2009年5月第2週


 大阪の方は新型インフルエンザ騒ぎで大変だなぁ、と思っていたら、案の定、関東にも広がってきた。人がウイルスを運んでいるわけだから、これからどんどん広がっていくのは確かだ。スクールのある水道橋は、日大の経済学部や法学部があり、学生が多いので、感染が広がったりしたら休校になる可能性もある。そういえば、慌てて修学旅行を中止にした学校もあったが、妻の仕事先でも、楽しみにしていた台湾への社員旅行が取り止めになった。隔離でもされたら仕事に支障をきたすという理由だ。12月にある三男の沖縄への修学旅行は大丈夫だろうか。しかし、この新型インフルエンザ、やたら騒ぐだけで、どういう症状でどうなったのかという詳しい情報が伝わってこない。死んだ人間もいる一方で、毒性は弱いという話もあり、それだったらそんなに騒がなくてもいいんじゃないかと思うのだが。これも何かの陰謀か。ETCに続いてマスクが売り切れだというのもひっかかる。水道橋の薬局でも売り切れで、入荷は6月初めだという。その頃まで流行っているのだろうか。これも、何者かがマスクを買わせようと……いや、笑い事じゃないのはわかっているが、とにかく政府は、はっきりした対応を早く示して欲しいものだ。そうそう、最新のニュースで1957年以前に生まれた人間には免疫があると出ていたが、私はまさに1957年生まれなのだが(笑)。みんなが感染していく中で、年寄りだけが助かる、なんて、まるで陳腐なSF小説のようだ(笑)。しかし、ホントかなぁ。

 さて、書き忘れていた芝居のことをいくつかまとめて書いておこう。

 3月19日(木)に、家と新宿の中間にある小田急線の新百合ヶ丘駅にある川崎市アートセンターのアルテリオ小劇場でMODEの『マッチ売りの少女』を観た。もちろん、アンデルセンのではなく別役実作品だ。この劇場は、おととし出来たばかりで、サポート事業とかもやっていて、前から興味があったのでいつか行きたいと思っていたのだが、久しぶりのMODEの芝居、それも別役作品ということで、観に行くことにした。ロビーに松本(修)さんや西堂(行人)さん、他にも演劇関係者が何人かいたので、挨拶して中に入った。ガランとした広い空間にテーブルがひとつ。タッパがあり、無機質な空間は私好みだ。ここで何か作りたいと思った。ただ、東京からはなかなか観に来にくいだろう。それさえ考えなければ、いつか私もぜひここでやりたい。6月には、阿部初美・演出で太田省吾さんの『更地』をやるので、観に行く予定だ。

『マッチ売りの少女』は、昔から大好きな作品だった。時々思い出したように書架から取り出して読み返しては、その度にいろいろな発見がある作品だ。螳螂で、別役作品をいくつか抜粋して構成した『聖アントワーヌの誘惑』という公開ワークショップをやったことがある。『マッチ売りの少女』も使った。エチュード的な稽古でも、テキストとしてよく使う。だが、他の劇団がやっているのを観たことはない。いや、観たかもしれないが、おもしろくなかったのか印象に残っていない。日本で不条理演劇の代表のようにいわれている別役作品だが、初期の作品は不条理というより、人間の奥底に潜む情念が、独特のサラリとした文体、何気ないが奥深い会話で書かれていて、怖さと共に悲しさを感じるので大好きなのだ。実は、私が螳螂を始める前に入った明治大学の学生劇団、螺船の旗上げ公演は別役の『象』で、その医者役が私の初舞台(子供の頃を抜かして)だったのだ。その時、主人公の病人役をやった福士恵二と、その後、螳螂を作った(福士はその後、天井桟敷に入った)。そういう縁もあり、別役作品にはただならぬ思いがあるのだが、MODEの『マッチ売りの少女』はなかなかよかった。役者が紡ぎ出す、別役の言葉がひとつひとつ、心に迫ってくる。今、こういう芝居はなかなか観ることが出来ない。どうしても若い劇団の芝居は、言葉が軽くて、心に響いて来ないのだ。別役にしろ、寺山にしろ、唐にしろ、やはり、その劇的世界の持つ雰囲気だけで作るのではなく、言葉の持つ力を大切に演出してほしいものだ。

