大江戸演芸捜査網
〜楽屋口と客席の間で〜

(23) 2002.03.05 ■漢方ときかん坊(1)


落語芸術協会とインターネットの関わり。それのみならず、落語とインターネットとの 関わり、について今後、語ることがあるとすれば、その積極的な活動ゆえに、この方の 存在を、お名前を欠かすことはできないと思います。桂歌助師匠。その深いつながりについて、原稿をいただくことができました。ありがとうございます。(とりばかま)


漢方ときかん坊  〜その1〜「はじめに」

桂 歌助

寄席の世界には「一枚看板」や「大看板」と言う言葉があります。寄席の木戸に出演者の名前が並びます。大きな看板が人気者の証でした。お客様は表の看板を見て、「○○が出てるから入ろう」とか「○○がトリじゃ今席はよそう」と決めました。特に人気者になりますと、その芸人の看板が上がるだけでその近所の八丁四方の寄席に閑古鳥が鳴く程だったそうで、それを「八丁荒らし」と言いました。

現在は他のお遊び場所も数多くなり、また、交通の便が良くなった分、町内で遊ぼうと言う人もいません。また、昔は町内に一軒づつ寄席があったのが、今は都内に五軒。

今じゃ八丁以内にライバルの寄席もなく、昼間に看板を見て夜どこに入ろうか決めるお客様などいるはずもありません。時代が変われば看板の意味も変わります。「ホームページが現代の看板になれば」との思いで落語芸術協会のホームページを立ち上げ、更新し続けてきました。

また、今はEメールを知らない人はいないでしょう。でも、このメールなる代物がどれ程便利な物かを理解して使いこなしている芸人はまだ少数です。私的なやりとりだけではなく多くの人が同じ話題であつまると資料的価値が出ます。昔のパソコン通信のBBSや現代のホームページの掲示板やメーリングリストでの意見交換、寄席を聞きに行った感想などは実は大変な記録なのです。

ある年配の方が若い時分に寄席通いをしていて、几帳面にそのプログラムと出演者と演目と感想をノートにつけ続けていました。昭和30年台から40年台の私の知らない芸人や演目をその方のノートで知る事ができます。昔の寄席は色物さんも含めて色々バラエティに富んでいた事が分かりました。

熊八メーリングリストも実は将来一級品の貴重な資料となるはずです。 30年経てば「こんな芸人さんがいたのか?」「どんな噺をやっていたか?」皆,関心をもって読み返すはずです。

ただ、問題があります。インターネット時代に蓄えられた資料を誰が管理するのか。誰の所有物なのか。もし、溜まったログを出版しようとした場合誰に著作権、肖像権が発生するのか。実際にパソ通時代に溜めたログの多くはインターネットと共に多分消滅してしまったでしょう。

これと同じことが寄席芸の世界でも起こっております。今残 して置かないと消えてしまう芸。

また、個人のホームページで自分の落語を動画で流すことがどこまで許されるのか? 師匠から教わった落語を弟子がデジタルビデオカメラとパソコンを使って勝手に流してもいいのか?そこでお金を頂戴してもいいのか? まだインターネット時代が始まったばかりで、肖像権のありかがはっきりしません。それも考えていかないといけません。

近い将来、テレビとパソコンと電話が区別がなくなり、今から数十年後に生まれてくる子供はその三つが同じ物と思う時代になるでしょう。そうなると今テレビで多く出演している芸人と、インターネットを使って自分で出演番組を作っていく芸人との差がなくなる様な気がします。

今苦労していれば必ず将来は明るいだろうと思いながら毎日パソコンに向かいます。インターネットは落語家の様な零細な個人事業主には最高に役に立つメディアです。自分の落語会の案内などの情報発信には最適です。お金がかからず宣伝できます。私自身、インターネットを使わなかったら今ほど忙しくさせてもらえなかったでしょう。

そんな思いを「漢方ときかん坊」でこれから書き綴っていきます。それがひいては落語ファンが増えることにつながると思います。何回続けるか分かりませんが、落語家でこれからインターネットをやろうと思う人、また落語ファンの方の為に読んでもらえたら嬉しいです。

ホームページや機関誌はすぐに寄席にお客様が増えるといった即効性のある物ではないでしょう。落語界にとってはカンフル剤ではなく漢方薬の様な物。じわじわ身体に効いてくる物だと思います。「とにかく落語は生が一番」です。寄席に足を運んでくれる人が少しでも増える事を願い、こんなタイトルにしました。

1、インターネット以前
2、インターネット導入
3、自分のホームページ作成
4、協会のホームページ作成
5、「芸協Eメールマガジン」発行のいきさつ
6、季刊「芸協」発行のいきさつ
7、まとめ

こんな順で書き進んでいきます。

今後ともお付き合いの程よろしくお願いします。

つづく



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