10月も終わる。10月も2回しか更新出来なかった。ま、言い訳はやめて、今年もあと2ヶ月、とにかくなるべく更新していこう。というわけで、10月後半の主なこと。最近、演劇ネタが多い。いや、Stage Powerだから、本来そうあるべきなのだろうが。それにしても、毎度遅れているおかげなのか、いつのまにか「毎週水曜日更新」に変わっているぞ。いや、それだったら何とか間に合わせるようにします。すんません。
16日の火曜、19日から池袋のシアターグリーンで行われる、弘前劇場の公演『ソウルの雨』に出演するために先に東京に来ていた、韓国の女優のコ・スヒとチュ・インニョンと下北沢の古里庵で飲む。他に熊谷さんやその友人たち、といっても、いつものメンバーなのだが、総勢6名。狭い古里庵に入れるか心配だったが、何とか入れた。古里庵[こりあん]に韓国の[コリアン]女優を、という駄洒落のような夢が叶ったわけで、二人も「おいしい、おいしい」と何でも食べてくれた。しかし、スヒは会う度に日本語がうまくなっている。インニョンも、だめだといっていたが結構話せる。逆に自分がなかなか韓国語が出て来ないのにいらつく。やはり2年も韓国に行ってないからなぁ。いや、こっちにいても、もっと韓国映画を観て勉強しなければ。とはいえ、話せる相手がいないとなかなかなぁ。暇が出来たらやっぱり習いに行こうかな、韓国語。新大久保にももっと食べに行かなきゃ。
その芝居『ソウルの雨』を、雨の池袋で19日の金曜、初日に観劇。考えたら、新装なったシアターグリーンは初めてだ。昔のシアターグリーンをよく知っている人は、こんなきれいなビルになっていて、驚くよなぁ、絶対。階段状の客席は舞台が観やすくなっているし、タッパもあって、いい。ここでやってみたいと思った。あ、観たのは、3つあるうちの、BIG TREE THEATER。他の2つはまだ知らない。
客の入りは初日ながらも約半分。関係者席と貼紙がしてあるところがガラッと空いていたのが気になった。弘前劇場の芝居は去年の7月にスズナリで観た『夏の匂い』が初めてで、今回が2回目。いつもはどうなのかというのはわからないが、前に観た『夏の匂い』の方がおもしろかった。今回の『ソウルの雨』は、64年前にソウルで恋に落ちた日本人男性と韓国女性の、子孫にまで連なる物語で、まぁ、劇的にしようと思えばいくらでも出来そうな設定なのだが、そこは弘前劇場の、いわゆる静かな芝居系統のリアルな芝居の作りになっていて、逆にそういったことが、作品自体を中途半端で未消化のまま終わらせてしまったという印象を受けた。前の『夏の匂い』の時にもちょっと書いたが、長谷川氏の脚本は決して結果を描かず、観客に考えさせるという、観客の想像力が要求される作品なのだ(2本しか観ていないので偉そうなことはいえないが)。それはそれで私も大好きだし、わかりやすいだけのつまらない芝居より断然いい。しかし、今回は、曖昧であることが許される(それによって生きてくる)日本人、というか、日本の演技陣と、感情をはっきりと表現していく韓国の演技陣とのコラボレーションが、必ずしもうまく噛み合っていなかったように思う。いや、お互いにそれをはっきり出してぶつかりあっていれば、それはそれで、その違和感や相乗効果でおもしろくなっていたかもしれないが、日本の演技陣は韓国の演技陣に引っ張られ、あるいは遠慮し、韓国の演技陣は日本の演技陣に引っ張られ、あるいは遠慮し、お互いにお互いの持ち味を殺したような中途半端な演技になってしまっていたように思うのだ。そこが、作品そのものにリアリティを感じられず、物語の中にいまいち引き入れられることのなかった一番の原因のような気がする。トップシーンのダンスもそうだが。
スヒにしても、青森弁もなかなか達者でおもしろかったが、スヒだったらあれぐらいは出来て当たり前で、長谷川氏にはもっとスヒの中に眠るすごいものを引き出して欲しかった。いや、そういう芝居の作り方をしていないのはわかるが、そこがつまり、いつも私が満足しない芝居を観て物足りなさを感じる要因のひとつでもあるのだ。要するに、脚本はおもしろいけど演出がダメ、ってやつ。脚本に役者を当てはめていくのではなく、ひとりひとりの役者の個性や力を生かして脚本をより演劇的に膨らませた舞台が好きなのだ。いや、好き嫌いではなく、それこそが演劇の醍醐味だと思う。そういったことは、翌日観た高校演劇や24日に観た自転車キンクリートSTOREの『ツーアウト』でも感じたことなのだが、詳しくは後述する。
