2008年10月第3週


 さて、4年ぶりのソウル行きの報告も、いよいよ最後、といいたいところなのだが、3日目の話が長くなったので、3日目と帰国日の話を2回に分けてお届けする。

 9月25日、イン・ソウル3日目。前夜、李満喜[イ・マニ]さんに会うというメインの目的を遂行した乾杯で、みんなで深酒したので、この日はちょっとゆっくり起きることにした。3人部屋のクマさんたちは、朝の銭湯(韓国では沐浴湯[モギョクタン]という)に行ってアカスリをしてから朝食を食べに行くというので、私は妻と、鍾閣[チョンガッ]にあるソルロンタンのおいしい店に朝食を食べに行くことにする。店の名前は「里門[イムン]ソルロンタン」。以前来た時に、仁寺洞[インサドン]から裏道を抜けて明洞[ミョンドン]へ帰ろうとしたところのすぐ横にあった。創業1902年という店で、確かに木造で古いが、造りはしっかりしている。ここも、地元の人から観光客まで来るようで、朝食のピークは過ぎていたが(店は朝の8時半からやっている)、それでもいろんな客がいた。日本人の若い男女のグループや韓国人のガイドと一緒に来ている御婦人二人連れ。地元の年配の人たちもいた。ソルロンタンは大好きで、明洞の東邦旅館に泊まっている時は、ソウルロイヤルホテルの前にある「シンソンソルロンタン」によく通ったものだが、ここのも、さすがに老舗という感じでおいしかった。もちろん、キムチは食べ放題なので、結構食べた。値段は6500ウォン。

 その後、旅館に戻る途中、「ソウルレコード」に寄り、時間をかけていろいろ探した。そこで、金綺泳[キム・ギヨン]のDVD4枚組(豪華な解説書入り)のボックスを見つけた。キム・ギヨンは1960〜70年代に独特の映像美でカルト的人気を博し、怪物といわれた映画監督だ。以前、代表作の『下女』と、『殺人蝶を追う女』と『死んでもいい経験』を観たことがあり、その不思議な世界にはまり、他の作品も観たいと思っていた監督なのだ。入っている作品は『高麗葬』『蟲女』『肉体の約束』『異魚島』の4作。みんな名作といわれている作品ばかりだ。迷わずに買った。実はこの時は、日本語字幕なしでもいいやと思っていたのだが、何と、帰って来てちょっと観てみたら、日本語字幕入りではないか! もったいなくて、というより時間がなくて、まだしっかり観ていないが、ゆっくりキム・ギヨンの怪しい世界を堪能したい。楽しみだ。そういえば、今開催している東京国際映画祭ではキム・ギヨンの特集をやっている。観に行きたいが、日程が合わない。残念だ。

 他には、CDは全部持っている大好きなイ・ジョンヒョンの最新アルバムと、元祖ダンシングクイーンといわれているペク・チヨンのライブの2枚組DVD、ちょっと前にはまったコ・ス主演のドラマ『グリーンローズ』のサントラ、最近お気に入りの『ファンタスティック・カップル』のハン・イェスルが初出演(主演)した映画『用意周到ミス・シン』のDVDに、大好きなソル・ギョング主演の映画『公共の敵』と最新作『公共の敵1−1』のサントラが一緒に入っているアルバムを買った。いつも買って帰るCDやDVDの数より、量としては圧倒的に少ないが(いつも20枚ぐらい買ってしまう)、来る前に調べている時間がなかったからだ。今度行く時は、あらかじめ調べておいて、いろいろ買って来よう。そうそう、ここは、何々のポスターが欲しいといえば、一生懸命探してくれて、もらうことが出来る。ホントに親切だ。妻も東方神起のポスターを何枚かもらって来た。私も、オム・ジョンファと、日本でも活動しているユンナと、日本で活動を始めたら絶対売れるだろう美少女9人組、Girls' Generation[少女時代]のポスターをもらった。いやぁ、Girls' Generation[少女時代]はすっかり気に入ってしまった。日本に来ないかなぁ。コンサートは観に行くぞ! それはともかく、CDやDVDの値段は全部で10万ウォンちょっと。約1万円だ。安い。

「ソウルレコード」で買い物をした後、旅館に戻り、ひと休みしてから、みんなで南大門市場[ナンデムンシジャン]に行くことにした。クマさんの知り合いのおばさん(アジュンマ)がいる高麗人参の問屋に行けば、いろいろおみやげになるものを、まとめて安く買っておいてくれるというのだ。夕方に大学路[テハンノ]で朴根亨[パク・クニョン](今まではパク・グニョンといっていたが、ホントはパク・クニョンと呼ぶそうなので訂正する)に会い、一緒に芝居を観ることになっているので、それまでどうするか決め、私と妻は南大門市場で買い物をした後、行きたいと思っていた汗蒸幕[ハンジョンマク]に行くことにする。薙野さんは、南大門市場の後、クマさんが推薦してくれた『プンパ』という芝居を観に行き、クマさんとハンキンさんはコ・スヒに会うという。