 実は、別役作品は、最近も観に行った。d'Theaterで、8月に第2回目の公演をやることが決まったのだが(詳しくは後述するが)、その作品が、別役作品の『天神さまのほそみち』なのだ。1979年に文学座のアトリエで初演された30年前の作品だ。その作品を、浅草橋にある劇場で、ある劇団がやるというので、先週観に行ったのだが、これが、実にひどいものだったのだ。劇場自体は、初めて行ったのだが、客席もしっかりしているし、舞台のタッパもそこそこあり、ネームバリューさえ気にしなければ、ここでやってもいいと思った。水道橋からも近いし。新宿からは遠いけど。

 何がひどいって、まったく台詞のやりとりが出来ていないのだ。要するに、ただ、それらしく台詞をいい合っているだけで、会話のおもしろさをまるで感じないのだ。だから、客席はただボーッと成り行きを見守っているだけという状態で笑いも起きやしない。となると、ちょっとネタバレになるが、最後の怖さも何も感じない。役者もひどいが、そういう芝居を平気でやらせる演出家に問題ありだな。何しろ、終演後、時間を見たら1時間も経っていないのだ。読み合わせをした時間よりも短い。いいたかないが、それで3000円も取る。もちろん、電話で予約して正規の前売料金を払いましたよ。当日は3500円。信じられない。偶然、知り合いの知り合いが出ているということで観に来ていたd'のメンバーの一人は、関係者割引で1000円で入ったとか。いや、1000円も払いたくないぞ、あんな芝居には! 別役さんに失礼だとか何とかいう以前に、まったくどういうつもりで演劇をやっているんだ、と久しぶりに観終わって怒りまくった舞台だった。どういう集団だか知らないが、まだ、例え自己満足で無茶苦茶でも、一生懸命やっている若手劇団の方が救いがある。そのエネルギーを、ちょっと軌道修正さえすればいい方向にいく可能性もあるからだ。しかし、わざわざ別役作品を選んだのにあれとはねぇ。何をやりたかったのか……わからん。

 別役さん繋がりとなると、先週の17日の日本劇作家協会の話をしないといけないのだけど、それは長くなりそうなので、先に、最近観た芝居の話を済ませてしまおう。

 ゴールデンウイーク前の27日の夜、下北のザ・スズナリ椿組公演『ささくれリア王』を観に行った。阿藤智恵の作・演出。"ささくれ団"という劇団が、10周年記念公演として「リア王」を上演しようとしていたところ、主演男優がテレビの仕事で出られなくなり、稽古で使っていた倉庫の運送屋の社長(外波山さん)が主役のリア王として出ることになるという、劇団の内幕話的なストーリーで、劇団の人間しかわからないようなリアルな話が盛り込まれていて、なかなかおもしろかった。ただ、どうも、椿組の演技のスタイルと、この話が合わないような感じを受け、もうひとつ入り込めなかったのが残念だ。こういう話は、テレビ的なリアルでナチュラルな芝居の方が合うのだろう。演劇を演じるというのは、二重構造になるだけに、日常と、演じている時の違いを出すのが難しいと思った。演じている時間が、いかにも芝居クサイ、というのもおかしいし。やはり椿組は、花園神社の野外劇の芝居が好きだ。今年は7月11日から21日まで、中島淳彦作・演出の『新宿ジャカジャカ』をやる。どういう世界を観せてくれるのか、楽しみだ。

 ゴールデンウイーク明けの5月8日には、福岡時代の教え子で、スクールの1期生でもある吉富睦が久しぶりに芝居に出るというので(私の芝居に出ないで、だ!)、観に行った。演劇集団PocketSheepsという若い劇団の第5回公演『月影に、誰よりも君のそばにいる』だ。劇場は、シアター風姿花伝。目白駅から劇場に向かう途中、逆方向に歩いて来る長男のミントとばったり会い、「何してんだ、お前?」と訊いたら、その芝居を観に行くというので、「逆だよ」と教えて一緒に行った。芝居は時代劇で、キャラメルボックスの俳優教室の出身者が中心となっている劇団ということで、確かにその傾向が強く、私にはあまり入り込めるものではなかったが、若者には受けていたようだ。しかし、以前関わった神奈川の高校演劇の関係者に聞いても、私の周りで芝居をやっているという若い連中にしても、相変わらずキャラメルボックス人気は高いようだ。いや、キャラメルボックスの芝居を否定する気はまったくないが(最近は観ていないし、私も若い頃だったらはまっていたかもしれないし)、ひとつの芝居の傾向に固まらずに、演劇というのはもっといろいろなものがあるんだということを知ってほしいとは、切に思う。自分の好きな芝居しかやらないのは、単に自分が好きなことをやっているだけで、演劇というものをやっているのではないということを、わかってほしいのだ。まぁ、自分の好きな舞台しか観に行かなかったり、自分がやることだけで満足しているエセ演劇人(特に若い連中)が多いから、仕方ないのかもしれないが。