ただ、今回の『ソウルの雨』は、残念ながら、脚本もそれほどいいとは思わなかった。それぞれの思いを深く感じられず、ありきたりの説明的な台詞になっていたような気がする。詩の独白でラストを締めくくるのも、安易で未消化な気がした。そんな中、韓国の役者たちの演技の巧さをあらためて思い知らされた。特に、3日前に下北で飲んだチュ・インニョンの演技は、抑えた中にも熱い思いを秘めているのをその表情から感じ取ることが出来て感動した。こんなにいい女優さんと一緒に飲んでいたとは。もっといろいろ話しとけばよかったと悔やんだが、まぁ、これからも会う機会はあるだろう。
そうそう、劇中に、舞台となっている青森県立美術館の寺山修司展に展示されるという“リヤカーシアター”というオブジェが出て来たのだが、あれはおもしろかった。本当に作られて展示されたのかなぁ。自分でも、ああいうアートを作ってみたいと思った。
翌20日の土曜日は、横浜市高等学校演劇連盟が主催する高校演劇発表会中央大会の初日。以前、高校生のための演劇ワークショップをやらせてもらった関係で、特別審査員を頼まれたのだ。各地区の大会から選ばれてきた10校(大会だから“勝ち抜いてきた”ともいうらしいが、演劇は決して“闘い”ではないので、そんな風にはいいたくない)の舞台を2日間に渡って5人の審査員で審査し、県大会に送り出す最優秀校4校を選ぶ。会場は、月光舎で『ばびろん』を上演した、いずみ中央にあるテアトルフォンテ。なかなかいい劇場だ。行くのはおそらく『ばびろん』以来だから6年ぶり。私以外の審査員は、みんな中学や高校の演劇部の顧問の先生だ。高校演劇は福岡にいる時に、やはり大会をちょっと観に行ったことがあるが、神奈川の高校演劇を観るのは10何年ぶりだと思う。果たして、昔とどう変わっているか。
10時から開会式があり、特に審査員席を設けているわけではなく、客席の好きなところに座って観る。一応、メモを取りやすいようにバインダーをもらった。高校演劇の大会の場合には、上演時間は1時間以内という規定がある。私の作品もよく中学や高校の演劇部から上演許可申請をしてくるが、2時間近くの作品を1時間にするのは大変だと思う。5作品の上演の間に20分の休憩、というか、入れ替えがあり(昼休みは50分あったが)、装置を組むところなどは、その間にやらないといけない。初日の5校は、生徒の創作台本が1校に、顧問とOBの創作が1校ずつ、他の2校は既成の台本。既成台本は高橋いさをの『ある日、ぼくらは夢の中で出会う』と、高校演劇の全国大会で最優秀賞を取った越智優の『七人の部長』。さすがに『七人の部長』は脚本がおもしろかった。『ある日、ぼくらは〜』は、4人の刑事が誘拐犯人に変わったりと、演出的に難しい上に、出演者が女子ばかりだったので大変そうだった。この日、私が気に入ったのは、県立神奈川総合高校のミュージカル仕立ての『人形の国』と、県立光陵高校の『今昔ぺんぺん草子』。前者は、人形を買いに来た女の子が人形の国に入ってしまい、人形たちの思いを聞くというメルヘンながら、人形の国にも対立があったりするという、ちょっとひねりのある話になっていて、しかも作者の生徒は、中心になる人形を演じたり(これがさすがに自分で脚本を書いているだけあって、深い演技をしているし)、歌の作詞や作曲(この歌も四季風あり、アングラ風ありとバラエティに富んでいて楽しかった)もやるという八面六臂の活躍で、感心してしまった。まだ高校2年生だ。後者は顧問の先生の台本で事前に読ませてもらい(10作品すべて、前日までに読んでおいた)、その台本もおもしろかったのだが、それ以上に、生徒たちが、その世界を自分たちのものにして、楽しく演じていたのがよかった。一人で何役かやる生徒もいたが、同一人物とは思えない演技もあったりして、これまた感心した。
そんなわけで、久しぶりにまとめて高校演劇を観た初日の感想は、多少残っていた高校演劇に対する偏見(顧問の先生の思いが反映されていたり、画一的な演技ばかりだったりというような)をすっかり吹き飛ばしてくれて、いろいろな可能性を感じ、こういう高校生たちと一緒に舞台を作っていったら楽しいだろうなぁ、と思ったことだ。
