2006年9月第5週

 さてさて、まずは、長くなったので分けた、先週の続きから。

 9月23日の秋分の日の土曜日、午前中、長男の高校の文化祭に行き、その後、下高井戸の菩提寺に墓参りに行き、夜は横浜の関内に向かった。本当だったら、この週末は福岡に芝居を観に行くつもりだったのだが、仕事の都合でさすがに福岡までは行けなくなり、それだったら、ぜひ行きたいなぁと思っていたのが、関内駅から歩いて10分ほどの日本大通りにある、横浜情報文化センターで開かれている第5回横濱学生映画祭。そのプログラムの中のひとつ、韓国フィルムアカデミーの作品の上映会だ。

 渋谷から東横線で横浜に出て、横浜から定期券があるのでJRに乗り換えた。横浜情報文化センターのある日本大通りには、東横線から直通のみなとみらい線が出ていて、日本大通り駅もあるのだが、みなとみらい線は、横浜を過ぎると極端に高くなる。渋谷から横浜までは260円なのに、4つ先の日本大通り駅までだと460円になるのだ。で、定期券のあるJRに乗り換えたのだが、目的の、韓国フィルムアカデミーの作品の上映時間までは随分時間があったので、ひとつ手前の桜木町で降り、みなとみらいから馬車道へとブラブラ歩きながら日本大通りまで行った。途中、壁に大きく“弁護士ビル”と書かれているビルを発見。まぁ、弁護士事務所がいくつも入っているビルなんだろうが、1階が牛どんのらんぷ亭(らんぷ亭は牛丼じゃなくて、牛どんと表記されているので一応。ちなみに松屋は牛めし)だったのがおかしかった。みんな、昼は牛どんを食べている、わけないな。

 韓国フィルムアカデミーというのは、韓国の国立の映画学校で、現在、韓国映画界で活躍している多くの監督を輩出している。この日、上映されるのは、『浮気な家族』のイム・サンス、『八月のクリスマス』のホ・ジノ、『殺人の追憶』のポン・ジュノらが学生時代に卒業制作で撮った作品というわけで、これはもう、韓国映画ファンとしては観たくなるのは当然だ!

 会場には時間よりだいぶ早く着いたが、その前に上映していた作品も観ていいというので、中に入った。上映されていたのは、日本映画学校の学生が卒業制作として撮った作品で、在日韓国人の高校生が韓国の徴兵制のことを知り、自分にとっての祖国とは何かということを知るために、北緯38度線の非武装地帯に立ち、海兵隊に体験入学する姿を追ったドキュメンタリーだった。初めは、学生の撮った映画にはあまりいい印象を持っていなかったので(今から30年以上前、私が某M大学に入った時、映画研究会に入ろうと思い、部員の作った映画を観せてもらったのだが、私が中学や高校時代に撮った映画の方が断然おもしろいと思ったので、入るのをやめた。そのおかげで演劇の道に進んでしまったのだが)、大したことないだろうと思って観ていたのだが、次第にグイグイ引き込まれていった。韓国の話で、私自身興味のある徴兵制の問題を扱っているということもあるのだろうが、観ながら、これはぜひ、日本の高校生たちに観てもらいたいなぁと思った。国を愛する、国を自分たちの手で守る、などというと、すぐ右翼だとか軍国主義などといわれてしまう馬鹿げた風潮がある日本の、将来を担う若者たちに、ぜひ観てほしいと思ったのだ。韓国と国の事情はまるっきり違うが、自分たちの国(韓国でいうウリナラ)のことを考えることは絶対に必要だからだ。しかも、これを撮った学生というのが、実は、その海兵隊に体験入学した高校生の、実のお母さんなのだ。この作品には、子を想う母の視線もあり、その母親の思いを感じる子供の姿もしっかり描かれている。そういったものを感じてもらえれば、親を平気で殺したりする餓鬼共も少しは減るのではないだろうか。いや、これだけじゃ無理だけど。しかし、この映画、ウチの子供たちや代アニの学生たちにも観せたいなぁ。ビデオやDVDで貸し出ししてくれないかなぁ。子供のいる家庭で観て、みんなで話し合ったりするのにもいいと思うけど。日本映画学校に訊けばいいのかな。ちなみにタイトルは、『URINARA(祖国)〜母のまなざし、息子の声〜』。あ、どっかのテレビ局でやってくれりゃいいんだよ! 大して芸のないお笑い芸人がたくさん出ている、くだらない番組ばかりやってないで。

