演出
〜安部公房英訳上演顛末〜
3年ほど前に読んだ安部公房の「制服」という芝居をやった。オリジナルの日本語を英訳し、ステージリーディングという形でお客をよび私が演出した。初めての演出である。
最初この戯曲を読んだとき、それぞれのキャラクターの台詞に含まれるブラックジョークに抱腹した。直感的な何かを感じ、「この芝居をやりたい!」と読み終わった直後に思った。さてでは何から始めたらいいのか。そうだ、まずは作者に許可を取らなければ。しかし安部公房氏はすでに亡くなられている。では誰が著作権を持っているのか。アメリカのように作家のエージェントがあるのか。その方面に関してまったくの素人の私はどこからどう始めていけばいいのかわからないまま日本の脚本家連盟、文藝家協会というところに連絡を取ってみた。どこも安部公房氏の著作権は持っていないとの返事。ただ文藝家協会の方が安部氏の親族に連絡してみてはと、安部氏の娘の連絡先を送ってくれた。私は早速手紙を書き用件を伝える。3ヶ月たつが何も連絡なし。私は再度手紙を書く。二度目の手紙から約一ヶ月後安部公房氏の日本のエージェントから連絡が来た。私はやった!と思い早速そのエージェントと連絡を取り合う。最終的には安部公房氏のアメリカのエージェントと直接連絡をとりあうことができ、やっとの思いで2回公演オンリーの許可を得ることができた。ここまで来るのにおおかた1年かかった。これも初めての経験と思ったら別に苦に感じなかった。
さて次は翻訳の作業だ。私はマスメールで翻訳者を探す。その結果3人の候補が名乗りでた。もちろんお金は出ない。そのことは始めにちゃんと明記しておいた。彼らに早速オリジナルのスクリプトを読んでもらう。するとまず一人は辞退した。あまりにも文章が複雑なのでこれを英訳するのは非常に困難だというのが理由。もう一人は友人の紹介のプロの翻訳家で、金銭が発生する可能性があるのでこちらから辞退する。最後に残った一人は私が提案した条件で引き受けてくれた。私の知り合いで一緒に芝居をやったことがあり、その彼女に会って翻訳の打ち合わせをする。3ヶ月で仕上げてもらうように依頼。
次は役者探しだ。オーディションをしてアジア人の俳優を探した。私の友人も何人かオーディションに来てくれた。友人がオーディションに来てくれることがとても嬉しく感じた。コールバックを含めて二回のオーディションを行い役者がそろった。日本人3人、韓国人1人、コリアンアメリカン2人、チャイニーズジャパニーズアメリカン1人、それとステージディレクション(ト書き)を読んでもらうアメリカ人の役者。バックグラウンドはそれぞれ異なるがキャラクター性の強い役者がそろった。普通リーディングの段階でオーディションをするのは稀だが、私はあえてオーディションで役者を探した。というのも今回私がやるステージリーディングはTheatre Arts Japan というグループが主催するリーディングシリーズの一環で、オフオフブロードウェイの劇場を借りてやることと、戦後60年というテーマで行うリーディングなので、ある意味では公演的なところがある。そういう私なりの理由でオーディションで俳優を探すという結論に達したわけだ。
稽古初日全員で本読みから始めた。ピックアップリーディングという本読みをやった。自分の役だけを読むのではなく、全部の役を順番に役者皆で読む方法だ。なぜ他の役を読む必要があるのかと思っている役者もいたようだ。しかしこの方法で始めに本読みをやると、全員が全部のキャラクターを読むことになるので戯曲を理解するのには便利だ。役者という者は自分の台詞以外はなかなか読まないものだ。稽古が進んで行くと翻訳の修正が必要な箇所が明らかになって見えてきた。私は翻訳者ひとりでは無理と思い、私のまわりの色々な人に英語訳の修正をお願いした。今回のリーディングの目的は、英語に訳された日本語の戯曲が原作のエッセンスが損なわれないで、いかに英語圏のオーディアンスに伝わるかに重点をおいているため翻訳の修正は何度もやった。
次はブロッキングだ。リーディングなので全員座らせてただ読むことだけに専念しようかとも考えたが、1時間20分もじっと座ったまま朗読するのはあまりにも退屈と思い、私は最小限のブロッキングと動きを役者に要求した。あくまでもリーディングなので必要以上の動きは付けなかったが、台本を片手に持って動くのでやりにくいのはわかる。私の付けた動きに不満そうな役者もいたようだが、そこは我慢してもらうしかない。
さてセットだが、数台のスツールを舞台上に置き、そのシーンの出番の役者が本人の位置に合わせてスツールを自由に動かせるようにして、そのスツールに軽く腰掛けるように座らせた。スツールの高さは70センチはあるので、台本を読みながらでも客席からみても役者の顔が見えにくくならないようにした。またスツールに座らせず立たせたままで芝居をやらせ、立った状態の役者と座った状態の役者が同時に演じることで上下の空間のバランスを考えた。このスツールの効果は成功だったと思った。
ばたばたと稽古が終わり2回だけの本番はあっという間に過ぎてしまった。それなりにお客も入ってくれ、最終日には公演後の質疑応答でも盛り上がった。今回初めて演出をやって、演出がこんなにも重労働な仕事だとは思わなかったし、またこんなに楽しい仕事だとはじめて実感した。
今回のリーディングの結果、今後の課題として、翻訳を改善し再度リーディングを行いその後本公演に持って行きたいと考えている。
「制服」舞台稽古