三ヶ月のアブセンス。今まで何処で何をしていたのかとお叱りを受ける?と私が思うほど誰も気にもとめていない?というより誰も読んでいないのでは…!実は私はここ数ヶ月New Yorkを留守にしていました。日本で演劇(歌舞伎)の遊学をしておりました。私の演劇はすべてをNew Yorkに原点があると思っております。言いかえれば、日本人でありながら日本の演劇を知りません。もちろん里帰りなどの際に芝居を観ることはしばしばありましたが。ここで言っているのは演劇を創る観点からの原点であって、オーディアンス側からの視点ではありません。そこで私は日本の演劇を少しでも理解するためにも勉強をしてみたいと思い、とすれば伝統芸能の一つ歌舞伎をと考えました。それである方々のお世話になり、一ヶ月ある歌舞伎一座で見学をさせていただくことができました。そしてこの体験は役者として一生忘れることのできない経験になりました。
私はもともとは九州出身の者で、東京へは何度も行ったことはありますが、住んだことはありません。それで今回は数ヶ月滞在するため人形町にアパートを借りることになりました。なぜ人形町を選んだのかというのは、歌舞伎座のある銀座に近いということ。今回お世話になった歌舞伎一座が浅草にあるということ。そして気に入ったアパートが偶々人形町にあったというこの三つの理由からです。
秋の色合いがしてきた東京で、すでに始まっている稽古の見学から私の一座通いが始った。歌舞伎の稽古を見るのは初めてで、初日が数日後に迫った緊張感の中、現代演劇の演出家による稽古が朝から夜中まで続けられた。公演が始まってからは、楽日までの1ヶ月間私は朝11時に始まる昼の部、夜8時に終わる夜の部まで毎日通い、ただただ舞台の袖で見ることに徹した。その間、表舞台裏舞台の方達と知り合うことができ、私もなんとなく日本の演劇界に浸った気分を味わった。
私はNew Yorkで役者をやっておりますが、ブロードウェイ劇場の裏方で二十年近く仕事もしてきたので、劇場の裏方(バックステージ)の段取りには慣れています。その面では歌舞伎もブロードウェイもさほどの違いはないように感じました。ただ今回一番印象に残ったのは、歌舞伎の俳優もNew Yorkの俳優も役者という個人を形成する過程において、何かとても似通ったところがあるのではないかということです。それは、日本で唯一の歌舞伎学校は国立劇場にある研修システムで、そこで歌舞伎役者になる為の勉強を2年間する、アメリカでは演劇学校などで2年間の役者になる為の勉強をするという共通点です。次に、歌舞伎役者は2年間の研修を終えると弟子入りし個人で習い事をするらしいですが、New Yorkでも演劇学校終了後のトレーニングは個人で色々なクラスを受けるなど、役者ひとり一人の判断に任されます。ただNew Yorkの場合、演劇学校に行かなくても個人で各先生に付いて学ぶこともできます。ときには一流の舞台に立っている役者と同じクラスを受けることもあります。そして役者自身が役者としての自分を創りあげていくわけです。歌舞伎俳優も国立劇場の研修システムが無いころは、好きな歌舞伎俳優の元へ弟子入りしたそうです。そういった意味で歌舞伎俳優もNew Yorkの俳優も、基礎を身に付けてから役者としてのスタートラインに立つという面で似通っているように感じました。
ただ今回私は日本の他の演劇には触れていません。あくまでも歌舞伎の世界に触れただけです。もちろん日本には文学座、青年座など有名な劇団もあってその養成所もあることは知っています。そして皆さん役者になる為の勉強をやっていると思います。ただNew Yorkにも劇団はありますが、劇団に付随した養成所などはありません。役者になるための勉強と劇団とはまったく別のものなのです。言い方を変えれば「役者したいんだったら勝手に勉強しろ、舞台に立ちたいのならオーディションに行け」!きつい言い方ですけどこれがNew Yorkのやり方です。徒弟制度もなければ義理も人情もありません。ましては世襲制度などアメリカの演劇界には見られません。
私はこのNew Yorkの現実が役者にとってはたして…?いったい…? う〜〜ん、わからない。
(つづく)