大江戸演芸捜査網
〜楽屋口と客席の間で〜

(16) 2002.01.01 ■熊八メイリングリストの6年間 〜コミュニティの模索〜


新年特別企画「演芸 in Internet シリーズ」の一発目は、巨大メーリングリストに成長した「熊八メイリングリスト」の管理人氏にその「現状と将来」を尋ねました。以下、ご本人によるレポートです。お忙しい中、無理なお願いをお聞きいただき、ありがとうございました。

なお、このシリーズは、「シリーズ」って言うぐらいですから、今後も続く予定です。インターネット上で活躍するサイト管理人のみなさま、ご協力をなにとぞよろしくお願いいたします。

(とりばかま)


「熊八メイリングリスト」は落語を中心とした演芸に関する情報交換の場とし て1996年1月18日にスタートして以来、まもなく7年目を迎えようとしています。 この6年間で送信された記事数は10000が目前、現在の登録メイルアドレス数は 320を超えるまでに成長しました。どなたに伺ったのか忘れましたが、コアな 演芸ファンの総数は約3000人なのだそうでして、計算上はその1割の方が参加 していることになります。

◆ ML設立のきっかけ

熊八メイリングリスト設立のきっかけは、1995年の暮れ頃、僕の職場である愛 知県内の某国立大学にある僕の研究室に、ある学生が質問に訪れたことです。

学生「インターネットで落語のことが話せるメイリングリストはありませんか?」
鎌田「ないのなら、作ればいいじゃない」

後日、NetNewsのニュースグループfj.rec.playに同じ内容の投稿をしたら、同 じ内容のフォローアップ(ニュースグループに対して返信すること)があったそ うです。

そして、学生(ハンドル:みかん)が管理人、MLサーバの構築と維持管理が僕 の担当になり、卒業後、管理人の仕事を僕が引き継いで現在に至ります。ただ、 会員数の増大につれ、僕ひとりの管理では手に余る案件が増えたため、現在で は10名ほどの方々を中心とした会員有志の方々から精神面と実質的な作業の両 面での支援をいただきつつ運営を続けています。

開始以来のMLに関連した主な出来事を挙げてみました。

1996年1月ML及びWWWページ「熊八ゑぶ」開始
5月書籍(インターネット入門者向け)に掲載
6月雑誌「Yahoo! Internet Guide」付録に掲載
8月雑誌「東京かわら版」に1行の紹介文
会員の手によるパソコン用人名(高座名)辞書の第1版完成
第1回オフミ実施(名古屋)
9月会員100名突破
1997年3月「熊八ゑぶ」現在の形に
7月ちばさんの「WWW pages about RAKUGO」を公開開始
9月雑誌「あちゃら」で紹介
1998年6月ムック「やっぱり落語がおもしろい!」に掲載
1999年1月ドメイン名を大学から「kumahachi.net」に移行
5月ちばさんの「WWW pages about RAKUGO」が独立
6月月例のオフミを東京で開始(以後毎月欠かさず継続中)
2000年1月第1回新年会実施(会員による演芸会実施)
2001年1月第2回新年会実施(会員による演芸会実施)

◆ MLに対する評価

熊八MLは活発だ、という話をよく伺います。僕は他の掲示板やMLなどと比較し たことがないのであまり実感がないのですが、自分でもメイルが読みきれずに ためてしまうことがあるぐらいですので、確かに投稿は多いのだと思います。

そこで、簡単な集計と計算をしてみました。6年間で10000通とすれば1日あた りの平均記事数は4〜5通、本文の除く行数(引用や署名を含む)の1通あたりの 平均は31.5行ですので、毎日143.5行、文字数にして約5500文字、400字詰め原 稿用紙に14枚程度となります。手元の某大手新聞は各行12文字で1段に75行あ りましたので、まるまる全6段、ページの半分近くをびっしり埋める文字数に 相当します。ちょうど投書欄と同じぐらいの面積なのが面白いところです。

毎日読むことを考えればこれでもなかなかの量といえるかもしれません。また、 これまでの記事を読み返してみると、個人的な印象ですが、どの記事も情熱的 で読みごたえがあり、10通に1つ以上ある落語会のレポートや、時々流れる本、 雑誌、WWWページについて書かれた記事などをきちんと追い掛けていけば全体 のボリュームとしてたいへんなものになりそうです。

