2004年4月第2週

 毎度、韓国の話ばかりで恐縮ですが、演劇が好きな人だったら、韓国の演劇も、一度観始めるとハマりますよ! もちろん、映画のように字幕があるわけではないので、台詞の微妙なところまで完全にわかるというのは、なかなか難しいんですが、まぁ、演劇を観る上で必要不可欠な「想像力」ってやつを駆使すれば、かなり楽しめます。表面的にわかりやすい芝居ばかり観てて、頭が単純なものしか受け付けないようになっている人はダメでしょうけどね。あ、韓国の芝居は決して難しいというわけじゃないんですよ。どちらかというと、エンターティメント色は強いと思います。役者の演技も表現が豊かで、とてもわかりやすいですし、シリアスな芝居であっても、必ず観客が笑うシーンがあったりしますからね。観客の反応は、とにかくストレートです。笑ったり、泣いたり、拍手したり。あと、日本のように、新劇やら小劇場やらアングラやら商業演劇やらという区別がないように思います。私が今まで観た限りでは、ひとつの芝居に、すべての要素が入っている感じがしますね。ミュージカルも入っていたり。いやぁ、韓国の歌手はいうに及ばず、役者の人たちも歌は巧いです。いや、役者だけじゃなく、一般の人も巧いですね。あれはどうしてなんでしょう? カラオケ(ノレバン)に行くと、若い人も年配の人も、みんな元気に歌いますからね。そうそう、今回は映画と芝居と食ったり飲んだりばかりに時間を費やしていて、ノレバンには行けませんでした。そのおかげで疲れなくてすみましたが。前にも書きましたが、韓国のノレバンに行くには体力が必要なんですよ。休んでられませんからね。

 さて、先週の続きですが、3月27日の土曜の夜、前日の夜の飲む席にも来てくれた、日本語の出来る女優のナ・ジャミョン(羅自明)さんとパク・グニョン氏と待ち合わせ、チョウ・ガンファ氏と会って、彼が作・演出をしている『男子衝動』を観るために大学路の東崇アートセンターに行きました。ナさんは、今年の2月に楽天団の和田喜夫さんの演出でシアターXで上演された『居留地姉妹』にも出演していた女優さんで、前日に観た『三銃士』に出演していたオム・ヒョーソプやイ・ギュヘと同じく、2001年にタイニイアリスフェスティバルで上演された東崇(トンスン)舞台の公演にも出演していました。私は、その時に初めて彼女に会ったことを、後で思い出しました。今回の訪韓では、いろいろな人への電話連絡など、彼女にはずいぶんお世話になりました。笑顔がかわいくて人懐っこい、とても魅力的な女性で、いつか私の舞台(日本公演と韓国公演)に出てもらうことも約束しました。楽しみだなぁ!

 そのナさんと東崇アートセンターの前で待っていると、パク・グニョン氏が少し遅れて現れ、チョウ・ガンファ氏は体調が悪くて来られないということと、すごい人気の『男子衝動』は、土曜の夜のその回は満席で、チケットが取れないかもしれないということを、すまなそうにいってきました。ところがその時、『男子衝動』のプロデューサー、チョ・ヘンドク氏が運良く外に出て来てパク氏を見つけ、パク氏が話をすると、チョ氏が自分の友人が来る席を2枚譲ってくれるというのです。友人は別の日にしてもらうからと。私はパク氏に日本の友人の演出家だと紹介され、結局、パク氏はいつでも観れるし、ナさんは、次に出演予定のある芝居の演出家がやっている舞台(すぐ近くの劇場です)を観に行くからと、私と妻を招待してくれることになりました。なんとその席は、前から3列目の40,000ウォンのS席でした。まぁ、物価が安い韓国ですが、映画が7,000ウォン(=約700円)ですからね。広いアートセンターのホールで、私の大好きな役者で、多くの韓国映画に出演しているアン・ソックァンをはじめ、素晴らしい役者たちをすぐ近くで観ることが出来、私はもう大喜びでした。いやぁ、ほんとにカムサハムニダ(感謝します)でしたね!

 芝居は、アル・パチーノに憧れながらヤクザの組織を仕切るアン・ソックァン演じる主人公ジャンジョンとその家族の物語(やはり家族が出て来ます)なんですが、組織の人間たちや家族、そして、彼らと絡む人々、それぞれのキャラクターが個性的でおもしろく、役者たちの演技が達者な上に、演出がまたいろいろ細かいところまで凝っていて、休憩をはさんで3時間近い芝居がアッという間でした。いや、これもよく私が好きな芝居を観た時に書いていることなんですが、このままずっと終わらないでほしいという世界に浸ることが出来ました(考えたら、ダメな芝居は早く終わってほしいと思いますもんね)。チョウ・ガンファの劇世界は、かなり妖しいところもあったりして、私好みですね。この『男子衝動』は無理でも、韓国ドラマリーディングの時にやった『狂ったキッス(マッドキッス)』なんかは、ぜひいつか演出してみたいと思います。

 とにかく、最近は韓国に行く度に芝居を観てるというか、芝居を観るために韓国に行くというか、大昔、東京で芝居を始めた頃は、刺激を求めて名古屋や大阪までおもしろい芝居を観に行ったりしてたもんですが(TPO師★団や少年王者や日本維新派ね……みんな名前変わったけど)、それが最近は韓国になったのかもしれませんね。だって、刺激を受けるような芝居、日本でなかなかないんだもん! まぁ、すべてを観てるわけじゃありませんが……なんか、匂いがね、しませんね、最近のきれいきれいな大きな劇場では。いや、ホントの匂いじゃないですよ。毒のある劇世界の、匂いね。

 というわけで、韓国との演劇交流はさらに続くと思いますが……そうそう、東崇アートセンターのホールのロビーの壁には、昔からの韓国の有名な演劇の写真や作家や演出家の写真が飾られているんですよ。こういう風に、劇場で、演劇史に触れることが出来るというのはいいですね。日本だとどこでしょうか。紀伊國屋ホールかな。まぁ、新しい芝居のチラシはどこでもいっぱい置いてあるけど、日本の演劇史をビジュアル的に知ることが出来るようなロビーのある劇場があってもいいんではないでしょうか。自分の劇場で上演した作品だけは紹介してる劇場はあるけどね。そうだ、我々の税金で成り立っている国立劇場がやればいいんだ!

 今週は演劇の話ばかりになりましたね。韓国の食べ物の話は……もういいね。何でもおいしいのはわかってるでしょうから。今回の韓国編は、とりあえず今週でおしまい! そうそう、今週末には、西鉄ホールに『ケ・イ・ジ』を観に行きます。今回は小須田氏と飲めるかなぁ?

(2004.4.13)
(つづく)


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