2008年9月第2週


 3ヶ月半ぶりの乾坤だ。この間、当然、いろいろなことがあった。にもかかわらず更新していないというのは、特にこの期間ということじゃなく、今年度、つまり4月から、仕事がかなりハード、というか、ほとんど毎日、帰宅が午前様で(授業が終わってスクールを出るのは10時過ぎ)、朝も早いし、家に帰っても何も書く気力が起きないことが原因なのだ。いろいろ行動はしていても、実は、写真も最近は撮っていない。デジカメを取り出す気分にならないのだ。まぁ、とにかく、なんやかやと疲れているんだと思う。年齢的な衰えも感じるし。いや、いろいろ書いておきたいという気持ちはあるのだが、昼間はスクールで書けないし、夜は家に帰ってバタンキューなのでしょうがないのだ。とはいえ、いろいろメールも頂いたりして、書かなくちゃとは思っているので、これからは、毎日、何かあればちょっとずつ書き溜め、1週間分まとめて発表するやり方にしていこうと思う。

 で、今回からサブタイトルも改めることにした。「トンバイク編」だ。「トンバイク」というのは、2006年の3月に福岡でやった韓国現代戯曲ドラマリーディング『豚とオートバイ』の、出演者たち、仲間内での呼び方だ。豚=トン、オートバイ=バイク。それにちなんで、トップページの写真も、厚木の養豚場まで行って撮って来た豚の写真にした。養豚場の話はいずれまた。しかし、すごい臭いだった。

 さて、なぜ、このサブタイトルにしたかというと、実は今年の12月に、6年ぶりに本格的な演出で公演をやることが決まり、その公演が、『豚とオートバイ』なのだ。リーディングではなく、普通の芝居だ。この作品に対する思いは、以前からいろいろ書いているので省くが、リーディングではなく、舞台公演としてやりたいという思いはずっとあり、それがやっと実現するわけだ。作者の李萬喜[イ・マニ]氏にも喜んでもらえた。

 日本でのリーディングの初演は、2005年の2月に日韓演劇交流センター主催で行われた韓国現代戯曲ドラマリーディングvol.2だ。演出は鐘下辰男、出演者は渡辺美佐子、大鷹明良、西山水木、占部房子、小林勝也という蒼々たるメンバーだった。この時、私もこの作品の演出希望を出していたのだが、当時、福岡在住だったのでダメだった。イ・マニさんに会いに、ソウルまで行ったりもしたのだが。しかし、その後もこの作品をやりたいという思いは続いていて、福岡を離れることが決まった2006年に、福岡の演劇人との交流の上で大変お世話になった「福岡演劇のひろば」の薙野さんのプロデュースで、リーディング公演が出来たのだ。福岡や佐賀、熊本のいい役者たちが揃ってくれた。その時は、アフタートークでイ・マニさんも来てくれることになり、福岡空港までやって来たのだが、何とパスポートがちょっと破損しているということで、入国出来なかったというハプニングがあった。韓国は出ることが出来たのに、だ。まったく、日本の杓子定規なお役所体質の対応ってのはいつになっても変わらない。その後、大阪の劇団が翻訳者の許可なしに上演しようとして(当然、作者の許可もなし)問題になったりもしたが、いつか『豚とオートバイ』をリーディングでなく、本公演でやりたいという思いはずっと持ち続けていた。実は、一時、韓国の戯曲専門に上演していく演劇プロジェクトを考えたりもしたのだが、それをやるためには、まず、この『豚とオートバイ』をやらなくちゃ、と思っていたのだ。あと、韓国現代戯曲ドラマリーディングvol.1で、私が演出した、張鎭[チャン・ジン]の『無駄骨』ね。それと、朴根亨[パク・グニョン]の『青春礼賛』か『三銃士』。まぁ、先のことより今の方が大事なので、そこら辺のことについてはまだ何ともいえないが。

 そんなわけで、今回から「トンバイク編」として、上演に関する詳細や稽古の経過なども、ここで報告していく。とりあえず、今回公演する集団は、月光舎ではなく、d'Theaterという新しいプロジェクトだということは報せておく。母体は、今教えているドワンゴクリエイティブスクールだ。ただ、当然ながら、学生の発表会レベルの公演にする気はない。ゆえに、「6年ぶりの本格的な演出」といっているわけだ。2002年の9月、相鉄本多劇場での『啼く月に思ふ』韓国凱旋公演以来になる。劇場は新宿のタイニイアリスアリスフェスティバル2008の参加公演だ。アリフェスも4回目の参加になるし、気合が入るというもんだ。まだ公演まで3ヶ月近くあるが、すでに稽古は始まって1ヶ月になる。詳細は追って報告していく。

