2007年6月第1週

 先週末、代アニ福岡校の卒業式以来、2ヶ月ぶりに(いや、今週末でちょうど3ヶ月ぶりになるが)、福岡に行って来た。ここでも何回か書いている「演出家のためのワークショップ」のためだ。

 1日の金曜、飛行機はJALで、変更が利かない3時の便だったが、羽田まで2時間あれば充分だと思って家を1時にでた。ところが、平日の昼間は電車の本数が少なく、その上、久しぶりに通った海老名駅(今年の3月までは毎日通っていたのに)がすっかり改装されていて、間違って出た通路が遠回りになり、小田急から相鉄への乗り換えも遅れ、なんと京急の羽田空港駅に着いたのが、2時40分! 改札を出て走りに走り、JALの窓口近くにいた若い従業員の女の子に「予約番号があるんですけど、どこで引き換えたらいいの?」と尋ねたら、「ここではないので」と落ち着いた感じでいわれ、「何時の飛行機ですか?」とニコニコしながら訊かれたので「3時ですけど」といったら、自分の腕時計を見たその子の表情がガラッと変わった。いや、悪いけど、その豹変した顔を見て私は思わず笑ってしまったのだけど(笑)。「すぐこちらで手続きしますから!」と、その子もあわてた様子で走り出し、私が後について行くと、カウンターでベテランらしき従業員にいろいろ訊いている。どうやらその子は、新人だったようだ。結局、その子は手荷物検査のところまでずっとついてきてくれて、係員にもいろいろ説明してくれたりしたので(別にそれで手荷物検査が優遇されるってわけじゃないけど、先にさせてはくれた)、中に入ってから「ありがとう」と御礼をいって手を振って別れた(笑)。向こうはお辞儀だけで手を振ってはくれなかったけど(笑)。まぁ、まだ多くの乗客が搭乗中だったので、私のおかげで出発を遅らせるなんてことにならなくてよかったとホッとした。以前、もっと遅れた(出発5分前ぐらいにカウンターに行った)時、まだ出発前だったので、次の便にしてもらったことがある。人に迷惑をかけるのは嫌だからね。おっと、こんな話より、重要なのは福岡の話だな(笑)。

 福岡空港にはハンキンさんが迎えに来てくれていて、ハンキンさんの車で春吉のホテルにチェックインし、そこでちょっとトラブルがあったので時間がかかってしまったが、部屋に荷物を置いてすぐ代アニ福岡校に挨拶に行った。今年の4月から場所が変わり、教員室も2階になっていたが、入っていくと先生方の懐かしい顔が一斉にこちらを向き、笑顔で迎えてくれた。時間もなかったので、声優科の棚原先生と新任の葛西先生(4年前に教えた卒業生! よく飲みに行った!)と福岡校責任者の柳瀬先生、そして、ダービーの馬連5万馬券を当てた春日先生とちょっと話をし、おみやげを置いてすぐに出た。来週も来るのでぜひ飲みに行きましょう、という話はしたが。あ、それと、声優科の学生たちにワークショップの発表会観に来るように伝えてね、とも。

 その後、その日のワークショップをする“ゆめアール大橋”に行き、ちょっと時間があったので近くのラーメン屋でハンキンさんと軽く食事をした。もちろん、久しぶりの本場のとんこつラーメン!

