孤独なひとり芝居
/ LONELY ONE MAN SHOW
ひとり芝居をやった。英語ではONE MAN SHOWという。女優が演じるときはONE WOMAN SHOWというのだろうか。やっぱり日本語の「ひとり芝居」の方が響きがいい。
私にとって初めてのひとり芝居。演じる前の不安感と演じた後の快感は、他の芝居では感じられない興奮があった。ただ今回はステージリーディングなので、スクリプトを手に持って演じるので台詞をまるまる憶える必要はない。とは言ってもやはり自分の身体に沁みこませなくてはならないし、また観客もいるわけだから普段の舞台と何も違いはない。私もステージリーディングを何度か観た事があるが、役者の緊張感も観客の芝居を観るという感覚も、普通の舞台となにも変わりはなかった。ただ本が役者の手にあるという事だけの違いだった。
New Yorkでは頻繁にリーディングは行なわれている。ここでリーディングとステージリーディングの違いを簡単に説明しよう。
リーディングは戯曲の出来具合や内容をプロデューサーやその世界の人達に観てもらい感想などを聞いたりして、本の手直しやプロダクションに持っていくかを決めたりする目的で行なわれる。そのほとんどがプライベートで行なわれる為、チケットを売ったりせず、観客は入れない。
ステージリーディングの場合は大抵戯曲は完成していて、ディレクターはライティングやブロッキングなど普通の舞台のように演出する。役者が本を持って演じるというだけなので実質本公演とほとんど違いはない。もちろんチケットも販売し観客も入れての公演を行なう。ただ本を持って演じるので身体的な動きにはどうしても限界があるが。なんか説明が長ったらしくなったが今回私はひとり芝居のステージリーディングをやった。
以前一緒に仕事をした演出家からひとり芝居をやらないかとの話が来た。私自身いつかはひとり芝居をやってみたいとは思っていたが、いざその話がくると少し躊躇した。それで私は先ずはスクリプトを読んでみたいとお願いした。数日後送られてきたスクリプトを見て今度はテキストの多さに本格的に考え込んでしまった。とにかく読んでみた。声に出して読んで1時間かかった。始めから終わりまでしゃべりっぱなしなのだ。これを舞台で演じるとなると1時間以上にはなるだろう。はたしてこれだけのテキストをひとりでこなせるだろか。1時間以上しゃべりきれるだろうか。これだけの量の英語のテキストをスムーズに観客に伝えきれるだろうか。自分の中でひとり芝居をやってみたいと思っていた気持ちがだんだん薄れていくのを感じた、、。だがもしこの機会を逃すと次はいつひとり芝居をやるチャンスが来るかわからない。いろんな不安はあったが私はこの仕事を引き受けることにした。
それから毎日一人でスクリプトの読みが始まった。とにかく読み込んで英語のテキストの流れに口を慣れさせる事に専念した。一回読み終わるのに1時間強。途中あごが疲れて口の周りの筋肉が攣ってくるのを感じる。終わりごろには口が回らなくなってくる。1日一回スクリプトを読みきるだけでかなり疲れる。でもひとり芝居だから一人で読みの稽古をするしかない。そんな孤独な稽古が何日も続いた。
本番の2週間前いよいよ演出家との稽古だ。これでやっと孤独な稽古から解放されると思ったらなんだか気持ちがうきうきする。稽古場も自宅から劇場へと環境も変わる。まるで新学期を迎える小学生の気分だ。劇場はミッドタウンにあるAMERICAN THEATRE OF ACTORSというオフオフブロードウェイの小屋。あのブルース・ウィリスが無名の頃この小屋で芝居をやったとき、あるエージェントに見出されたそうだ。
いよいよ舞台での初稽古が始まった。演出家と私の二人だけだ。相手の役者がいない。あたりまえだ。私はひとり芝居をやろうとしているのだ。それから毎日今度は二人だけの稽古が続いた。
2週間の稽古もあっという間に過ぎいよいよ本番。役者人生初めてのひとり芝居。公演は2日間行われた。35席の小さなブラックボックスの小屋に初日はほぼ満席の客が入ったが2日目の客は4人だけだった。以前ある劇団の芝居に出演したとき観客5人ということがあった。また別の劇団では1人のときもあった。そのときは客数よりも出演者の方が多くてなんとなく変な感じだったが、今回はまだ客数の方が多いのでなんとか形にはなった。
舞台が終わって数日後プロデューサー宛てにメールが来た。メールの送り主は2日目の4人の観客の一人で、私のひとり芝居に感動してその感想をわざわざメールして来てくれたのだ。そのことを聞いた私は本番中何度もあごが引き攣り、口が回らなくなったがそれでも私の言葉が伝わったのだとほっとした。
そんな孤独なひとり芝居は、私の中にもう一度演じたいという気持ちを芽生えさせて無事終わった。