 前日に続いての南大門市場だったが(妻は3回目)、やはり地元のおばちゃんに案内されると、凄い! とても一般の観光客じゃわからないようなビルの中の店に案内してくれて、しかも、めっちゃ安くしてくれる! 前日買ったTシャツやキャップも、もっと安くなったかもしれない。ま、元々安かったからいいんだけど。そのおばちゃんに諸々のおみやげを頼み、大きな袋に入れてくれたそれを持って歩くのは大変なので、店に預けておくことにした。そして、クマさんたちと別れ、妻と明洞にある「明洞瑞草汗蒸幕」へ向かった。

 汗蒸幕に行くのは4回目だと思う。いつも仕上げにカッピングをしてもらうのだが、帰って来てからも疲れが残らないし、本場のアカスリで肌はしばらくツルツル。もちろんマッサージも付いていて、まさに極楽気分になる。今回行った「明洞瑞草汗蒸幕」は、去年出来たばかりだとかで、まだ新しい。朝、予約を入れておいたので、スムーズに受付が出来、まずはコースの案内をされる。この案内のおばちゃんが、韓国人なのに、やたら日本語が達者というか、日本人でもこんなに弁舌の立つ人はいないんじゃないか、と思うほど、話がうまいのだ。韓国人独特のテンポのある日本語で「これはいいですよぉ、絶対お薦めです」といわれると、思わず「はい」といってしまいそうになる。結局、私は基本コースにカッピングと足つぼマッサージをつけ、妻は基本コースにうぶ毛取りとコラーゲンパックをすることにし、ソウルナビの券で割引してもらって、それぞれ10万ウォンちょっと。すべて終わってから、隣りの韓国料理屋で石焼ビビンパブものんびり食べられるし、まぁ、観光料金にしては安いんじゃないかな。

 中に入ると、まずは作務衣のような服を着て(下着は着けない)、小さな入口をくぐって汗蒸幕へ。これが、中に入ると、いきなりムッとすごい熱さを感じるのだが、サウナのような息苦しさはなく、意外に耐えられる。やがて、嘘のように大量の汗がジワーッと浮き出てきて、その汗が熱くなって耐えられなくなり、一度外へ。そこで汗を拭き、水分を取り、再び汗蒸幕の中に入る。いやぁ、このクセになる熱さは、今まで行った汗蒸幕にはなかった気がする。とにかく熱いのだ。いったい、あの中は何℃になっているのだろう。汗蒸幕を出て、身体の中の毒素を汗と共に搾り出したような気分になった後、水風呂と薬草の湯に交互に入る。そして、すっぽんぽんのまま(当たり前だが)、診察台のような台の上にうつ伏せに寝そべり、まずは身体を洗ってくれる。やってくれるのは、もちろん男性のアカスリ師(そんな名称があるかどうか知らないが)。そして、いよいよアカスリの始まりだ。アカスリ用のタオルで、微妙な強さで身体がこすられていく。これが、まったく痛くなく、マッサージ効果があって気持ちいいのだ。しばらくすると、アカスリ師が「触ってみて」というので、背中に手を伸ばすと、あるわあるわ、アカが! 思わず「すごい!」というと、「すごいでしょ」と笑われる。初めてアカスリをやった時も、そのアカの多さに感動したが、今回も久しぶりに感動した。いや、別に不潔にしているから大量にアカが出るわけじゃなくて、誰でも出るもんなんだけどね(笑)。まぁ、やったことのない人は、ぜひ一度体験することをお薦めする。いや、感動するって!

 うつ伏せの後は仰向けになり、アソコには一応タオルが掛けられるが、股の付け根までこすられる。仰向けでも「触ってみて」といわれて、腹から股の辺りを触ると、またも大量のアカが! それらをすべてお湯で流された後は、頭を洗ってくれ、全身に黄土を塗りたくられ(サービスの黄土パック)、それをきれいに洗い流されて風呂はひとまず終わり。次は、マッサージ。備え付けの大きなパンツを履いて別の部屋に行くと、マッサージのおばちゃんたちが待ち構えていて、指定のベッドにうつ伏せに寝かされ、マッサージが始まる。私は通常のマッサージに足つぼマッサージを加えたのだが、歩き回って疲れた足によく効いた。夢見心地でマッサージを終えた後、最後にカッピング。何と、背中に32個もカッピングされた。帰って来て子供たちに見せたら、イレズミより気持ち悪いといわれた。別に誰かに見せるわけでもないし、本人は気持ちいいんだからいいじゃん!

