今週は、先週あった、思いがけない日韓交流の話。15日の日曜日の夜、最近、なぜかよく会うようになった『豚とオートバイ』の翻訳者の熊谷さんから連絡があり、日本にコ・スヒが来ているので、一緒に飲みに行かないか、というのだ。コ・スヒというのは、ペ・ドゥナとイ・ソンジェの『ほえる犬は噛まない』や、イ・ヨンエの『親切なクムジャさん』、そして、ポン・ジュノ監督の『グエムル 漢江の怪物』、チョン・ドヨンの『ユア・マイ・サンシャイン』と、私の大好きな作品に出演している韓国の女優で、熊谷さんがいうところの「体格」女優にふさわしい、大型女優だ。あ、身体がね。とはいえ、実は最近、彼女はダイエットをしているとかで、今回会ったら、それほど大きいという感じではなくなっていた。映画は大きく見えるからなぁ。
彼女には2回ほど韓国で会っている。1回目は2004年の3月に行った時に大学路劇場でパク・グニョン作・演出の『三銃士』を観た時。彼女は主人公の姉の役をやっていた。この時は楽屋で挨拶をしただけで、その後の飲み会には行かなかった。2回目はやはり2004年の8月。乾坤でも書いたが、私にとっての「ペ・ドゥナ記念日」になった、ペ・ドゥナが主演の舞台『サンデーソウル』に出ていたのだ。この時は新興宗教の教祖という、彼女のキャラクターを生かした迫力のある役だった。この作品も演出はパク・グニョン。残念ながら、この時も劇場の外で挨拶しただけで、飲み会には来なかった。というより、私はこの時、ペ・ドゥナに会うことだけで必死だったからな(笑)。そういや、最近、『春の日のクマは好きですか?』を観たが、ペ・ドゥナの良さ、巧さを改めて認識し、惚れ直した。また舞台やらないかなぁ。
そんなわけで、面識は会ってもスヒと飲むのは今回が初めてで、翌月曜日の夜、夜間の授業が終わった後、水道橋から、熊谷さんたちが飲んでいる上野まで駆けつけた。アメ横を少し入ったところにあるガード下の焼き鳥屋「大統領」に行くと、すでにみんないい感じで出来上がっていた。そこにいたのは、熊谷さんと熊谷さんの友人A氏、そして、スヒと、スヒの友人のキム・ミソン嬢の4人。その日は雨が降っていて寒く、すでに熊谷さんたちは熱燗を飲んでいたので、私はまだ瓶に残っていたビールをもらい、焼鳥を頼んだ。この時は、というか、毎度のことだが(笑)、熊谷さんの話が盛り上がり、あまり何を話したか覚えていない。そうそう、スヒたちが観たという歌舞伎の話をちょっとした。あと、20日から熊谷さんが行く福岡に、いい機会だからスヒも行った方がいいよ、とけしかけたのと、翌日の夜なら比較的早く身体が空くので、どこかに行きたいのなら付き合えるよという話をし、結局、翌日の夜、スヒとミソンと私の3人で新宿に行くことになった。
で、翌日、夜の7時半にアルタの前で待ち合わせた。その日も雨が少し降っていたが、まずは腹ごしらえ。二人がおいしいラーメンを食べたいというので、近くの「桂花ラーメン」に連れて行った。新しくなって地下に移った桂花ラーメンは、ラーメンの種類も増えたし、ビールも飲めるようになったので、一通りいろいろなラーメンの説明をした後、結局、3人とも太肉[ターロー]麺にして、餃子とビールを頼んだ。その時は、ビールを飲みながら餃子をつまみ、パク・グニョンは餃子が大好きだとか(朝昼晩、餃子でもいいらしい)、スヒが出演している映画の話などをした。スヒに「小松先生もイ・ヨンエが好きですか?」と訊かれたので、私は、学級委員っぽくて苦手だと答えた。スヒが会った日本の男性は、ほとんど、イ・ヨンエが好き、というらしい。まぁ、チャングムの影響もあるんだろうな。私が、チョン・ジヒョンやペ・ドゥナが好きだというと、ミソンが「小松先生は、きれいな女性より、かわいい女性が好きなのですね」といったので、そうかもね(笑)、と答えておいた。韓国では、チョン・ジヒョンは「きれい」というより、「かわいい」女性の部類に入るらしい。ま、美人といえば、イ・ヨンエとかキム・ヒソンなんだろうな。ソル・ギョングの最新作にもスヒが出てるというので、ソル・ギョングは私が一番好きな韓国の俳優だといい、どんな人? と訊くと、とにかく真面目で、演技に集中してのめり込むのだと教えてくれた。まぁ、思った通りで安心したが。そうじゃなきゃ、『力道山』なんてやれるわけないし。『力道山』は、作品もすごいけど、メイキングが感動する。あ、話が急に飛ぶが、乾坤一滴プラスの方で、去年、日本で公開された韓国映画の一覧を作ったので、見て下さいな。ベストテンの方は、もう少し待ってね。とても全部は無理だけど、もうちょっと観ておきたい作品があるので。