 その前に、この3ヶ月半の間にあったことを手短、でもないが、まとめておこう。

 6月は6本の芝居を観た。4日のマチネに紀伊國屋サザンシアターマウスプロモーションの『銀と赤の記憶』。手塚治虫原作の芝居だが、手塚漫画の斬新さやワクワク感をあまり感じられない、オーソドックスな芝居だった。その日のソワレに、ザ・スズナリ南河内万歳一座の『ジャングル』。南河内のこの作品は、なかな変な芝居で、内藤の近作の中では、かなり気に入ってしまった。私は変な芝居は大好きなのだ。13日に、やはりザ・スズナリで流山児★事務所の『双葉のレッスン』。大好きな天野天街ワールドを堪能した。これも変な芝居だな(笑)。16日には大塚の萬劇場で初見参のひげ太夫『雷神ウツボ』。おもしろかった。ぜひ福岡のぽんプラザでやってほしい。これも変な芝居だ(笑)。この他、6月21日〜23日に1年ぶりに福岡に行った時に大野城まどかぴあの小ホールで、劇団ぎゃ。の『大人狩り/トマトケチャップ皇帝』と、空間再生事業劇団GIGAの『アダムとイヴ、私の犯罪学』を観た。共に、大野城まどかぴあで行われた“寺山修司没後25年特別企画”の公演だ。久しぶりに福岡の劇団の舞台を観たが、やはり何か物足りなく感じてしまった。一言で言えば、プロ意識が足りないということだろうか。勉強不足の感もある。特に寺山だし。まどかぴあには、万有引力も『引力の法則2008』の公演に来ていたのだが、観る時間がなく、シーザーに挨拶にだけ行った。万有は、28日に笹塚ファクトリーでの東京公演を観に行った。『引力の法則』は、螳螂や月光舎でもワークショップでやった作品なので懐かしかった。寺山さんの言葉や独特のあの世界は、やはり大好きだ。

 そうそう、1年ぶりに行った福岡のことも書いている時間がなかったな。6月21日の早朝、福岡空港に着いた後、福岡でのリーディング『豚とオートバイ』の検事役で、今度のd'Theaterの公演の時にはパーカッションで参加してもらうハンキンさん(本職はドラマーなのだ)に、車でいろいろ連れて行ってもらった。とにかく、2泊3日で時間がないので、まずは福岡鮮魚市場会館に行き、"おきよ食堂"で刺身と寿司を食い、昼間から飲んだくれた。もちろん夜は「福岡演劇のひろば」の飲み会で"ふとっぱら・中洲店"。"ふとっぱら"は、ほぼ全店行ったが、一番通っていたのが中洲店だったので、薙野さんに、そこでやってもらえるようお願いしたのだ。懐かしい仲間たちと、懐かしい場所で酔いどれた。福岡は酒も肴も人も最高だ。今年は、10月か11月に『豚とオートバイ』の音楽の打ち合わせでまた行く予定だ。

 7月の観劇は、調布市せんがわ劇場燐光群+グッドフェローズプロデュースの『ローゼ・ベルント』(作/ゲアハルト・ハウプトマン 演出/坂手洋二)と、椿組の花園神社野外劇『新宿番外地』(作・演出/水谷龍二)と、ザ・スズナリでネオゼネレイター・プロジェクトの『THE GHOST STORY』(作・演出/大西一郎)と、紀伊國屋サザンシアターでスーパー・エキセントリック・シアターの『大統領誕生』(作/北村想 演出/八木橋修)の4本。

 『ローゼ・ベルント』では、久しぶりに大鷹明良に会い、終演後、大鷹や西山水木や鴨ちゃん(鴨川てんし)や坂手洋二とも久しぶりに飲んだ。坂手とのアフタートークのゲストで来ていた鵜山仁氏からも、いろいろ例の顛末の裏話も聞けた。しかし、坂手はホントこういうことには熱い。あ、劇作家協会の会長だから当然か。ただ、悪いけど、私ゃあまり"国立"なんてもんには興味ない。坂手のことは好きだから協力するけどね。芝居は、主要な役者たちの力技で作られてる感じ。他の役者たちとの力の差があり過ぎ。演出で何とか出来ないかと思った。

