2009年1月第2週
先週末、世間は今年最初の3連休だったが、例によって私は、土曜の昼は授業で、夜はd'Theaterの上映会。日曜の昼はスクールの説明会で(8時出勤のため、5時に起きて6時に家を出たら、外はまだ真っ暗だった! 一瞬、昔、夜勤に出掛けた頃のことを思い出した)、夜は龍昇企画の稽古。ま、12日はちょっと休めた、というより、ここんところ睡眠時間が3〜4時間という日が続いていたので、久しぶりに10時間寝溜めをした。おかげで疲れは取れた。が、やはり寒さのせいか、年のせいか、あまり身体の調子はよくない。とにかく、疲れを溜めるのはよくない。なかなか抜けなくなる。
龍昇企画の稽古の様子の報告は、もう少し稽古が進んでからがいいと思うので(今もなかなかおもしろいが)、とりあえず、だいぶ遅くなったが、去年の10月以降に観た芝居のことを書いておこう。結局、12月の『豚とオートバイ』までに7本。その後は観なかった。
まずは、前にもちょっと書いたが、10月12日(日)に、青森の劇団、夜行館の芝居『無縁童女往生絵巻・第二部』を亀有に観に行った。亀有といってもリリオホールではない。駅から10分ぐらいのところにある香取神社の境内で行う野外劇である。しかも、神社の前に装置とかを組むわけではなく、そのまま本殿の前で、本殿を背景として上演するのだ。無論、下は土で、そこで、ほとんどの役者は裸足で演じる。客席も、前の方は桟敷席だ。私は桟敷席の一番前に座った。
実は、この芝居は、『豚とオートバイ』の舞台美術をお願いした吉田光彦さんから誘われたもので、『豚とオートバイ』の翻訳者の熊谷さんも一緒に行った。
夜行館の芝居は、昔、何度か観ていて(下北沢に住んでいる時、小さい頃から慣れ親しんでいた北沢八幡の境内で観たのは印象深い)、主宰の笹原茂朱さんとも面識がある。笹原さんは、状況劇場を唐十郎と一緒に作った人で、私の明治大学の先輩でもある。吉田さんとは古い付き合いで、笹原さんの戯曲集の装丁は吉田さんがやっている。私が笹原さんに会うのは、それこそ20数年ぶりだと思う。
久しぶりに観た夜行館の芝居は、本当におもしろかった! 昨今、アングラもどきの芝居が増えている、と以前書いたことがあったが、夜行館はもちろん「もどき」ではなく、本物のアングラだ。アングラとは、見せ方ではなく、生き方なのだ。役者たちの名前からしてそうだ。守鏡丸、赤土類、土器空、榊芽久美、木里立、不眠狂四郎、てんてこまい。ひらがなのてんてこまい以外はすぐには読めない(笑)。そして、本業はお寺の住職だという白澤運山。名は体を表す。まさに、その「体」の芝居、それがアングラなのだ。
物語は、一人の少女(新人だという榊芽久美が演じたのだが、彼女が素晴らしかった! 今の小劇場演劇の女優の小器用な芝居ではなく、まさに堂々としたアングラ演劇のヒロインの芝居をしていて、感動した!)が自分探しをしていく中でいろんな人に出会って成長していくという、これまたアングラ演劇お得意のテーマなのだが(そう考えると、私が螳螂時代に書いてきた作品はそういうのが多かったし、やはり螳螂はアングラだったのか、って何を今更!)、そこに、境内の大木と大木の間の上の方に渡したロープを使った宙乗りや、本火の松明を使った踊りや、白澤運山さんによるスコップ三味線を使った歌と演奏も出て来て、久しぶりにアングラの本道の芝居を観た感じがした。最後の、主宰の笹原さんによる役者紹介も、最近の小劇場ではあまり観なくなったものだ。主宰者が役者もやっているとやるのかもしれないが。唐組は今でもやっているのかな。
帰りに笹原さんに挨拶をし、すっかり夜行館を気に入った熊谷さんも、「ぜひ韓国で公演をして下さい」といっていた。その後、亀有のいい雰囲気の商店街の飲み屋で熊谷さんと吉田さん御夫妻と4人で飲みながら芝居の話をして、千代田線から小田急線に乗り換えて帰って来た。みんな、下北沢まで一緒だった。
