2009年11月第3週

 もうすぐ12月、師走だ。いろいろ仕事の方も忙しくなる、まさに師が馳せる(走る)時期なのだが、今週辺りから、知り合い関係の芝居が多くなる。昨日(23日)まで、新宿のシアター・ブラッツで万有引力が『書物の私生児』をやっていたのだが、残念ながら行けなかった。福岡時代の教え子が出ている演劇ユニット・スーパーコンプレックスの『ヨミガエリ』も、六本木のアトリエフォンテーヌで昨日まで。これもダメだった。今週末の27日(金)から29日(日)までは岸田理生さんの『フォーシーズン』をプロジェクト・ムーが日暮里のd−倉庫でやる。これは金曜日に行く。29日の日曜は、スクールの学生たちによるライブが田町のスタジオキューブ326で行なわれるので行く、というより手伝う。すでに始まっているオルガンヴィトーの『幻探偵』には、来年3月の『銀幕迷宮―キネマラビリンス―』で主役のカワシマをやる丸山厚人が出ているので観に行くが、いつ行けるかは未定。長男のみんとが演出助手をしているmetroの『妹と油揚』は、じっちゃん(寺十吾)もトバさん(外波山文明)もワカ(若松武)も出ているので、当然、観に行く。これは12月3日(木)から13日(日)まで新宿のSPACE雑遊。3日からは、座・高円寺1で、水木さん(西山水木)のラ・カンパニー・アンの『月いづる邦−mother moon−』も始まる。これは7日(月)までだ。これもぜひ行きたい。8日(火)から13日(日)までは、スクールの講師をしてくれている鈴木琢磨さんが出る別役の『海ゆかば水漬く屍』が中野のMOMOで。これも行きたい。同じくスクールの主任講師の小野健一さんの劇団、演劇部隊ChatterGangの『クビがとんでもうごいてみせます』が16日(水)から20日(日)まで池袋のシアターグリーンBASE THEATER。これも行かねば。韓国に一緒に行った、元・螳螂のかんのひとみの劇団道学先生が9日(水)から24日(木)まで赤坂のRED/THEATERで『リンゴリンゴリンゴ』。一緒に韓国に行ったメンバーで行く予定。流山児事務所が10日(木)から23日(水)まで下北沢のスズナリで天野天街・演出の寺山原作の『田園に死す』。これも当然行く。15日(火)からはシアターコクーンで大鷹明良が出るケラの『東京月光魔曲』が始まるが、これはもうチケットが売り切れらしい。年明けの1月10日(日)までだから、チケットが手に入ったら行きたい。他にも、何か忘れているのがあるかもしれない。11月も10日から15日まで龍昇企画と元祖演劇乃素いき座の平田オリザ・作『チャイニーズスープ』があり、行きたかったのだが行けなかった。12月もはたして全部行けるのか。全部行ったら何本だ? 仕事との兼ね合いもあり、スケジュール調整が大変だ。そうそう、日韓演劇交流センターの委員会もある。

 そんな中、先週書いた、丸山厚人と秋吉久美子嬢が出ている『ブッダとテロリスト』を観て来た。2日間だけの公演だったが、どうしても行きたかったので、何とか調整して15日の夜に行って来た。会場は、本郷にある"求道会館"という東京都の有形文化財に指定されている仏教の教会だ。建物の中に入っただけで、厳かな雰囲気に包まれ、『ブッダとテロリスト』の世界に引き入れられてしまう。作品と会場の融合性も、演劇にとっては大事な要素のひとつだということを改めて認識した。この公演は、朗読劇と名付けられているようにリーディングの公演なのだが、衣装、音楽、役者の動き、シンプルな照明効果等が、会場の雰囲気と相まって、これまで観た、どのリーディング公演よりも良かった。あらかじめ原作本を手に入れ、前もって読んでいたのだが、小説も良かったが、この公演はさらに良かった。原作からの脚色と構成(梶本恵美)が的確で、役者たちそれぞれの個性を活かした演出(石本興司)も素晴らしかった。それに応える役者たちの演技も見事だった。ブッダを演じた秋吉久美子の、深い慈愛を感じさせる抑えた演技、そして、殺人鬼アングリマーラ役の厚人は、荒々しさと、ブッダの愛に目覚めてからの心変わり、そして、自ら背負った哀しみを、深く表現していた。彼ならきっと、カワシマの複雑な生き様も熱く演じてくれるだろうと確信した。他の出演者もみんな良かった。終演後、一緒に観に行った青木さんや中村さんや妻、そして、古くからの付き合いの日刊ゲンダイの山田さんらと、初日乾杯の席に同行し、出演者やスタッフの人たちと飲んで話したが、ホントに心から良かったという思いで飲み合える、楽しい酒の席だった。残念ながら、我が青春の秋吉久美子嬢は飲み会に参加出来なかったが、厚人が、ひょっとしたらと私が持って行った、昔の彼女の本(詩集『いないないばあ』とエッセイ集『つかのまの久美子』)やサインや切り抜き帳を預かってくれ、30何年ぶりにサインをもらってくれるという約束をした。まだ戻って来ていないが、はたして……。我ながら、ミーハーなのは昔から変わらない。

