2008年10月第1週


 ソウルに行って来た。ソウルは「ぺ・ドゥナ記念日」以来、4年ぶりだ(3年前に釜山には行った)。今回の目的は、12月に公演をする『豚とオートバイ』の作者である李萬喜[イ・マニ]さんに会い、いくつかの質問とポスト・パフォーマンス・トークに来てもらう打ち合わせをすること。偶然にも同時期に、この前スズナリで観た『青森の雨』のソウル公演をやっているので、それも観る。日程は3泊4日。といっても、最後の日は朝9時の便で帰るだけだから、実質2日半。まぁ、初日が遅い便じゃなくて、夕方にはソウルの街中にいられるので、よしとしよう。「ぺ・ドゥナ記念日」の時は2泊3日で、実質1日半の滞在だったし。同行するのは、『豚とオートバイ』の翻訳者の熊谷さん、福岡での『豚とオートバイ』のリーディング公演の制作者の薙野さん、リーディング公演では医者役で、12月の公演では生演奏でパーカッションを担当してくれる渡辺ハンキン浩二さん、それと私の妻の4人。なかなか濃いメンバーだ。

 出発したのは9月23日。今回は久しぶりに成田空港からで、荷物の移動のことを考え、家から車で行くことにした。成田空港近くの駐車場に預けておいて3泊4日で2835円。高速代やガソリン代を入れても、二人で電車で成田に行くより安い。今後はこのパターンになりそうだ。

 大韓航空の702便で出発は12時55分。家を7時半に出たが、高速が空いていて、思ったよりも早く、9時半過ぎには成田空港に着いてしまった。荷物を預けるところで、液体類は機内へ手荷物では持ち込むことが出来ない(マニキュアやマスカラも透明のビニール袋に入れないといけない)ことを知り(以前は違った)、イ・マニさんへのおみやげの日本酒を、カウンターでくれたプチプチ(正式名は忘れた)で包み、スーツケースに入れ直す。しばらくして、電車で来た熊谷さんと合流し、出国手続きへ。ここは毎度拍子抜けするぐらいあっさりと通過した。それにしても成田空港はきれいになった。広くなったのか、ザワザワと混雑している感じもなくなったし、搭乗待ちのロビーはやたらジャパネスクを強調したような作りになっていた。ま、たまにしか利用しないからあまり関係ないが。

 しばらくして搭乗案内があり、機内へ。熊谷さんは足を痛めているので、美人のスチュワーデスの前の非常口の横の席。私と妻は中央の席で、機内は満員。離陸して1時間ぐらいで機内食。韓国のビール、hiteを1本もらい、それなりに楽しんだが、後で、熊谷さんは何とビールを5本も飲み、チューブのコチュジャンやつまみももらったと聞き、唖然。旅慣れている人はやはり違う。帰りはコチュジャンやつまみももらい、ビールも飲むぞと誓う。いや、大した誓いじゃないが。

 仁川[インチョン]空港到着は15時15分。予定より若干早く着いた。偏西風の関係らしい。預けた荷物も驚くほど早く出てきて、税関もあっさり通過。ロビーに出て、ソウルナビのネットで手に入る、手数料30%割引券を使って両替。ここでびっくり。5万円が531000ウォン。3年前に来た時は50万ウォンを切っていたのに。ウォンの価値が下がっているらしい。今、韓国に行くのはちょっとお得なのかな。まぁ、物価自体、日本より安いが。

 ロビーに出たところのすぐ前にあるバス停(ここは仁川空港が出来た時からずっと変わっていない)から、一般リムジンでソウル市内へ。9000ウォン。途中の景色は、仁川空港から金浦[キンポ]空港まで行ける空港鉄道[A'REX]が出来たおかげで、だいぶ変わった。道路と平行して走っているからだ。2010年には仁川空港からソウル市内まで直通で行けるようになるらしい。重い荷物を持っての駅の乗り降りを考えると、私はバスの方がいい気もするが、電車の方が速いのかな。

 ソウル市内に入ると、やっと韓国に来たという感じで、懐かしい思いにとらわれる。いや別に韓国人じゃないが、昭和30年代生まれとしては、どこか東京オリンピック前の東京の懐かしい風景を感じてしまうのだ。懐古趣味的なつまらない映画じゃなく、現実に目の前に、それがあるのだ、表向きはどんどん新しくなっているソウルだが、まだまだ一歩裏に入ると、古き良き時代の匂いがする。いいなぁ。ま、個人的な思いだが。

 バスは清涼里[チョンニャンニ]行きで、今回我々が熊谷さんの紹介で宿泊する鍾路3街[チョンノサムガ]までは約1時間。バスを降りると、まさにソウルの街。広い道路の両側に商店街が続き、ちょっと歩けば観光地としても有名な仁寺洞[インサドン]もある。そこから裏の道に入り、映画『接続』で有名なピカデリー劇場(改装されて周りの風景も変わってしまったが)の前を通り、10分ほど歩くと宿泊先の世和荘旅館[セファジャンヨガン]に到着。前日先乗りしていたハンキンさんの出迎えを受け、とりあえず部屋に荷物を運ぶ。部屋はオンドルの床でベッドの部屋。お世辞にもきれいとはいえないが、掃除は行き届いているし、外で遊んで寝に帰るだけなら申し分ない。これで一泊25000ウォン。二人でだ。つまり、3泊して一人、約3750円。ちょっと広めの布団敷きの3人部屋に泊まる熊谷さんたちなんて、一人一泊1000円だ(3人の場合は5000ウォン追加になる)。実にチープな旅ということがわかるだろう。

