2007年6月第5週

 先週の水曜日、THE・ガジラの『かげろふ人』を観て来た。場所はベニサンピット。千秋楽でマチネのみの公演だったが、水曜は私は休みなので、早々と水木さんに予約しといて行った。いやぁ、良かった、良かった! この作品は要するに、鐘下の初期の傑作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・京都』なのだが、それは未見。もちろん、どういう話なのかは知っていた。幕末に生きる若者たちを描いた、その話自体も好きなのだが、なんといっても、今回のキャスティングが凄い! 状況劇場で耳から本物の鰯をぶら下げて登場した怪優・大久保鷹、『疫病流行記』や『中国の不思議な役人』、『阿呆船』で惚れ込み、晴海で『奴婢訓』を手伝った時には、当時の吉祥寺のお宅にも泊めてもらった天井桟敷の雄・若松武、流山児★事務所というより、演劇団時代からの長〜い付き合いで、『月蝕歌劇団』(劇団ではなく、第二次演劇団の公演名)では共演もした(笑)塩野谷正幸、そして、紅一点で、Stage Power仲間の西山水木! もちろん、千葉哲也も大好きだ!

 もう、完全に古い演劇ミーハー乗りで観に行き、さらに深いところでノックアウトされた! 2時間20分、私はまったく飽きずに引き込まれた! 鐘下の芝居では珍しい(笑)。といっても、それほど観ているわけではないが(特に最近は)、以前は、あまりの重苦しさに辟易していた時期もあった。しかし、これは良かったぁ! あのベニサンピットの空間の広さと、役者たちのテンションの高さと、それを結びつける演出の力とが、まさに一体となって、緊張感溢れる舞台を作り出していたのだ。音楽も照明もいい。物語に感動するというのではなく、ただ観ているだけで涙が溢れてきた! それだけ役者たちがみんないいのだ。このテンションの高さは、もしかすると70年代から80年代初期の小劇場のノリに似ているかもしれない。考えてみると、ベニサンピットで観て私が気に入った芝居は、みんなそのノリだ(笑)。流山児★事務所しかり、桟敷童子しかり、THE・ガジラしかり。アングラとはいわないが、やはり私は、こういった元気な(決して明るい元気さではない)芝居が好きなのだ。そして、このベニサンピットという空間も。

 『かげろふ人』では、なんといっても、大久保鷹と若松武が対決するシーンが最高だった! まったく、こんなシーンが見れるとは(笑)! 彼らをよく知らない若い人にはわからないかもしれないが、私はうれしさと、そして、そのピーンと張り詰めた緊張感に、身震いした! こんなシーンを、唐さんや寺山さんが観たら、なんというだろう! 大久保鷹の、あの台詞回し(観た人にしかわかんないだろうけど)さえ成立させてしまう存在感には圧倒され、若松武の、滑舌がいい上に渋い声と、キレのいい身体から漂ってくる存在感は、めちゃくちゃカッコ良かった! 終演後、楽屋に行き、若に会った時には「カッコ良くて、惚れ直した!」と思わず叫んでしまったもんなぁ(笑)! 他の芝居では独特の存在感で目立つ塩野谷でさえ、今回は普通に見えてしまったぐらい(笑)。それがまた、いつもと違う塩野谷で良かったんだけど。そして、紅一点の西山水木嬢も、顔は布で覆われっ放しだわ、赤い襦袢で水浸しになるわ、指は斬り落とされるわ、おっぱいは揉みしだかれるわ、痛いのは嫌だよと泣くわ叫ぶわ、と大変な目にあって、ホントお疲れ様でした! って感じ(笑)。いや、笑いごとじゃない。プロの女優魂をしっかり見させてもらいました! 終演後、楽屋に行ったら、ピンクのバスローブ姿で出て来て、それがとても可愛くて、これまた惚れ直してしまいました(笑)。

 しかし、やっぱり芝居は役者だよなぁ、とつくづく思ったね。それが演劇のおもしろさなんだと。もちろん、これは私の考え。だから、先週との関連にもなるが、「教育に演劇を」といわれちゃうと、ちょっと違うんじゃないと思ったわけだ。でも、要するに、『演劇』と、『演劇的な要素を取り入れたワークショップ』と、『演劇ワークショップ』は違うんだということがはっきりしたので、それに関しては、もう私自身は深く考えないことにする。つまり、私がやった、先週報告した演劇部の高校生たち相手のや、福岡でやった「演出家のためのワークショップ」は、あくまでも『演劇ワークショップ』であって、『演劇的な要素を取り入れたワークショップ』ではなく、教育の現場や、コミュニケーションをはかる目的のためにやるのは、あくまでも『演劇的な要素を取り入れたワークショップ』であって、『演劇ワークショップ』ではないということなのだ。それを混同して「演劇ワークショップ」といってしまっているところが多いので、誤解が生じるわけだし、どうも私も一緒に捉えてしまっていたようだ。すみません。でも、それだったら、『演劇的な要素を取り入れたワークショップ』に、「演劇」という言葉は使わないでほしいと思う演劇人は多いんじゃないかな。『コミュニケーションワークショップ』でいいじゃない。その『コミュニケーションワークショップ』に、コミュニケーションは演劇の大切な要素のひとつだということで、演劇人を使うというのは、とてもいいことだと思う。