 さて、9月に続き、10月も韓国に行って来た話をしておかなくては。

 10月の韓国行きは、9月に行った時、コ・スヒから10月18日の日曜に行なわれる結婚式の招待状をもらったことで、即、決まった。大学路[テハンノ]にあるパク・クニョンの稽古場を訪ねた後、スヒの婚約者の店"JACU Jamica & Cuba"に行った時だ。スヒが10月に結婚することは前から知っていて、9月に行った時にお祝い(かわいいハート型のアルバム風写真立て)も持っていったのだが、やはり、韓国の結婚式に出席することが出来るとなると、話が違う。映画やドラマで観たことはあっても、実際に参加出来る機会など、そうあるものでもないし。しかも、韓国の伝統式結婚式だという。スヒと面識もある妻も一緒に行きたいといったので、その場で、すでに行く予定だった中村さんにいうと、その場にいた青木さんも、僕も行こうかな、というので、その4人での10月ソウル行きが、即、決まったのだ。その時すでに、何だか楽しくなる予感はした。

 9月に帰国してから、すぐにチケットの手配をした。青木さんは羽田から行くというので、我々夫婦と中村さんの3人で、いつも利用するトラベルコちゃんのサイトから、成田発のアシアナ航空の便を押さえた。9月に行った時は往復28.580円、10月は25.420円だった。どちらもアシアナの、空港使用料や諸税も含めての往復航空料金だ。ソウル行きの格安航空券は、ユナイテッドや大韓航空もあるが、アシアナ航空が一番サービスがよく、機内食もおいしいので、私は好きだ。アシアナは、機内でマッコリも飲めるようになり、帰りの便では飲んだ。ちなみに、1月に行くチケットもすでに取り、アシアナで、すべて含めて26.120円。多少変動はしているが、往復3万円以下で行ける。まぁ、2005年の8月に行った、福岡から釜山への高速船のツアーで2泊3日15.000円というのには敵わないが。

 最近(去年の9月から)、成田空港から行く時は、車で成田まで行き、帰国するまで空港近くの駐車場(私が利用するのはUSAパーキング)に預けておくパターンになっている。9月に行った時には、渋谷でかんのを拾って行ったが、10月は中村さんをやはり渋谷で拾い(渋谷までは東名と246)、首都高から京葉道路を通って成田に向かった。途中、後部座席の中村さんの話がおもしろ過ぎて、私が、運転している妻に適当に相槌を打ったら、道を間違え、宮野木JCTでそのまま館山の方に進んでしまい、次の穴川から一般道に降り、千葉北に戻って東関東自動車道に入り直したのは、御愛敬。ま、決して行くことはないであろう、広大な千葉県総合スポーツセンターの前を通ったりして、楽しかったが。その後、車の中で中村さんは静かになってしまった。

 迂回した割には余裕を持って成田に着き、出国手続きも問題なく、成田から出発。3人並んで機内食もおいしくいただき、ビールも2本、コーヒーももらって仁川空港に到着。この入国検査場で、私は怪しい中東系の外国人たちがいる列の後ろに並んだものだから、一人だけ出るまでに時間が掛かってしまった。たとえ長くなっていても、日本人たちの列の後ろに並ぶのが結果として一番早いという鉄則を守らなかったからだ。案の定、その怪しい外国人たちは別室に連れて行かれてしまった。

 空港を出てから、いつもの一般リムジンの鍾路行きのバス[6002]ではなく、ソウル大学行きのバス[6003]に乗ることになった。というのも、今回は4人とも、中村さんの友人、チョン・ウンジョンの家に泊めてもらうのだ。ウンジョンは、クマさんの友人でもある俳優のチョ・トクチェの婚約者ミョンファの兄さんだ。ミョンファには、9月の大学路での飲み会の時に会ったが、ウンジョンに会うのは初めて。ウンジョンの家は、金浦空港の近く、江西区にある。仁川空港を出発したバスは、金浦空港に寄った後、比較的早く、88体育館のバス停に着いた。バス停にはウンジョンが迎えに来てくれていた。ウンジョンは横浜に住んでいたこともあり、日本語がペラペラだ。