 椿組はウチの息子もお世話になっているし(今回は演出助手)、稽古場にも差し入れを持って行き、稽古の後、水谷龍二氏らとも飲みながら、役者と演出家の違いの話なども出て、いろいろ盛り上がった。江本純子嬢は休みだったので会えなかった。本番を観に行った時も話さなかったなぁ。なんか苦手かも。いや、わかんないけど(笑)。芝居は、例によって変な芝居なので好きな作品だが、もっともっとカタストロフィが欲しかった。ま、私の好みだけど。千葉哲也が『焼肉ドラゴン』にも出ていた関係もあって、『焼肉ドラゴン』の出演者たちとコ・スヒも韓国から観に来ていて、久しぶりに会って抱擁した。デカい。まさに、韓国と日本を股に掛ける大型女優だ。翻訳者の熊谷さんも来て、椿組恒例の毎日打ち上げの後、去年に続いて新大久保の"千里香"に行った。

 ネオゼネは、横浜演劇仲間の大西君の劇団で、今回は私の大好きなジッちゃんこと寺十吾や、今はなきP.E.C.T.の公演で私の娘役をやった笹野鈴々音も出ていて、いい味を出していた。芝居はおもしろかったが、ちと長いし、広がり過ぎの感じがした。もう少しコンパクトにまとめた方がよくなったのでは、という感じ。なんと10月には次回公演があるという。相変わらず大西君は忙しい。演出者協会の事務局長だし。

 SETの『大統領誕生』は知り合いから誘われた関係もあって観に行ったのだが、意外に楽しめた。それは川ア麻世がおもしろかったから。想さんの脚本としては、ま、お仕事してますな、って感じ。だって、『最後の淋しい猫』や『十一人の少年』を観てるんだから。あの頃の想さんの芝居は大好きだ。何しろまだ東京公演を始める前で、わざわざ名古屋の大須の七ツ寺共同スタジオまで観に行ったんだから。最近のは観てないのでわからん。

 7月は、観劇と同時に、神奈川の高校野球の夏の大会を観に野球場に行った行った。そして、見事に応援焼けした。まずは開会式で横浜スタジアム、そして、横須賀スタジアムに、保土ヶ谷球場に、平塚球場に、準決勝でまたしても横浜スタジアム。親バカながら、次男がキャプテンを務める藤沢総合高校野球部が、南神奈川大会で、最終的にベスト4に残ったのだ。残念ながら準決勝で横浜創学館に負けはしたが、県立高校としてはよく頑張ったと思う。結局、決勝は横浜が勝ち、次男の幼馴染の松本幸一郎君は、1年の時から通算3回目の甲子園に行った。大阪桐蔭には負けたが、松本君はなかなか活躍したし、来年は大学に行くらしいが、いずれはプロで活躍するだろう。楽しみだ。あ、次男は、高校3年をもってひとまず野球は辞めて、学校の先生になりたいといっている。いずれ、少年野球や高校野球の指導者になるような気もするが、とりあえずはいいんじゃないかな。彼は、ヤクザな演劇の道に足を踏み入れてしまった長男と違って、堅実派だから。しかし、小学校1年から12年間、野球を辞めずによく頑張った。お疲れさん。最近は相模大野のホルモン焼屋でしっかりバイトをしている。

 7月15・16日には、授業と観劇と高校野球の応援の合間をぬって、塩原温泉に、今年のスクールの夏の合宿の下見に行って来た。とにかく人数が増えたので、去年の河口湖の合宿所では無理で、去年もお世話になった西武バスの担当の人に相談して、150人ぐらいが入れる大きなホールのある「ホテルニュー塩原」にしたのだ。下見は、1泊2日とはいえ、実質1日で近くのいろいろな名所や観光地や休憩所を見学し、ホテル近くのマラソンコース(実際には散歩にした)を調べたりと、結構ハードだった。それでも、夜は温泉にのんびり浸かることが出来て、ちょっと息抜きが出来た。そうそう、翌日がオープンだという那須ガーデンアウトレットにも行くことが出来たのだが、すでにすごい人の数だった。オープン記念特価もあり、私もいろいろ買ってしまった。買い物好きなら半日はかかる広さだ。その後の合宿でも行ったが、またのんびり行きたい。

 7月の19日には、12月の『豚とオートバイ』公演に向けて、スクールの本科生を対象に出演希望の第1次オーディションを行い、22日には、中心となる専科生と本科生の出演者、計12名が決まった。その後、そのメンバーで稽古を始め、さらに、9月5日に第2次オーディションを行い、最終的に18名の出演者と3名のスタッフが決まった。現在は、この21名のメンバーで稽古を続けている。

 8月の観劇は、11日にまず本多劇場で流山児★事務所の『由比正雪〜半面美人の巻〜』。40年ぶりに蘇った唐十郎の傑作戯曲だが、やはり60年代の熱気を表現するのは難しい。どこか空しい感じがした。それは、演出云々とか役者云々とかいうことではなく、劇場自体が毒々しい魔の空間でなくなってしまっているということだろう。やはり、こういった芝居はテントや野外や路上で観たい。