翌日は、最後に審査結果の発表や表彰がある関係で、朝の9時半から始まった。同じように、昼休み以外は20分の入れ替えを挟んで5校が発表していった。2日目は井上ひさしの『父と暮らせば』(もちろん1時間バージョンにしたもの)が既成台本で、あとはOBも含めて生徒の創作台本だった。前日の終了時点で、他の審査員の先生方と何本か、よかった学校を挙げあったのだが、私は前日の中で強く推せるのはどう考えても1校しかなく(県立光陵高校の『今昔ぺんぺん草子』)、もし、2日目でいいのがなかったら困ったぞ、と思っていた。何しろ、県大会、さらにはそこから、関東大会、全国大会に進んでもらえるような4校を選ばなくてはならないのだから。しかし、その思いは取り越し苦労だった。2日目の2校目、県立横浜平沼高校の『マオウ』には驚かされた。事前に脚本を読んで、「これはどういう風に観せてくれるんだろう」と楽しみにしていたのだが、舞台は、想像をはるかに越える素晴らしさだった。
まず、台本がすごい。とても高校生が書いたものとは思えない。描かれているのは、高校生のいじめをテーマにした歪んだ友情なのだが、そこにスリラータッチが入ってくる。私は観初めてまもなく、その主役の女の子の台本に負けない演技力に感動して涙が出て来てしまい、さらに、舞台転換を工夫していることに、これは只者ではないぞと思い、台本も書いている男の子が主役の女の子にいじめられるシーンにドキドキしてしまい、実はもう一人の友人が○○だったということがわかった時には、あらかじめ台本を読んでいたにもかかわらず、ゾクゾクッと身震いしてしまったのだ。とにかく「すごい!」の一言と同時に、メモを取っていたノートにはダメ出しがいっぱい書いてある。もちろん、いいところも。そう、私はいい芝居ほど、いろいろいいたくなるのだ。ま、当たり前といえば当たり前か。いい芝居を観たあとは、酒を飲み交わしながらいろいろ話したくなるものだからね。
その『マオウ』に衝撃を受けたあとも、高校演劇の王道ともいうべき、クラブ活動と友情を描いた県立岸根高校の感動的な作品『空×(かける)虹』や、とても高校生とは思えない演技と広島弁の難しい台詞を達者にこなし、しっかり感動を盛り上げてくれた県立横浜緑ヶ丘高校の二人芝居『父と暮らせば』、そして、女子高の3年生の受験に対する複雑な思いと友情や先生との交流をリアルに、そして楽しく感動的に観せてくれた横浜共立学園の『雨の日の放課後に』と、次から次へといい作品が続き、終わった時には、逆な意味で困ってしまったぐらいだった。特に『雨の日の放課後に』は、台本も伏線がしっかりしていたりと実によく出来ていて、他の高校がやったりする高校演劇の台本として残る作品なのではないかと思った。結局、前日と合わせて10校の中から、私は、事前に読んでいた台本以上に舞台がおもしろくなっているかどうかという基準で4校を選んだ。もちろん、それは役者、つまり、演じている生徒たちの力が大きい。プロの場合は、演出家の演出力に委ねられているところも大きいが、高校演劇の場合は、何より、生徒たちが楽しく演じているかどうかということで変わってくる。もちろん、自己満足な楽しさだけではだめだ。その結果、私以外の先生方も含め、5票という満票になったのが、光陵高校の『今昔ぺんぺん草子』と横浜緑ヶ丘高校の『父と暮らせば』。4票が、私も選んだ横浜平沼高校の『マオウ』と横浜共立学園の『雨の日の放課後に』で、この4校が最優秀賞ということで、県大会への出場が決まった。そして、審査員特別賞は、前述した神奈川総合高校の『人形の国』の台本と作詞・作曲に出演もしたSさんと、『ある日、ぼくらは〜』のような難しい作品に頑張って取り組んだ山手学院の役者たちに与えられた。私は10校それぞれに対して講評を述べ、審査員特別賞を手渡した。さらに閉会式が終わったあと、廊下やロビーでいくつかの高校の演劇部の部員たちに話を求められたので、詳しい話やアドバイスをした。特に県大会に出場する子たちには、直にダメ出しをしたので、さらに良くして頑張って、次の関東大会にも出られるようになって欲しい。県大会は11月17日(土)・18日(日)に県立青少年センターで行われる。私は18日に観に行く予定だ。
というわけで、またまた長くなってしまったので、24日に観に行った自転車キンクリートSTOREの『ツーアウト』や、26日に観に行った(演劇じゃないけど)JBLの話(これがまた、すごい試合だった!)は、残念ながら来週に回す。菊花賞や天皇賞の話もあるけど、それはいいや、結局はずれたから。実は、今週末も2日の金曜日に、福岡での韓国現代戯曲ドラマリーディング『豚とオートバイ』に出てくれた矢ヶ部哲君が作・演出・作曲というエビビモPro公演『イルマの女たち』を観に行くし(シアターグリーンのBOX in BOX THEATERだ)、3日の土曜日には、横浜フリンジフェスティバルの横浜未来演劇人シアター公演『市電うどん』を観に行くので、来週も長くなるかな。5日の月曜日は久しぶりに劇サロに顔を出す予定だし。
(2007.11.1)