 実は、先週の乾坤を読んでくれた平田オリザからメールが来て、私がわからなかったところをいろいろ教えてくれ(私も風聞や伝聞だけで書いていたところもあるので)、「コミュニケーションティーチャー制度」についても少し教えてもらった。カナダやオーストラリアでは「ドラマティーチャー」というのだそうだ。日本では「ドラマ」という言葉だと、「テレビドラマ」ぐらいしか思い浮かべられず、誤解を受けるだろうから、主目的である「コミュニケーション」ティーチャーにしたのだろう。オリザは今、メチャクチャ忙しいだろうから、なかなか会えないと思うけど、一度会って詳しい話をしたいと返信しておいたので、いつか会ったら、また報告する。ま、私ごときに協力出来るようなことがあれば協力したいし。

 ところで最近、学校の方はいろんなオーディションが続いていて、いい感じで合格者が出ていてうれしい! 4月から、といっても、4月はなかったから、5、6月で5つ。ラジオのパーソナリティが2つ、PS2のゲームの声優が1つ、オンラインゲームの声優が1つ、そして、テレビの着メロランキングのナレーションが1つ。PS2のゲームの声優は4人が決まり、オンラインゲームの声優も2人になったので(最初は1人の予定だった)、全部で9人がデビューを果たしたわけだ! 80人弱という学生数を考えると、なかなかの数字だと思う(笑)。中には、将来有望な現役高校生の子もいるし、年齢層も幅広いし(声優に年齢は関係ない!)、ちゃんと実力で選んでくれているのが、とてもうれしい! もちろん、アイドル声優もちゃんと育てていきたいと思ってる(笑)。男女比は、今のところ2:7で、やはり女性が多いが、学生数も女性の方が多いから、そんなところかな。とにかく、結果を出していかなくてはいけないのが今の私の仕事だから、これからさらに、いろんな現場に送り込める素材を育てていかないとね。ま、当分、自分のことは置いといて(笑)。

 そうそう、これも自分のことじゃないけど、乾坤でも散々お騒がせした、高校を4年かけて卒業した長男のミントが、今、外波山さんの椿組の手伝いをしていて、13日からの花園神社での公演『花火、舞い散る』に、ちょこっと出させてもらうことになったらしい。まったく、花園デビューかよ(笑)! うらやましい(笑)! 連日、稽古で帰って来るのは私より遅かったり、帰って来なかったりする。まるで、30年前の自分を見ているようだ(笑)。私はそんなの当たり前だと思ってるけど、やはり母親は心配する。自分の時もそうだったんだろうな(笑)。今週の水曜日から花園神社に入り、長い仕込みや稽古を経て、来週金曜日の初日を迎えるわけだ。その間に、何日か花園神社にも泊まり込むらしい。まぁ、親としては、身体と、みんなに迷惑をかけないように、ということだけが心配だ。芝居に関しては……もう、演出家にお任せ(笑)。私は何もいってません。一応、15日の日曜日に、熊谷さんや福岡から来るトンバイク仲間や妻やいろいろ友人たち等と観に行く予定だが、私は初日にも顔を出すつもりだ。こんなこというとなんだけど、ミントのことを生まれた時からすごく可愛がってくれていた、今は亡き、螳螂のガンちゃんこと冬雁子も、椿組というか、はみだし劇場にはよく出ていて、その同じ花園神社の舞台にミントが立つことを、きっと天国で喜んでいてくれるはずだ。いや、厳しいこともいっているかな(笑)。う〜ん、ちょっと感慨深い。泣ける。

 というわけで、今週はとりあえずここまで。今週末の日曜は、朝から次男のシオンの高校野球の神奈川大会の開会式を観に横浜スタジアムに行き(今年はちゃんと観れる! といっても、まだ2年だけど)、午後は三男のライチの中学バスケットボールの県大会の予選の座間市の大会の試合を観に行く(3年だから、この大会が最後)。2試合目は因縁の西中との試合なので楽しみだ! 息子たちが頑張ってるんだから、親父も頑張らなくっちゃね! ちなみに3兄弟の名(ミント、シオン、ライチ)はみんな本名、漢字だけど!

(2007.7.5)


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