 その後、もう一度風呂に入り、シャワーを浴びて出るまで1時間20分ぐらい。妻の方はもう少し時間がかかるということなので、ロビーでヤクルトのようなものを飲みながら待つ。やがて出て来た妻と、隣りの韓国料理屋でビールを飲みつつ、サービスの石焼ビビンパブを食べる。久しぶりの汗蒸幕は大満足で、今度ソウルに来た時も、ここに来て、今度は経路マッサージをやりたいと思った。

 その後、大学路での待ち合わせの時間まで多少余裕はあったのだが、南大門市場に荷物を取りに行くのに時間がかかり、荷物を旅館に置いてから大学路に行くのは間に合わないと思い、南大門市場(地下鉄の駅は会賢[ヘヒョン])から、直接、大学路に向かった。

 待ち合わせの場所に行くと、すでにクマさんとハンキンさん、そして、コ・スヒがいた。スヒとは、スズナリで『青森の雨』を観た時は、会えたがほとんど話が出来ず、2日前、アルコ芸術劇場で『青森の雨』を観た時は会えなかったので、ようやく話が出来たという感じで再会を喜び合った。スヒはもう、はっきりした日本語で話すことが出来る。去年、上野や新宿下北沢で飲んだ時より、数段、日本語が上手になっている。というより、大事に選んで話す日本語は、馬鹿な若者(若者だけじゃないが)が話す乱れた日本語より、よっぽどきれいだ。だからこそ、『青森の雨』の日本語の台詞にも感動したのだが。

 この日、スヒはこの後、人と会う予定があるということで、先に帰ることになったが、スヒから、「小松さん、私に本書いてね」といわれたので、約束をしてしまった。よし、パク・クニョン演出で3年以内にはやるぞ!

 スヒと入れ替わりのように遅れてやって来た(毎度のことらしいが)パク・クニョンは、どこかに電話をして、我々がこの後観る芝居を決めてくれた。そして、開演の7時半まで時間があるので、食事に行こうと我々を誘ってくれた。

 ここで、韓国で人に会う時の大事な教えをひとつ。人と会う約束をした時は、お腹を空かしておくこと! いやぁ、これまで韓国でいろんな人に会う機会があったが、ほぼ100%、食事に誘われる! 時間に関係なく、だ! 会うと必ず、「食事に行きましょう」なのだ。日本のように、ちょっとお茶でも、というレベルではない! お茶は食事の後に行くし。もちろん、自分から誘うのだから、御馳走してくれる。う〜ん、この習慣はもうホントに凄いと思う。飲む席では、誘った人間か最年長者が、すべて払うし。割り勘なんてのは、ない。真似したいが、日本だと高くて、自腹じゃ無理だ。昔、韓国のトンスン舞台の連中が来て、新宿で飲んだ時には、頑張って、韓国式にすべて払ったけどね。まぁ、みんなお客さんだったし。そう、客をもてなすという意識がしっかりしてるのだ、韓国は。おごるとかおごられるとかいうことじゃなく、もてなしの気持ち、これだ! 年上の人を敬うというのもそうだし、日本が忘れてしまったいい部分を、まだまだ韓国は持っている。こういう部分は見習いたいと思う。

 この後、パク・クニョンに大学路のおいしい料理屋に連れて行ってもらい、その後、女性の作・演出家の芝居を観て、さらにその劇団の人たちとおいしいチキンの店に飲みに行ったのだが、その話は次回、2008ソウル旅行記、最終回で。

『豚とオートバイ』の稽古の方は順調で、もうすぐ公演1ヶ月前になるが、とりあえず、最初の通しが出来る状況にはなりそうだ。宣伝の方は、チラシの完成が遅れているのだが(まぁ、アリスフェスティバルの総合チラシで情宣しているが)、チラシに載せるイ・マニさんからの推薦文も届いたので、ここで発表しよう!

 "小松杏里さんが、ついに『豚とオートバイ』をやるという。それも、リーディングではなく、演劇公演としてだ。小松さんは4年前、第2回韓国現代戯曲ドラマリーディングにこの作品が選ばれた時、「やりたい」とわざわざソウルの私の所にまで逢いに来て下さった。そして、当時福岡在住ということで、惜しくもその選に漏れてしまったが、2年前、福岡で九州の役者たちと一緒にリーディング公演をして下さった。日本で一番この作品を愛し、かつ理解して下さっている演出家は、小松さんを措いていない。その小松さんが、普通韓国では二人芝居であるこの作品を、福岡公演では各役すべてに役者を振り当てたが、今回は、また違った形で作るという。小松さん、私のことなどお気になさらずに、自由にお好きになさって下さい。私は小松さんを心から信用しています。どんな公演になるのか、今から楽しみです。残念ながら、福岡に続き、今回も公演を観ることが出来ませんが、今回のアリスフェスティバルでの『豚とオートバイ』公演が成功の裡に終わることを、心から期待しています。"李萬喜・談[訳:熊谷対世志]

 というわけで、次回はチラシに載せる解説の文章を発表しよう。公演情報は、とりあえず前々回の乾坤を。詳しくはまた。予約、待ってます!

(2008.10.23)


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