さて、桂花ラーメンで映画談義をした後、いろいろ話をしながら歌舞伎町に向かったが、スヒが初めて日本に来た時、新宿の歌舞伎町で日本の歌舞伎を観られるものと思っていた、という話がおもしろかった。そういや、何であの一帯は歌舞伎町というのだろう? 30年以上前、歌舞伎町のスナックで雇われマスターみたいなことをやっていた私でさえ知らないのだが、昔は歌舞伎と何か関係があったのかな。そうそう、歌舞伎町の入口にあるドンキにも寄ったが、ドンキはスヒのお気に入りらしい。東京に来て、どこだかのドンキにも行ったといっていた。あの独特の店の造りと雰囲気は、外国からの観光客にも受けるようだ。
歌舞伎町を抜けた後、職安通りのコリアンタウンに行き、私のお気に入りの韓国料理屋「カントンの思い出」の前に連れて行ったが、看板のメニューを見て、とにかく高いと驚いていた。まぁ、韓国では屋台で売ってたり、自分でも作れるトッポッキが1000円もするんじゃねぇ(笑)。ミソンは学生だが、今、休学してワーキングビザで日本に来ている。専攻は料理だということなので、今度、おいしい韓国料理作って、と頼んでおいた。家に来て作ってもらえたらうれしいのだが(笑)。
コリアンタウンでは、コリアプラザと韓国広場にも寄った。コリアプラザには韓国のドラマを録画したビデオも置いているのだが、スヒが出ているドラマはなかったようだ。店員と韓国語で話していたが、店員は、コ・スヒだとわかったのかなぁ。韓国ドラマのDVDが置いてあるところで、ミソンに、最近のドラマだと何がいい? と尋ねたら、『幻想のカップル』が一番おもしろいと教えてくれた。実は、この作品に出ているパク・ハンビョルは、『狐怪談』を見てお気に入りになった女優で、ミクシィのコミュ(まだ30人しかいない)にも入っているぐらいなのだが、映画はそれ以降出ていない。だから、このドラマもぜひ観たいのだが、残念ながら、日本語字幕が入っているDVDは、まだ売っていない。ま、そのうちすぐ出るだろうけど。出たら、絶対観る。
韓国広場では、店内を歩きながら、二人で、あれがおいしいだの、これは韓国でも同じような値段だ、などといろいろ教えてくれた。そして、知らない間にスヒが籠にお薦めの食品を入れてくれていて、プレゼントだと私に買ってくれた。インスタントのおかゆや、ノビアニという、プルコギのルーツだという宮廷料理(冷凍だが、そのまま焼いて食べる)や、ラーメンのいくつかは、私も初めて知ったものだった。
その後、結構歩いたのでまたお腹が空き、何か食べたいものはある? と訊いたら、日本のおでんが食べたいというので、「お多幸」に連れて行った。韓国にもおでんはあるが、日本のものとは違う。二人とも、熱燗をひっかけながらいい感じで酔い(もちろん私もだが)、日本のおでんは味が染み込んでいておいしいといった。最後に、私の戯曲集にサインをしてスヒにあげたら、すごく喜んでくれて、日本語も読めるように勉強するといっていた。あ、書き忘れていたが、この日の会話は、ほとんど日本語(笑)。いかにも私が韓国語で彼女たちと話をしていると思った人、すみません。ミソンは、もう6年も日本語を習っているということでホントに上手だし(本人はまだまだダメですと謙遜しているが)、スヒも、難しい内容の話以外は、結構話せる。親友のペ・ドゥナが日本映画(『リンダ リンダ リンダ』)に出て、日本語を勉強してよく話せるようになったのも影響しているらしい。
結局、11時ぐらいに新宿駅で別れたが、二人は翌日、横浜に行く約束をしていた。私も一緒に行ければ、「三陽」とかにも連れて行ってあげられたのだが。そうそう、「三陽」には、5年前、パク・グニョンも連れて行き、今でも熊谷さんにその時の話をするらしいが、やはり彼が餃子好きだというのもあるのだろう。いや、もしかして、「三陽」で食べてから、餃子好きになったのかも。
私がスヒに会ったのは東京での二日間だけだったが、スヒはやはり、20日から熊谷さんたちと福岡や熊本に行ったらしい。そして、“トンバイク”こと『豚とオートバイ』のメンバーたちと楽しく過ごしたようだ。その時の様子が、ミクシィのトンバイクコミュに載っている。素晴らしい日韓交流だ。政府レベルではなく、大々的な公演で行くとか呼ぶとかでなくても、こういう、個人同士の交流、個人を迎えての交流も、立派な国際交流だと思う。そこからまた大きく、次の段階に広がっていくのだから。
(2007.4.26)