4月の終わりから6月4日まで私はベルリンに住んだ。2ヶ月近くもひと所の町に住むと、もうすっかりそこの住人になったと感じるくらい、私自身はベルリ−ナになったと思っている。しかしベルリンの第一印象は、私の今までの想像と大きくかけ離れていた。
私は18年以上もNew Yorkという大都会に住んでいるせいか、都会イコール人という感覚がある。ベルリンはドイツそしてヨーロッパを代表する大都会というイメージを抱いていた私は、勝手な想像からベルリンもNew Yorkのように溢れんばかりの人と交通量だと思い込んでいた。しかし実際目にしたベルリンは、カフェに入ってもレストランに行っても街を歩いても人の数の少ないこと。ベルリンには人がいない、、、。果たしてこんなにひっそりとして気持ちも落ち込んでしまいそうな街でこれから6週間生活していけるのか、という思いで私のベルリン生活が始まった。
私がベルリンに来た理由は、ベルリンを本拠地に活動するMultimedia Theater Group、POST THEATER COMPANY(ポストシアターカンパニー)と仕事をするためだ。ケルン出身のドイツ人青年2人と、ヴィジュアルアーティストの日本人女性の3人で構成されたこのグループは、東洋人の役者を求めてNYまでキャスティングにやってきた。ちょっと話はそれるが、私がNYに住む理由のひとつはこのことにある。NYには世界中からキャスティングがやってくる。
Multimedia Theaterとは、最近NYやヨーロッパのシアターグループなどでよく使われる、映像、ビデオプロジェクター、コンピューターサウンドなどと演劇を合体させ、まるで映画と舞台を同時に体験するようなシアタースタイル。実験演劇という言い方が日本では60年代ころからよく使われているようだが、NYではExperimental Theaterという言い方をして、ストレートプレイと区別した表現をする。でもドイツやヨーロッパではそのように区別した言い方はしないようだ。そのExperimental Theaterの一つがこのMultimedia Theater。
さてベルリンに人の数が少ない理由の一つに、産業が発達してないからだと聞いた。産業が発達していないから人がいないのか、人がいないから産業が発達しないのかは私にはわからない。ただNYからベルリンにいくにはロンドン、アムステルダム、パリなどヨーロッパの主要都市を経由して行かなければならない。ヨーロッパ諸国以外の国からベルリンへの空の直行便がないので、人の流通が不便なのである。それとあまりにも寒く長い冬も、人のいない理由の一つではないかと私は勝手に考える。5月の終わりごろでさえ冬物のセーターとコートを手放せなかった。聞いた話によるとベルリンの冬は超ディプレッシングで自殺者が増えるらしい。
要するにベルリンはヨーロッパ大陸のど真ん中にある孤島なのだ。第二次世界大戦前のベルリンはあのミュージカル”キャバレー”でもわかるように活気に溢れていた。しかしベルリンの壁ができて以来ベルリンは内陸の孤島になってしまったのだ。大国ドイツは40年以上西と東に分断され、首都もボンに移されてベルリンから人と産業が出て行ってしまった。そして1989年ベルリンの壁が崩れてドイツが統合され、首都もベルリンに戻されて再開発が進められているが未だ3百5十万人しか住んでいない。そんなベルリンで私のリハーサルは始まった。
街がひっそりとして人が少なかろうが、私は毎日スタジオでリハーサルをしているのであまり関係ない。ただ人のざわめきと都会の喧騒が好きな私には、時々あまりにも静か過ぎるベルリンがもの足りなく感じられる。しかし人間とは本当に影響されやすい動物だと今回つくづく思った。住み始めてから3週間も過ぎると、初めの印象とは違う別のベルリンの顔が見えてきた。そして6週間もそこに住み、アパートからスタジオまでの道のりを覚え、住んでいるまわりのことなどを把握し、少しずつその町の住人たちとも顔見知りになってくると、はじめは不自然だと感じていたベルリンがいつの間にか自然に感じてきた。それから友達もでき、バー、クラブ、ギャラリー、シアターに行くようになってくるともうベルリンは自分の街のように感じてきた。
そんなベルリンで私はたくさんのアーティストに出会った。アメリカ人、日本人、ドイツ人、オランダ人、ブルガリア人、イスラエル人、シンガポール人、インドネシア人、トルコ人など。ベルリンには人口は少ないがアーティストの数は多いようだ。そんなアーティスト達が自由にアートと密着してNYでは考えられないような生活を送っている。ベルリンは世界中からアートをやるために人がやってくる街のようだ。そしてそんなアーティストはこの街のアンダーグランドにうようよしていた。私はベルリン生活6週間の間、ベルリンに住むあらゆるアーティスト達と交流しコアなアートシーンを体験して行くことになる。そしてその第一弾がPOST THEATER COMPANYだった。
私にとって新天地に慣れるのは3週間がキイポイントかもしれない。
(つづく)
