2004年6月第3週

 今、学院の授業で私が担当しているのは、2年生がシェイクスピアの『マクベス』、1年生が私の作品『グレシアの森に』と、毎日、朝から演劇づいているんですが、先週は、学院以外の時間でも演劇づいてた週でした。

 火曜の夜、前にもお知らせした、薙野信喜氏が主宰している「福岡演劇のひろば」のオフ会があり、前回にも増して、いろいろな方たちとお話することが出来ました。最終的に22名の参加者があり、全員の名前を紹介することは出来ませんが、今回、初めてお会いした人は、80年代から福岡にいろいろな劇団の公演を呼んでいるピクニックという興行会社の会長の山田修三氏、N.T.Rという季刊の福岡演劇批評誌を編集・発行している柴山麻妃嬢(彼女はアートサポートふくおかの理事でもあります)、北九州の劇団、演劇作業室紅生姜主宰の山口恭子嬢、宝塚大好きのミュージカル劇団エトワールの主宰者大場久路嬢、劇団ルースマンの主宰者でナレーターの仕事もしている役者の波瀾万丈氏、演劇ユニット銀粉胡蝶館の主宰で女優の峰尾かおり嬢(彼女は北九州芸術劇場で1月に観た『ものぐるひぐさみ』に出演していたのです)、劇団天地の制作で役者でもある荒井孝彦氏、そして、イベント関係の会社をやっている泊敏朗氏、光平真紀嬢、九州ウォーカーの演劇やイベント欄のライターで、最近独立して事務所を持ったという堺明美嬢、そして、前から一度お会いしたかった劇団轍WaDaChiの主宰者で九州大谷短期大学の専任講師でもある日下部信氏。他に、前回もお会いした“オレアゴ”の東内拓理氏、劇作家の宮園瑠衣子嬢、中西由紀嬢らがいらっしゃいました。フーッ、名前を書くだけでも大変なメンバーです。

 で、話はいろいろと膨らんだんですが、福岡の演劇状況を知りたい私としては、山田氏の、80年代からの、福岡に公演に来る劇団の変遷の話を伺えたのが楽しかったですね。ただ、話を聞いているうちに、福岡の劇団の人たちは、他の公演をあまり観に行かないということがわかりました。つまり、公演を観に行くのは演劇を観ることが好きな人たちで、やっている人間は他の公演を観に行かないから、観る側とやる側との間にギャップが生まれてくるってことですね。どうも、その辺りが、福岡の演劇状況をもうひとつ高められない要因なんじゃないかと思いました。北九州は、やる側も、観たり参加したりするイベントが多いわけです。それが「芸術」という名の悪魔の囁きに似たオブラートに包まれている気がしないわけでもないんですが(実際、何度も書いてると思いますが、私は初めから「これは芸術です」なんていうのは大っ嫌いで、それが芸術かどうか判断するのは、ずーっと後世の人でいいと思うんですけどね。だいたい後世に残れば、それだけで素晴らしいと思いますし)、オブラートに包まれていようがなんであれ、飲めればいいわけで、福岡では、まず、飲もうとしないんですよ。やる側は自分たちで好き勝手にやっているだけで、他の公演を観て刺激を受けたりするようなことがないってことなんですね。逆に、観る人間は東京から来た劇団なんかをよく観てるから目が肥えてきて(すべてがいいというわけじゃありませんが)、(福岡の劇団は)こんなんじゃダメだということで、どんどん溝が広がっていくわけです。これを何とかしないと、福岡の演劇はいつまでも、自己満足だけでやっていることが通用しているままでいるような気がします。なんだか、福岡に来てまだ2年目の福岡演劇初心者が偉そうなこといってすみませんが、福岡の人の気質として、前に「人は人、自分は自分」というところがあると聞きましたが、それなのかもしれませんね。でも、音楽の世界では、福岡発全国区になった人、多いですよね。演劇もそうなってほしいんですけど、そこには福岡の演劇を温かく、時には厳しく見守って育てていくプロデューサー的な役割の人が必要だと思うんですけど、いませんかね。

 オフ会は、そんなことを考えたからといって別に落ち込んだわけでもなく、逆に、ぜひ福岡でやる時には一緒にやりましょう! という前向きな関係がいくつも生まれ、実に有意義な時間でした(私にとってだけじゃなく、参加者みんなにとってであってくれれば、うれしいんですけど)。