 荷物をおいて、さっそく街に繰り出す。『青森の雨』のソウル公演初日を観劇するため、鍾路3街駅から地下鉄を乗り換え、演劇の街・大学路[テハンノ]のある恵化[ヘイファ]駅まで行く。劇場はマロニエ公園の目の前のアルコ芸術劇場。開演までちょっと時間があったので、軽く腹ごしらえ。熊谷さんお薦めのおいしいチキンの店で一杯。今回の訪韓は、チキンで始まり、チキンで終わることになるのだが、この時点では知る由もない。そういえば、ソウルに行く度に食べてたファーストフードのポパイチキンの店が、大学路店だけでなく、明洞[ミョンドン]店もなくなっていた。どうしたのだろう。

 開場時間に何とか間に合い、パク・グニョンや弘前劇場の長谷川さんに挨拶をして、劇場に入る。5000ウォンの演劇祭のパンフレット(この公演は9月18日から10月19日までやっているソウル国際公演芸術祭2008参加作品なのだ)を買ったが、各劇団の紹介DVD付きで内容も充実していて、いい。日本でもこういうパンフが安く作れればいいのにと思う。安い韓国で作って、送ってもらうという手もあるかも。

 芝居の方は、スズナリで観た時より良くなっていた。細かいところで変わったところも何カ所かあり、スズナリで観た時に感じた疑問点も解決した。練り上げられてきた、ということだろう。一番違うのは観客の反応で(韓国の観客は、とにかく楽しもうとして観ている、という感じが伝わってくる)、やはり舞台というのは、観客と一緒に作り上げるものなのだということを再認識した。逆に、スヒの日本語だけの台詞の役を、韓国の観客はどう思っているのだろうと考えてしまった。終演後、残念ながら役者たちには会えなかったが、パク・グニョンと25日の夜に飲む約束をして、劇場を後にした。

 その後、福岡から22時20分仁川空港着という飛行機で来る薙野さんを、大学路の、これまた熊谷さんお薦めのマッコルリのおいしい店「イー モプスル クリウン サラマー」で待つことにした。この店にはパク・グニョンたちも来るらしく、店内に写真があった。知らなかったが、パク・グニョン演出の舞台に、スヒらと一緒にキム・ギドク映画でおなじみの、私の大好きな役者チョ・ジェヒョン(あの『悪い男』の)も出たことがあったのだ。そういや、ペ・ドゥナの舞台『サンデー・ソウル』の演出だってパク・グニョンだし、あれにはキム・ヨンミンだって出ていて、後で熊谷さんを通じてサインももらったっけ。しかし、我ながらつくづくミーハーだと思う。ま、そのエネルギーが私を韓国に向かわせているということもあるが。

 大学路の店で、おいしいマッコルリをやかんから何杯も飲んでいるうちに(韓国ではそれが当たり前)、薙野さんから、仁川空港に着いたが大学路まで行くバスが終わってしまったと連絡があり、とりあえず、鍾路3街へ戻ることにする。タクシーで2500ウォン、250円だ。安い。何しろ基本料金が190円なのだ。この時点(すでに12時を回っていた)でハンキンさんは酔いつぶれていたので(前日も遅くまで飲んでいたというし)、熊谷さんと妻の3人で薙野さんを迎えに行く。12時15分、深夜の鍾路3街のバス停前で6月の福岡以来の再会。薙野さんと韓国で会えるなんて(ハンキンさんも)、不思議な気分だ。その後、飲み屋を探して道を歩いていたら、熊谷さんの知り合いの店員が店からわざわざ挨拶に出て来た。翌朝は露店のおばちゃんとも挨拶をしていたし、この辺りでは、熊谷さんは有名らしい。まぁ、確かに目立つよなぁ、あの格好と声。結局、その店員のいるホプ(韓国式のビアホール)に入り(ここもチキンの店だった)、4人で韓国初日の夜のコンベ[乾杯]! 実は、私もその前の店のマッコルリがおいしくて、結構飲んだので効いていて、ここで何を話したかあまり覚えていないのだが、初日から福岡や韓国の演劇の話で盛り上がったらしい。ま、このメンバーなら確かにそうなるが。

 というわけで、長くなったので、今回はとりあえず初日だけの報告。いよいよ翌日はイ・マニさんにも会うし、朝から夜中までいろいろ濃いスケジュールだったのだが、それは次回に。そうそう、『豚とオートバイ』の公演日程は次の通り。

アリスフェスティバル2008
d'Theater公演『豚とオートバイ』
作/李満喜[イ・マニ] 翻訳/熊谷対世志 台本・演出/小松杏里
2008年12月6日(土)・7日(日)・8日(月)
土日/2時・6時 月/7時開演
※6日マチネ終了後、ポスト・パフォーマンス・トークあり
新宿・タイニイアリス[TEL/03−3354−7307]

予約開始は10月18日。詳しくは、また。

(2008.10.5)


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