MLのほかにもいろいろやっていて活発だ、という声もききます。上の表に挙げ たような、ML全体に参加者を募るオフミや新年会などのイベントを定期的に行っ ていることのほかに、演芸好きで熱心な方のネット内外での活躍に、熊八に対 する評価が入り交じっているのかもしれないと想像しています。

◆ ML運営上の工夫

熊八は形式上、単なるメイルによる情報交換の場ではありますが、コミュニティ としての役割を担う存在にしたいと願ってきました。単に知識を披露し合うだ けの集まりではなく、ネットを介して、様々な背景を持つ人々が出会うことで、 触発され、新しい活動が生み出されるようにしたいと考えたのです。ドメイン 名にkumahachi.netと「.net」を選んだのも、そうした外に向かって広がるイ メージを踏まえてのことでした。

人の集まりがコミュニティとして機能するためには、構成員の帰属意識、つま り、その場にいる人がコミュニティの活動に何らかの関わりをもっているとい う自覚を持つことができる必要があります。また、コミュニティが広がるため には、関心を持って近づいてくださる新たな人が、そこで行われる活動にうま くなじんでいけるような仕掛けが必要です。

この考え方と、これまでの熊八MLの運営を通して、現在のMLは、次のような独 自のポリシのもとで運営することとしています。

まず、技術的な理由により発生する、演芸と無関係なやりとりを極力避けると いう方針を当初から立てました。よくある「読めません」「設定が間違ってい ます」という発言で議論に水を差すことがないよう、また、パソコンについて 右も左もわからないものの演芸に関して非常に経験の豊富な方を、機械の操作 の問題などのために排除したくないという思いがありました。そして、アクセ シビリティへの配慮です。そのため、投稿に使われるソフトウェアとそのバー ジョンごとの癖などをMLサーバの前処理段階で「矯正」するよう、日々サーバ プログラムの調整という泥臭い作業を施しています。これはインターネット的 な「メッセージはできるだけ送信者の意図を尊重する」という考え方とはかな り異なるもので、熊八ML独自の運営ポリシであると考えています。

もうひとつは、参加者(構成員)の社会的属性(職種、世代など)の尊重です。熊 八MLは演芸という世界を対象とすることから、芸人さんや評論家、マスコミの 方など仕事としてひとつの世界に異なる立場から接する人々が必然的に関わっ てきます。インターネット的な考え方では、あらゆる立場の人々が社会的属性 を超えて対等に接することを美徳とする面があると思うのですが、演芸の世界 は縦社会であり、これとは相容れない面をもっています。演芸が演者なくして 成り立たないものである以上、MLとしても、客としての発言者が分をわきまえ て振る舞うことを推奨すべきと考えました(客と演者を入れ替えても成り立つ 議論と思われます)。これは発言の自己規制を強制する危険にもつながる、取 り扱いの難しい問題ですが、いまのところは僕の独断による運営ポリシとして、 例えば、楽屋話のリークに対する注意などの形でML上でお話させていただいて います。

◆ 今後の熊八メイリングリストに対する期待

最後に、熊八MLの今後に対する期待を述べたいと思います。

熊八MLは、おそらく偶然に恵まれて、一般客(初心者から演芸マニア)のみなら ず、演者(芸人)、地域寄席世話人、研究者、編集者や記者などマスコミ関係者 といった、演芸にまつわるあらゆる立場の方々が集う希有なコミュニティとし て成立し、多くの方々に気に入っていただける存在として育つことができてき たように思います。個人的には、将来に対して非常に大きな可能性を持った集 まりと思っています。

これまでの蓄積をみても、約10000通の記事に含まれる情報は膨大で、重要な 資産であり、埋もれさせておくのはもったいないという気持ちがあります。 当然、発言者の権利は尊重しなければなりませんが。

また、最近の傾向として情報がやや東京に片寄っている実感があり、何とか 上方のかたが気軽に発言できる状況を作りたいという希望があります。

今後さらに、熊八をきっかけにした、数多くの新しい活動が生まれることを願っ ています。

熊八メイリングリスト管理人代表 鎌田敏之


熊八ゑぶ

WWW pages about RAKUGO



top
back
next