 13日には、d'Theaterも12月に参加するアリスフェスティバル2008の第1弾、ソウルの劇団青羽の『足跡のなかで』を、『豚とオートバイ』の翻訳者の熊谷氏やd'Theaterの役者たちと一緒に観た。初日ということもあり、日韓演劇交流センターの関係者や演出者協会の和田さんや坂手、女優の占部房子嬢や演劇評論家の西堂行人さんも来ていた。演出の金洸甫氏と知り合いだという美加理も観に来ていて、4、5年ぶりに会って話をした。d'Theaterの若い役者たちは、初めて観る韓国の演劇に興味を示していた。

 23日には、地元のハーモニーホール座間で、Nattiプロデュースによる市民参加の公演『わっしょい!』を観た。今年10周年になり、10年前に小学生で参加した長男も出演した。役者としての基本的なことは学んでいないはずだが、声もよく出ていたし、台詞の表現力もあった。やはり、いろいろな現場に参加して鍛えられたのかな。ま、親バカでもあるが(笑)。今度は東京ギンガ堂の公演の演出助手をやる。

 8月にはスクールの授業も2週間の夏休みがあり、6日〜8日には、7月に下見に行った「ホテルニュー塩原」で2泊3日の合宿もあった。総勢約150名、バス3台の大所帯だった。レッスンや早朝散歩や食事や発表や打ち上げやなんやかやと、とにかく大人数でまとめていくのが大変だったが、事故もなく、なかなか盛り上がって楽しく出来たので大成功だったと思う。さっそく来年の予定も決まった。ま、来年は同じ場所で2回目だし、もう少し余裕を持って出来るだろう。合宿の後、我々も1週間の夏休みがあったが、結局、どこにも遠出はしなかった。休みは休むのが正解。

 夏休み中の15日には、下北沢で小学校時代のクラス会があった。代沢小学校6年2組。クラス会自体は10年ぶりぐらいだったが、小学校卒業以来という同級生も来た。約40年ぶりだ。みんな年を取ったものの、昔の面影ははっきり残っているので驚いた。代沢小学校にも行き、卒業制作で作ったモザイク壁画が残っているその前で、みんなで写真を撮った。担任の吉田先生も来てくれた。小学校の時は新任で24ぐらいだったから、我々と12ぐらいしか違わない。まだ定年になったばかりだというし、下手したら我々の中の老けた感じの奴より若々しいので驚いた。下北で演劇関係者以外と飲むのは珍しいが、元々地元なんだから当たり前か。駅前は大いに変わった(さらに変わるが)とはいえ、やはり下北はいい。ていうか、昔住んでいた(下北近辺で6回引っ越した)代沢か代田にまた住みたい。

 9月に入り、一番最近観た芝居は、6日にザ・スズナリで『青森の雨』。青森県日韓演劇交流事業2008の公演で、プロデューサーは青森の劇団、弘前劇場の長谷川孝治氏。作・演出はパク・グニョンで、役者たちは彼の劇団コルモッキルのメンバー。コ・スヒも出てるし、チュ・イニョンも、イ・ギュフェも、パク・ミンギュもいる。みんな、日本や韓国で一緒に酒を酌み交わした友人たちだ。この時も、コ・スヒと『焼肉ドラゴン』で共演した占部房子嬢(しかし、よく会う)や、西堂さんも来ていた。大笹吉雄さんもいた。芝居を観終わって外に出たら豪雨になり、「下北の雨」と雷の中、一緒に観に行ったd'Theaterのメンバーと近くの居酒屋で飲みながら芝居の話をした。

 ふぅ〜、長くなったが、とりあえずこの3ヶ月間を埋めたぞ。で、来週だが、実は23日から26日まで、3年ぶりに韓国のソウルに行って来る。一番の目的は、イ・マニさんに会って、『豚とオートバイ』についていろいろ訊いてくること。そして、今回の訪韓の楽しみは、熊谷さんも行くし(彼とは4年前にも一緒に行った。ペ・ドゥナ記念日の時だ)、ハンキンさん、そして、薙野さんも一緒に行くこと。妻も一緒だし、世代の違う5人でどんな珍道中になるか、今からワクワクしている。向うでは『青森の雨』のソウル公演も観る。パックニョンやスヒ、コルモッキルのメンバーともゆっくり飲めるだろう。大学路[テハンノ]で他の芝居も観たい。

 というわけで、こんなに休んでいてなんだが、来週は確実にお休み。そういや、昔、ソウルから原稿を送って更新したこともあったよなぁ。今回は、とてもそんな時間は取れないと思うので、帰って来たら、まとめて報告する。じゃ。

(2008.9.18)


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