました。

圓窓師匠にお願いして入れてもらった世界で、他では得難い大勢の仲間に出会えました。本当に感謝しております。今世間でITと盛んに言われているものの原形はパソコン通信です。広い範囲で人との出会いをもたらしてくれ、後のインターネット時代への私の活力の元になりました。

つづく

おことわり(その2):「週刊FSTAGE」サイト内の「漢方ときかん坊」でのサイトリンクの責任はとりばかまにあります。



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