(1) 1999.11.1 落語をインターネットで〜新しいメディアの可能性を勝手に探る〜落語とインターネットの関係は、噺家個人の情報発信・交流の場としてのホームページの開設から始まり、各種団体・寄席などの公的機関・企業などの広報機関としての利用やデータベースとしての利用、と私的なものから公的なもの、社会的なものへと広がってきた。そして、今度は落語そのものをインターネット上で楽しむ、という、音声と画面を利用しての「娯楽」の手段としてのメディアへと広がってきた。 そんなインターネットでの落語の配信の試みをふたつ取り上げてみた。 まず「インターネットのコンテンツ配信でできる新しいことは何か?」という発想から始まったのが、先陣を切った「インターネット落語」の(株)ティアイエスコーポレーション。 こちらの会社は本業は社会人のための資格教育機関だが、なぜ落語を? 「インターネットを利用する中心の20代から30代の若い男性を対象とした、かつ他がやっていないコンテンツとして『落語』がありました」 と同社の関内和也さんは語る。 「落語というのは動きが少なく音声中心のため、動画でも配信しやすい、という利点があります」。 そして、HPを持っている噺家さんにメールでインターネットでの高座のの公開を打診したところ、快諾が得られたのが円楽党の若手真打、三遊亭楽春師匠。 楽春師のページ「楽春之頁」の管理人、CABさんによると、打合せではティアイエスコーポレーション側から「高座は五分程度,また、有料サイトでしか聞けない新作を中心に」との依頼があったそうだ。で、「システム上、長尺物が無理なら、二十分程度の噺を四分割し、週一回の追加配信で、四週目にすべて続けて聞けるようにしてはどうか。また、落語ファンには、珍しい噺・CD等になっていない噺(前座噺等も含む)が魅力があるのでは?」と提案した。 そういう経緯を経て、円楽党の定席「両国寄席」での高座を録画・録音、9月27日から同社のHP上で試験公開を始めた。現在は「真田小僧」「紙入れ」を動画/スライドショー/音声のみ、という3通りの方法で無料公開中。 特に宣伝などはせずに始めたのだが、口コミなどで評判が広がり、初の試み、ということで反響もかなり大きく、寄席のない地方・海外在住者などからの感謝の声が特に多かったそうだ。 楽春師は「落語界初の試みということで、私自身も楽しくやっています。気軽に寄席に足を運べない地方のお客様にはきっと喜んでいただけると考えています」と語っている。 来年早々には、演目のバリエーションも増やして、月額料金制や電子書籍の販売形態に準じ、ひとネタいくら、という形での販売を考えている。回線の安定度や料金徴収の問題などを鑑み、大手プロバイダなどを通じてのコンテンツ提供を予定しているそうだ。 一方、「担当者が落語好きで、落語をインターネットで流したい」という思いから始まったのが「SSweb」のサイトを制作・運営している(株)サウンドシェルフ。同社の森史明さんにお話を伺った。 こちらは、新潮社でカセットブックやビデオなどの製作と販売を手がけたスタッフが、インターネット上での新たなコンテンツ制作のため、大日本印刷とともにこの11月から設立した会社。過去の名人などの高座は権利関係の調整が難しく断念したものの、鈴本演芸場に話をもってゆき、落語協会にも了解を得て、インターネットラジオの感覚で「自宅にいながら寄席の空気を味わう」というコンセプトのもと、上野・鈴本演芸場の高座をノーカットでそのまま伝える「鈴本・オン・ライン」の誕生となった。 月に一度、定席の番組を昼夜通して録音し、一部の大看板の方や色物などを除き、真打の高座を十数本、高座の音声とテキスト、プラス当日の高座写真、という形でインターネット上で随時公開してゆく。11月中旬から、まず手始めに9月14日録音の中席の番組を公開。 こちらは「鈴本〜」のみならず、「SSweb」全体を会員制とし、小説の朗読・作家の講演・対談などのコンテンツと共に来年1月にも有料化の予定。…で、採算は?「数万人単位で会員が集まれば大丈夫」とのことでした。 どちらも共通しているのは、リアルプレイヤーG2使用、そしてストリーミングコンテンツモード(転送しながらの再生)により、不正コピーなどの問題などが起こらないように対処がなされていることである。そのため、MP3などとは異なり、パソコンを利用しての録音・録画などはユーザーの側からはできない。 残念ながら、現在は、家庭の電話回線などで視聴する場合など、回線の混雑などで、受信に時間がかかってしまう不安定さがあるのも事実。とはいえ、今後、落語を楽しむ新たな手段、そして噺家さんの新たな米びつとしてインターネットでの落語が定着するかどうか、期待は大きい。
「インターネット落語」(http://www.tis.ne.jp/rakugo/) 「楽春之頁」(http://www.ptweb.co.jp/~rakuharu/) 「SSweb」(http://ssweb.ne.jp/「鈴本・オン・ライン」は11月半ばから) 「鈴本演芸場ホームページ」(http://www.rakugo.or.jp/) (つづく) |
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