 そんなわけで、お目当ての韓国フィルムアカデミーの作品を観る前に、すでに「観に来て良かった」と、いい気分に浸りながら、その後、5本の作品を観た。1本目の、イム・サンスが卒業制作作品として1988年に撮った『クー氏のカメラ』は、イム・サンスのプロフィールにもちゃんと載っていて、いつか観てみたいと思っていた作品だ。14分という短編ながら、イム・サンスらしいアイロニーに満ち溢れた作品で、なかなかおもしろかった。この10年後に、『ディナーの後に』で青龍賞の新人監督賞を取ることになるわけだが、ドキュメンタリー的な作り方は、この頃から得意としていたわけだ。

 2本目は、ホ・ジノの1992年の卒業制作作品『コチョルのために』。これも彼のプロフィールで紹介されている作品で、なんと主演のコチョル役が、私の大好きな役者の一人、アン・ソクファン(2004年に訪韓した時、彼の主演の舞台『男子衝動』を観た)だったので驚いた。もちろん、まだ若い。やはり、ホ・ジノも、この6年後に、『八月のクリスマス』で、青龍賞と大鐘賞の新人監督賞を取る(青龍賞は最優秀作品賞も)。『春の日は過ぎゆく』『四月の雪』と、その後もいろいろな愛の形を描き続けるホ・ジノだが、この『コチョルのために』でも、愛に生き、愛に悩む男の姿を楽しく描いていた。これも21分の短編だ。

 そして3本目が、ポン・ジュノの1994年の卒業制作作品『支離滅裂』。これもポン・ジュノのプロフィールに載っている作品で、やはり、30分の短編だ。実は、イム・サンスの『クー氏のカメラ』も、ホ・ジノの『コチョルのために』も、この作品も、過去に“ぴあフィルムフェスティバル”で上映されている。いやぁ、これからは“ぴあフィルムフェスティバル”も気にしとかないと。その後の韓国映画界を担う監督たちの、若き日の作品が観れるかもしれないのだから。しかも3本とも、バンクーバー国際映画祭はじめいろいろな映画祭に招待されている。学生が作った映画とはいえ、侮れない。韓国フィルムアカデミー、恐るべしだ!

 さて、ポン・ジュノの『支離滅裂』だが、前述の3本の中では一番おもしろかった! いかにもポン・ジュノらしい、人間観察とユーモアに溢れた作品なのだが、実は、これが一番、学生映画っぽい! イム・サンスの作品も、ホ・ジノの作品も、一般映画のようにしっかり作られていて、感動があったりするのだが、ポン・ジュノの作品は、とにかく馬鹿馬鹿しく笑わせてくれて(こういった部分は最新作の『グエムル』にも通じる)、撮り方もアマチュアっぽい。いや、そこがいいのだが。これはぜひ、また何かの機会に上映して欲しいし、また観たい! DVDにならないかなぁ。

 さて、すでに有名になっている監督の作品の他にも、2本上映されたのだが、これがまた、よかったのだ!

 4本目は、イ・ハ監督の『愛していい?』。上映時間は25分。2003年度の卒業制作作品だから、つい3年前だ。実は、イ・ハ監督は、今年の3月に韓国で公開された『女教授の隠密な魅力』というコメディー作品でメジャーデビューを果たしている。残念ながら、その作品は未見だが、主演がなんと、ムン・ソリとチ・ジニだというのだから、ぜひ観てみたい! 『愛していい?』は、個人でやっている小さな自動車教習所に勤める女と、そこの所長の関係をリアルに淡々と描いていて、大好きなホン・サンスの作品を彷彿させ、なかなかおもしろかった。