2本目は、東京ギンガ堂の『サムライ 高峰譲吉』。紀伊国屋サザンシアターで10月30日(木)観劇。これは、長男が演出助手をしている関係で観に行ったのだが、東京ギンガ堂は初観劇。人物評伝の芝居が多いようだが、人物評伝の芝居は、説明のようなシーンが多いと飽きてしまう。しかし、この舞台は説明のシーンがいろいろ工夫されていて、飽きずに最後まで観ることが出来た。ただ、こまつ座でやる井上ひさし作の評伝劇と比べてしまうと、どうしても表層的な感じがしてしまう。エピソードを絞って、演劇的にもっとおもしろく見せられるのではないかと思った。これも熊谷さんも誘って観に行ったのだが、終わって、主宰の品川能正さんらと飲みに行き、以前、東京ギンガ堂でやった孫文の評伝劇の話で盛り上がった。熊谷さんは熊本県荒尾市の宮崎兄弟資料館にも行ったほど、宮崎滔天が大好きなのだ。その席には、孫文を支援した梅屋庄吉の御子孫の、日比谷松本楼の方もいた。東京ギンガ堂は今年の秋、韓国公演をやるそうで、長男もスタッフで行くらしいので、観に行くついでにソウルに行く予定だ。今年は何回行けるかな。
3本目は、ひげ太夫の『熱風ジャワ五郎』。シアター風姿花伝で11月6日(木)に観劇。以前観て、お気に入り劇団の仲間入りをしたひげ太夫だが、今回は新人も入ってキャラクターの幅が広がったし、前回にも増しておもしろかった。この作品は大阪公演をしたようだが、前にも書いた通り、ぜひ福岡公演をして欲しい。福岡の観客にも気に入られると思う。次は5月に高円寺の明石スタジオだ。明石スタジオといえば……いろいろあり過ぎて、手短には語れない。次も観に行く。
4本目は、11月17日(月)にシアタートップスで観た劇団道学先生「の『ザブザブ波止場』。久しぶりの道学先生だったが、これは再々演の作品。それだけ評判のいい作品ということなのだが、私は初見。相変わらずの人情喜劇で、テンポよく観せてくれ、役者たちの個性もおもしろく、充分に楽しめた。道学先生のトップスでの公演はこれが最後ということだし、螳螂もトップスで公演をしたこともあるので、ちょっと感慨深い思いを持って観ていた。芝居の後、飲み会に行き、龍昇企画で共演する、元螳螂のかんのひとみや、青山さん、井之上さんらといろいろ話をした。
『豚とオートバイ』の公演が近くなると、さすがに芝居を観に行く時間が取れなくなるが、福岡時代の学校の教え子たちが7人も出演する舞台に誘われたので、それは観に行った。ひげ太夫と同じシアター風姿花伝で11月23日(日)に観劇した七色空間の『誘拐 犯人のゲーム/家族のピース』だ。この劇団はキャラメルボックスの養成所にいた子たちが中心になって立ち上げたということだが、なかなかテンポのいい舞台には仕上がっていた。ひとつの誘拐の話を、犯人側と家族側から描いて2本立てにするという発想も、まぁ、考えられないことではないが、うまくまとめていた。しかし、まぁ、今も昔も変わらない若手劇団によくある芝居で、オリジナリティを感じられなかったのが残念だ。
11月27日には龍昇企画の最初の顔合わせがあったのだが、その前日の26日(水)、顔合わせと同じ場所の江古田ストアハウス(顔合わせは稽古場)に観に行ったのがテラ・アーツ・ファクトリーの『イグアナの娘、たちU』だ。テラ・アーツ・ファクトリーという名前になってからは、おそらく観るのは初めてだとは思うが、その前身のアジア劇場時代はよく観に行き、主宰の林英樹さんとの交流もその頃からあった。遥か昔、70年代の終りから80年代初めの頃の話(笑)。アジア劇場と螳螂は、共に76年に創立された。林さんは、私がチャン・ジンの『無駄骨』を演出した、第1回の韓国現代戯曲ドラマリーディングの時に、パク・クニョンの『代々孫孫』の演出を担当し、その時に久しぶりに会ったが、それ以来の再会だった。公演が終わって一緒に飲みに行ったら、別の席に、やはり観に来ていた萩原朔美さんがいたので挨拶をした。萩原さんと会うのも久しぶりだったが、相変わらず美少年の面影を残していてダンディだった。萩原さんは今、多摩美の教授をしている。
