大江戸演芸捜査網
〜楽屋口と客席の間で〜

(52) 2003.1.6 ■「落語とWeb、そして私(5)」


「我如何ニ系圖書キト成リシ乎(1)(われ いかに けいずかきとなりしか)」

鹿流亭主人 難遊亭萬年(なんゆうてい まんねん)
鹿流亭(ろくりゅうてい)

 学研まんが ひみつシリーズ31巻「日本の偉人まんが伝記事典」がきっかけだった。小学3年の時だ。

 この本に出ている人物の生歿年をグラフ(当時は方眼紙を使うことを思いつかず、画用紙に線引いていた)に書き出し、さらに同シリーズ32巻の「世界の偉人まんが伝記事典」のそれと照らし合わせては一人悦に入っていた。この、歴史の楽しさとデータベース作りの楽しさを同時に与えてくれた2冊を学級文庫に提供してくれた水本くんには大変感謝している。

 時は流れて小学5年生。やはり同シリーズ(49〜51巻)に「まんが日本史事典」が登場。迷わず買ってもらった。歴史の本であればどんな簡単な入門書でも必ず系図は挿入されている。たとえば飛鳥時代、皇室と蘇我氏との関係図。平安時代なら皇室と藤原氏との関係図。南北朝時代なら持明院統と大覚寺統の系図といった具合だ。となると掲載されている系図と系図の間はどのようにしてつながっているのか探っていきたくなるのは人情というもの。隙間が埋まっていくのが嬉しくていろんな本を繙いた。クリスマスプレゼントに『姓氏家系大事典』(太田亮著、角川書店)を欲しがる小学生というのも珍しかろう。

 このようにして小学校から中学校にかけて、系図の載っている本を漁っては「足利高氏には高義って兄貴がいたんだぁ」といった発見をしつつ、自作の家系図を充実させていき、家系や名前に対する興味を深めていった。

 高校生になり、本屋でふと見かけた「'91大相撲力士名鑑」(日本スポーツ出版社)。同社から出ているプロ野球選手名鑑(当時280円)と比べて割高(480円)ではあったが、めくっていると巻末近くに相撲部屋系統図があったので購入。その後しばらくして出た『大相撲力士名鑑』(水野尚文・京須利敏編著、共同通信社)と合わせて系図に起こしていった。これが家系図以外の系図の書きはじめだ。

 そしてようやく大学生。平成5年の末に「笑点」を見ていると番組の最後に告知が。

「平成6年笑点カレンダー完成。現役落語家の系図も収録」

 …2週間ぐらいして現物が届いた。

 橘左近師の寄席文字で名前が書いてあって、桂枝女太(文枝門下)の「女」が読めなかったのも落語系図素人時代の想い出だ。ともかくこれより落語家系図に興味を持ち、『落語と私』(桂米朝著、文春文庫)や『落語的学問のすすめ』(桂文珍著、新潮文庫)の上方落語史の部分から不完全ながら系図を作っていった。名前からの連想で、桂塩鯛を初代桂ざこばの弟子にしているのはご愛敬。(塩鯛は三代目桂文團治の弟子)

 さぁ、こうなるとできるだけ正確に、さかのぼれるだけさかのぼって系図を書きたくなるのが自然の摂理。紀伊國屋だったか旭屋だったかの伝統芸能コーナーに行って見つけたのが『古今東西落語家事典』(諸芸懇話会+大阪芸能懇話会編、平凡社)だった。初版発行より14年、落語史研究の基本文献とでもいうべき名著を、系図書きたさに買ったのは私の他に何人もいないだろうという自信はある。これに『落語系圖』(植村秀一郎編輯、私刊。名著刊行会より復刻)と笑点カレンダーのデータを加え作成した上方落語家系図が「鹿流亭」の基となっている。

 新卒で入った会社は、社内の連絡等を全てイントラネット(社内インターネットみたいなもの)で行っていたので、HTMLの勉強が最初の業務だった。このとき「クリックすると他のページに行ける」いわゆるリンクという形式を知り、これは系図作成に大いに役に立つと感じた。

 紙の系図の場合、一枚紙だと面積が大きくなりすぎるし、冊子形式だと誰と誰が兄弟弟子なのかわかりにくくなる。主な噺家だけを系図に書き、詳細を別ページにすると調べる際に手間がかかる。これがリンクによって解消されると思ったのだ。すなわち「詳細は○ページ参照」がクリック一つでできる。これは使える、ということで「鹿流亭」の上方噺家系図は「略系図」と「弟子一覧」の二部構成になっている。

 この会社は入社1年で倒産し、それから程なくして退職したので、いわば給料もらいながら「鹿流亭」作成の手ほどきを受けたようなもの。ここに入っていなければ、現在インターネットをやっていたかどうかもわからない。その意味において、この会社には水本くんと同じぐらい感謝しなければならない。

(この項つづく)



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