 その日は、芝居の後、吉富や、やはり同じ芝居に出ていた吉富の同級生で私の教え子の渡辺健や(もう一人、教え子が出ていたが飲みには来なかった)、『豚とオートバイ』翻訳者の熊谷さんの友人の福岡出身の謎のエリートサラリーマンN氏や、熊谷さんの教え子U嬢、それにミントらと目白駅近くの村さ来で飲み、その日は珍しく終電に乗り遅れ、夜中に学習院の辺りを徘徊したり、飲み歩いたあげく、長男と共に、東高円寺の長男の友人の家にお世話になってしまった(笑)。しょうもない親父だ。

 最近観た芝居は以上だが、5月11日の月曜日の夜には、熊本から、福岡での『豚とオートバイ』のリーディング公演にも出てくれた劇団0相の松岡優子さんと、主宰者の河野通幸氏が上京していたので、新宿のションベン横丁で飲んだ。まずは"若月"の焼きそばと餃子で腹ごしらえをし、その後、"きくや"へ。メンバーは、熊谷さんと謎のエリートサラリーマンN氏に、二人の共通の友人である損保会社のOLのU嬢、それに私と松岡さんと河野氏だったが、最後の方には、二人の友人である黒テントの山中弘幸氏や宮地成子嬢なども合流し、しばし演劇談義。2月にシアターイワトに役者として出た話もした。楽屋が寒かったという話も。この日も楽しくて、かなり酔いどれたが、最終電車で無事帰館。

 さて、先週の日曜、17日には、5月に出来上がったばかりの劇場、座・高円寺で劇作家協会の総会に、シンポジウムや懇親会があったのだが、その話は長くなりそうなので、次回に回すことにする。d'Theaterの次回公演の話もね。

 ところで、性懲りもなく、競馬の方だが(笑)、春のGT第4戦、10日のマイルカップは、前回予想して書いた馬の中に1〜3着になった馬が入っていたにもかかわらず(1着:ジョーカプチーノ、2着:レッドスパーダ、3着:グランプリエンゼル)、アイアンルック(8着)とレッドスパーダ中心でいったので、ダメだった。まぁ、3連複で31万8千円、3連単は238万円という恐ろしい馬券になったので、取れたりでもしたら大変だったが(笑)。取りたいけど。しかし、アイアンルックは第4コーナーでサンカルロに妨害された(サンカルロは18着に降着)ので、ひょっとしたらアイアンルック、レッドスパーダ絡みで取れたかもしれないが。まぁ、タラレバはやめよう。17日のヴィクトリアマイルは、劇作家協会の会議に行く前に買っておいたのだが、圧倒的強さで優勝したウオッカは当然ながらも、2着のブラボーデイジー(11番人気)も、3着のショウナンラノビア(7番人気)も買っていなかったので、これも撃沈。またしても、3連複1万9千円、3連単8万円とちょい荒れだった。これで春のGT戦は1勝4敗。これだけ荒れるとダメだね(笑)。しかし、今週は、唯一取れた桜花賞のブエナビスタが出走するオークスだ。当然、ブエナビスタ1着固定の3連単狙いでいく。堅い方なら、桜花賞2着のレッドディザイアにフローラステークスのディアジーナ、それに桜花賞3着のジェルミナルに、スイートピーステークスのブロードストリートぐらいでしょう。で、ずっと荒れているGT戦を考えると、ブエナビスタの2着、3着も一応考えて、ブエナビスタと対戦していない三浦皇成のサクラローズマリーや、2戦2勝のデリキットピース、毎日杯で牝馬最先着のワイドサファイア(この馬もブエナビスタと対戦なし)に、桜花賞は大敗したヴィーヴァヴォドカとダノンベルベール、ツーデイズノーチス辺りを絡めたい。そうそう、カッチー(田中勝春)のルージュバンブーもね。また多いけど(笑)、この中の組み合わせだな。日曜の夜は、福岡から来る劇団ぎゃ。の舞台を表参道に観に行くので、何とかハッピー気分で行きたいもんだ。

(2009.5.23)


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