『イグアナの娘、たちU』は、それぞれの女優たちの個性を感じる中にも、アンサンブルで作られた強さを感じる、いい作品だった。こういった実験的なパフォーマンスは、一部の人にしか理解され難いのかもしれないが、演劇という表現活動に携わっている演出家や役者は、演劇の原点ともいえる、言葉と身体について深く考察して作っているこういった作品を、もっと観るべきだと思う。もちろん、やることも大切だが。私も身体性に重きを置いた作品を、久しぶりに作りたくなった。あらゆる表現活動は、その振幅の幅が大きいほど、深く、おもしろくなるものだから。林さんは、『豚とオートバイ』も観に来てくれた。また、久しぶりに新たな交流が始まりそうな予感がする。
2008年最後の舞台は、12月4日(木)にタイニイアリスで観た韓国・春川の劇団DOMOの『悪夢』だ。『豚とオートバイ』の仕込みの前日、装置や照明、道具類の搬入の前に観た。『悪夢』はディケンズの『クリスマス・キャロル』をベースにしている作品で、いろいろな演劇祭に参加している、劇団の代表作だ。ほとんど台詞はなく、マイムで表現されるのだが、話の筋を知っていることもあって、わかりやすかった。いや、ストーリーを知らなくてもわかる見せ方になっていて、各国の演劇祭で受け入れられる理由がわかった。やはり身体表現は、世界共通なのだ。公演の後、アフタートークがあり、そこで韓国の演劇事情についての話があった。韓国は、誰もが詩人であるというように、一方では言葉を重視した演劇があり、また一方では、身体性を強調した演劇(ダンスやミュージカルを含め)もあり、それらが一緒になって演劇祭を構成している。日本のように、演劇とダンスを分けたり、ミュージカルを特別視したりしない。本来、演劇とは祭儀から始まったものであり、言葉も身体も歌も、そこに含まれているはずなのだが……。アフタートークの話題とはちょっとずれたが、話を聞きながら、そんなことを考えた。螳螂時代から観に来てくれていた演劇評論家の七字英輔さんも観に来ていて(アフタートークにも参加した)、いろいろ話をした。七字さんも『豚とオートバイ』を観に来てくれた。アフタートークの後、バラシと併行して『豚とオートバイ』の装置や照明の搬入を行い、その後、アフタートークの司会をした熊谷さんと共に、DOMOの打ち上げに誘われた。主宰の黄雲基[ファン・ウンギ]氏といろいろ話し(彼は日本語が話せる)、韓国に行った時には春川にも行くという約束をし(春川で行われる演劇祭ももちろんだが、何たって冬ソナの舞台だ!)、翌日の早朝からの仕込みのために、最終電車に間に合うように慌てて帰った。
というわけで、2008年の観劇は、10月から12月までで7本、6月から9月までで15本だから、2008年後半で22本。前半はあまり覚えていないが、3、4本しか観ていないと思う。30本にも満たないし、まったく個人的に偏ったものばかりなので、演劇界そのものにどうこういえないが、私が観た中でのベストワンといえば、やはり、夜行館の野外劇だ。アングラがいいとかいうことではなく、久しぶりに、私の演劇の原点を観せてもらった気がしたのと同時に、演劇のおもしろさとはこういうものじゃないかと再確認出来たからだ。そういえば、最近、ようやくβのテープをDVD化し始め、昔の螳螂の芝居を観たりしているが、これが、なかなかいい(笑)。決してノスタルジィではなく、本当に芝居が好きな連中が、やりたい芝居を好きにやっている、という感じがして、いいのだ。そういう風にはもう出来ないのだろうか。あの時代で、しかもみんな同世代(せいぜい10歳未満違い)だったということもあるのかもしれない。いろいろ考えてしまう、今日この頃だ。
さて、今年に入ってからは、龍昇企画の稽古もあるし、なかなか芝居を観に行けないが、今年最初の観劇になりそうなのは、来週タイニイアリスに観に行く、大阪の劇団MAYの『晴天長短[セイテンチャンダン]』だ。『豚とオートバイ』のシンポジウムにも出てくれて、その日も翌日も飲みに行った金哲義君にも会える。楽しみだ。
(2009.1.18)