 そして、5本目が、キム・ヒョンジュン監督の『ウサギとクマ』。2005年の卒業制作作品だから、この監督に関する詳しいデータはわからない。しかし、実は、今回上映された5本の中で、私が一番好きなのは、この作品なのだ! 有名監督たちの若き日の作品を観ることが出来たのも良かったが、キム・ヒョンジュンという才能ある若い監督の、この作品に出会えたことが、何よりうれしかった! 学生の卒業制作作品で、21分の短編だというのに、キム・ギドクの作品に初めて出会った時のような衝撃を受け、エンドタイトルでは涙が止まらなかった! 台詞が少なく、そういうところはキム・ギドクに似ているかもしれないが、タッチはまるで違う。一瞬、メルヘンぽいのかと思ってニヤニヤしていると、そのシチュエーションを逆手にとって強烈なリアリティが襲ってくる。今風の画[え]なのだが、何ともいえない哀愁が漂っていて、押し付けがましくないし、今までの韓国映画で、あまり観たことがないタイプの作品だ。これこそ、ぜひまた早く観たいし、この監督にも会ってみたい! 今度、ソウルに行ったら、何とか探して会ってみようかなぁ、「『ウサギとクマ』を観て感動してファンになりました!」って。

 それぞれの作品の詳しい内容に関しては、第5回横濱学生映画祭のサイトを見てもらうとして、来年はぜひ、時間の許す限り、他の日本や中国の学生たちの作品も観てみたいと思う。しかし、こういうクオリティの高い学生の作品を、30年前、大学に入った時に観せられていたら、私は迷うことなく映画の世界に進んでいただろうなぁ。そうなっていたら、今頃は……。いや、せめてあと20年若かったら、今からでも、韓国フィルムアカデミーに入りたいよ、まったく!

 というわけで、先々週の話はここまでで、さて先週は、というと、これまた大した動きはなく(もっぱら、授業とその準備に時間を費やしているので)、週末の土曜日は競馬もやらずに近くの座間市立図書館に行き、いろいろ本を読み漁り、帰りも10冊ほど借りてきて、日曜日も家で読み、久しぶりに読書三昧の週末となった。といっても、小説以外はしっかり読むわけじゃなく、おもしろそうなところばかり読む、いわゆる飛ばし読み。

 そうそう、ハングルの勉強も再開した。というのも、週1回、学院で授業の合間の昼休みに中国語講座というのをやっていて、私が担当している関係で(福岡にいる時もやっていた)、最近、真面目に中国語の勉強もしているのだが、これがなぜか韓国語と比べると覚えやすく(文法は違うが、発音とか似ているものがある)、どうせなら両方いっぺんに勉強しちゃえと思ったわけだ! まぁ、時々、ごちゃごちゃになるけど、そこを整理すると、逆に理解しやすくなって、いいんじゃないかな、と。この、比較記憶術というか、比較勉強法の成果は、いずれ報告するとしよう。

 で、日曜の昼間、一応、秋のGT第1戦のスプリンターズステークスは観た。馬券は買わなかったが、勝ったテイクオーバーターゲットは強かったぁ! 1200mのレースで逃げて、さらに直線で伸びて2馬身以上の差をつけるなんて、まさにスプリンター! それにしても、2着3着が人気薄のメイショウボーラーとタガノバスティーユで、3連単が263万円にもなったのには驚いた! 3連複でも57万円弱だったけど、これはどう考えても買ってなかったと思うので、馬券を買わないでよかったということだ。

 そして、深夜には、ディープインパクトの凱旋門賞! いやぁ、残念だった! そんなに調子は悪そうには見えなかったし、あのレース運びも決して間違ってなかったと思う。直線では一瞬先頭に立ったが、そこから伸びなかったのは、やはり、あの深い芝と、今まで背負ったことのない59.5kgという負担重量のせいだろう。これがもし、去年出場していて、3歳馬の負担重量の56kgだったら、おそらく勝っていたに違いない。しかしまぁ、アウェーの舞台で、世界ランク1位のハリケーンランや2位のシロッコには先着したのだから、やはり実力は世界No.1だろう! それが、競馬というレースになると、展開ひとつで3歳馬や牝馬が勝ったりすることもあるってことだ。だから、競馬はおもしろい!

 もうひとつ、特に先週の話ではないが、報告しておきたいことがあったのだが、それはまた来週! 今週末は3連休だが、7日の土曜は学院に出勤。8日は、東京競馬開催が始まり、GUの毎日王冠があるから、久しぶりに東京競馬場に馬を観に行って来ようかな!

(2006.10.3)


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