 さて、そんな福岡の演劇状況について、新しい発見と出会いがあってから4日目の土曜日の昼間。またまた新しい発見、そして、出会いがありました。今年の利賀演出家コンクールに出るという福岡の劇団、空間再生事業劇団GIGA(と聞いて、最初、劇団鳥獣戯画を思い出しちゃったんですが、全然関係ありません)の公演『見知らぬ人』を観に行ったんですが、いやぁ、福岡に来て1年2ヶ月、ようやく私の波長に合う、そして、可能性を感じる劇団に出会いました! 実は来年旗上げ10周年を迎える、福岡では有名な劇団らしいんですが(すみません、知らなくて)、私は当然初見参でして、こういう劇団が福岡にもあったのか! という喜びで、2時間15分、クーラーもない小さな暑い空間に閉じ込められ、熱〜い芝居を、直前に飲んだコカ・コーラC2(おいしくない!)のせいで汗をダラダラ流しながらも、ニコニコしながら観てました。といっても、決して笑える芝居ではないんですよ。でも、私はうれしくてニコニコ! まぁ、ひとことでいうならば、アバンギャルドでシュールな世界なんです。わかりやすくいえば、アングラ、といっても若い人にはわからないでしょうが。

 何しろ、メンバーは、高校演劇出身とかじゃなくて、みんな、ミュージシャンだったり、絵の勉強をしていたりと、要するに、演劇人ではないアーティストが集まってる集団なわけです。しかも、若い! で、今回の公演『見知らぬ人』は、なんと60年前に書かれた真船豊の作品で、それを演出の山田恵理香が、GIGA風の独特の世界観を盛り込んで作り出しているわけです。その妖しい世界を体現している役者陣がまた私の好みばかり! ていうか、よく考えたら、螳螂や昔のエロチカや状況劇場や天井桟敷やグランギニョールやロマンチカや維新派や王者館や彗星’86(ナビじゃないよ)や、まぁ、そんな辺りに出てきそうな役者たちばかりなんです! もちろん、まだまだ荒削りだと思いますし、その荒削りさが魅力になっているところもあると思うんですが、特に主宰者でもある菊沢将憲の演技は別格で、すごいです! 久しぶりにうれしくなる、飽きれるほどに激しい演技を観ました! やってくれるじゃん! て感じで、もうほんとに、しばらく忘れていた熱い血が滾(たぎ)ってきましたよ! ところが、周りの福岡の演劇関係者に話を聞くと、割と冷静というか、あまり評価されてないらしいんですね。その辺りについては、まだ詳しく聞いてないんでわからないんですが、オリジナル作品と今回のような真船豊作品をやるのとは違うらしいです。私も、オリジナル作品も観てから評価を下した方がいいのかもしれませんが、まぁ、長年演劇観て来てますからね、わかりますよ、オリジナルがどんな感じなのか。それはそれでいいんです。そんなことより、この集団の持つ独特のパワー(劇中の音楽も生演奏が入り、ラストはまるで桟敷の頃のシーザーのようにドラムで盛り上がる!)の可能性に私は魅かれたわけで、8月に利賀に行くための稽古場にも顔を出す約束をしたので(もちろん、その後、ゆっくり飲みに行こうと)、今から楽しみです。ただし、今回の『見知らぬ人』は全編上演だったんですが(大作!)、利賀では課題になっている2幕だけだそうです。う〜ん、利賀にも応援に行きたいけど、今はフリーじゃないからなぁ。GIGAについては、また報告したいと思います。福岡ではメジャーのギンギラ太陽’s(7月の中旬にお蔵出し公演があり、今から楽しみ!)と、今はまだマイナーのGIGA、私の福岡でのお気に入りの劇団の今後にご注目あれ!

 で、土曜日は、夜、西鉄ホールに『狐狸狐狸ばなし』を観に行って来ました。奇しくも、マチネのGIGAの60年前の脚本に続いて、40年も前の脚本の現代風アレンジ作品。そういや、最近、演劇だけじゃなく、いろいろなジャンルで昔の作品をやるのが増えてきている感じがしますが、これって、単なるリメイク流行りということではなく、今、おもしろい脚本を書ける人が少なくなってきたからなのかしらん。それはともかく、『狐狸狐狸ばなし』は、演出も役者も職人芸ここに極まりって感じで、思いっきり楽しませてもらいました。六角精児の怪演が私は好き! でも、なんか足りないんだよねぇ。実は、それはなんなのか、はっきりしてるんです。要するに、劇団じゃないから。ほんとに思うんですが、プロデュース公演でおもしろい作品はいっぱい観てるんですが(ダメなのも多いですが)、いつも観終わった後に感じる空虚さは、その公演が劇団の公演じゃないってことなんですよね。つまり、思い入れが持てないってこと。ああ、この集団での次の作品はどんな感じなんだろう? それがないんですよ。そんな風に感じるのって、私だけなんでしょうか? ていうか、今の演劇界では、私はもう古い人間なんでしょうか? プロデュース公演、全盛だもんね。しょうがないのかなぁ……

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(2004.6.22)
(つづく)


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