 ソウルの賑やかな中心地ではなく、普通の街を歩くのは久しぶりだ。江西区というのは、東京だと、どの辺なのだろう。少なくとも東京よりは、道路も歩道も裏道の幅も広いし、空が広い感じがする。大きな教会や高校があり、オフィスビルも結構ある。ホームプラスという大きなショッピングセンターもあり、その前に大きなマンションが建っていて、ウンジョンの家はそのマンションの一階にあった。

 韓国の家は、マンションといえども中は広い。リビングが15畳ぐらいあり、さらにキッチンが続いているから、かなり広く感じる。そこを中心に10畳ぐらいの部屋が二つと6畳ぐらいの部屋があり、我々夫婦は、赤ちゃんの部屋に使っていた6畳の部屋に、青木さんと中村さんは10畳の部屋に泊めてもらうことになった。ウンジョン夫婦には、チャニョンというまだ1歳になっていない赤ちゃんがいるが、三人は我々がそこに泊まる時、近くのお父さんの家に泊まるので、自由に使ってくれ、というのだ。オートロックの鍵の番号や開け方まで教えてくれて、冷蔵庫の中の物も、勝手に食べて飲んでくれというし、話には聞いていたが、韓国人の親切さには驚くばかりだった。

 その夜は、外に食べに行こうということになり、ウンジョンに、近くのカムジャタンが名物だという『チョンギワ[青瓦]カムジャタン』という店に連れて行ってもらった。カムジャタンはじゃがいも(カムジャ)の鍋といわれているが、中に入っている大きな豚の肉付きの背骨のことをカムジャ骨というので、カムジャタンというのだともいわれている。大久保の韓国料理屋で食べたこともあるが、日本だと豚の骨に付いている肉が少ししかないが、さすが本場のカムジャタンは肉もたっぷりついていた。さらに、ある程度、肉を食べたら、スジェビという、日本のすいとんのような小麦粉を水で溶いたものを入れる。これも本場ならではないだろうか。もちろん、〆はポックンパという焼き飯(チャーハン)だ。その日は、その後、帰りに24時間営業だというホームプラスの食品売り場で酒やつまみを買い、結局、夜中の3時ぐらいまで、家でウンジョンとみんなで飲みながらいろいろ話した。日本語ペラペラのウンジョンも、酔いどれてくるとハングルになった。

 翌朝、簡単な朝食をウンジョン宅でいただき、スーツを着て(韓国の結婚式では、礼服を着るのは親族関係だけと聞いていたので、ごく普通のスーツ)、スヒの結婚式が執り行われる成均館[ソンギュングァン]大学に向かった。成均館大学は、パク・クニョンの劇団コルモッキルの稽古場のすぐ前にある。ウンジョンの家の近くの地下鉄9号線(この9号線は今年の7月に出来たばかりで、駅も電車も新しくてきれいだ)の加陽[カヤン]駅から汝矣島[ヨイド]駅に行き、5号線に乗り換えて東大門[トンデムン]駅へ、さらに4号線に乗り換えて恵化[ヘファ]駅に行った。恵化は大学路[テハンノ]のある駅だ。そうそう、何回も出て来ているが、大学路という駅は、地下鉄にはない。

 恵化には時間よりかなり早く着いたので、天気もいいし、大学路を散策しようということにした。まず、マロニエ公園の方に行くと、何かのイベントをやっているらしく、いろいろおもしろいアート作品がいっぱいあった。日本のアート作品はおしゃれだし、どこか高級感があって、何となく近寄り難いものが多いのだが、韓国のアート作品は遊び心があって楽しいものが多い気がする。ここで見たものも、そういうものが多かった。

 その後、成均館大学に向かい、いよいよ、韓国人でもあまり見たことがないという、韓国の伝統式結婚式に参列することになるのだが、その報告は、次回。

 今週から来週にかけて、日曜も含め、まったく休みがないので、またちょっと遅れるかもしれないが、年内には、10月の韓国行きの報告も、6月から9月までの報告も、何とかまとめてしまいたい。そして、さらに忙しくなるであろう2010年を、楽しく迎えよう!

(2009.11.24)


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