 「演出家のためのワークショップ」初日は、7時から始まり、主催者の話、各ユニットの紹介、そして、私が演出全般に関する話をした後、先に渡しておいた作品(私が書いた20分ぐらいのオリジナル戯曲)に対する、各ユニットの演出家の演出プランを話してもらい、それに対して私がアドバイスをするという形で進んだ。とにかく、5人の演出家それぞれ、作品に対して違う捉え方をしているし、演出プランも違うので、私のアドバイスもそれぞれに対して違う内容になっていった。まぁ、マニュアル的なワークショップはしたくないしね。というより、これはどうも、これまで私がいろんなタイプの芝居を作ってきたことが生きているなぁ、と感じた。実験劇風あり、アングラ風あり、エンターテインメント風あり、翻訳ものあり、ホラーあり、コメディあり、その他いろいろやってきた。それはどういうことかというと、「演劇」というものの持つ表現の可能性をいろいろやってみたかったからなのだが、逆にいうと、そういった、方向性をひとつに決めなかったことが、世間的な評価に結びつかず(笑)、演劇界で確固たる地位を築けず(笑)、有名になれなかった原因なのだ(笑)。いや、そんなことはどうでもいいことなんだけど(笑)。別に有名になりたいと思って演劇始めたわけじゃないから(笑)。いや、ホント、笑えちゃう話なんだけど。今回の主催のFPAPの高崎氏も、その辺り、つまり、私がいろんなタイプの芝居をやってきたということが、このワークショップが成立(まだ終わってないので「成功」とは書けないけど、まぁ、結果は見えてる)した一番の要因だといってくれた。そう、世の中にはホントいろんなワークショップがあるけど、単にその講師である演出家なり作家の方法論を押し付けているようなものはワークショップとはいえないし(講座なら、まぁいいけど)、要は、そこに参加する人たちと講師の人選で、そのワークショップの良し悪しが決まると思う。まぁ、なんにしても臨機応変な対応が大切だろうね。

 そんな話もした後(これは最終的に文書化されて、FPAPのサイトで発表されるらしいので、詳しく知りたい人はそれをどうぞ!)、各ユニット毎の稽古が始まり、私はそれを見て回った。で、10時ちょっと前に稽古が終わり、初日の講評をしたのだが、そこで私はかなり厳しいことをいった。福岡の演劇界がいまひとつダメなのは、意識が甘いからだ、などということもいってしまった(笑)。いや、笑い事じゃないか。他にもいろいろいったけど、それはFPAPのレポートでね。

 その後、『豚とオートバイ』で顔見知りの何人かと大橋駅近くの居酒屋に飲みに行き、さらに別の人も参加して違う飲み屋をはしごし、ホテルに戻ったのは2時過ぎ。当然、爆睡した。

 翌土曜日は、各ユニットの自主稽古は13時からだったが、私が立ち会うのは17時からだったので、久しぶりに福岡の演劇を観ることにした。ぽんプラザホールでやっていた、万能グローブガラパゴスダイナモスの公演『よれた僕らの水平思考』だ。ホテル近くのうどんのウエストで朝昼兼用のごぼう天+丸天うどんとかしわおにぎりを食べ、公演は2時からだったので、その前に天神の西鉄ホールに挨拶に行ったら、福岡時代にはいろいろお世話になったプロデューサーの中村さんは所用でいなかったが、偶然にも翌日に南河内万歳一座の公演があり、ロビーでばったり座長の内藤裕敬氏に会った。彼はかなり驚いていた(笑)。そりゃそうだろう、1月に新宿で会い、神奈川に戻ったことを話したのに、なぜか大阪でも東京でもない福岡でばったり会ったのだから(笑)。ワークショップの話をし、今の大阪の演劇状況の話を聞いたりしたが、あまりいい状況ではないと彼はいっていた。そういや、大阪も、もう随分行っていない。実際に自分の目でも確かめに行かないとな。

 2時ちょっと前にぽんプラザホールに戻り、通称、ガラパの公演を観た。あ、受付の手伝いで『豚とオートバイ』でキョンスクをやってくれた都地みゆきがいたので驚いた。どこも演劇界は狭いのだ(笑)。ガラパの公演を観るのは初めてだったが、福岡の若手劇団の中での評価は高いと聞いていた。作品は、大学のデジタルゲーム研究会の部室を舞台にしたコメディで、シチュエーションコメディといわれているようだが、展開にかなり無理があったりして、むしろ、完全なスラップスティックにした方がいいんじゃないかと思った。演技や見せ方も、単にリアルな展開で進めていくのではなく、何かのきっかけで照明をバーンと変えたり、スローモーションやストップモーションの動きを入れたり、いろいろ広がりのある見せ方は出来ると思う。また、それぞれのキャラクター造形はおもしろかったが、役者の力量にちょっと差があったので、それだけで見せるのはつらいかもしれない。しかし、美術はしっかりしていたし、ゲームを実際に舞台に組み込ませたりするアイデアもおもしろく(もちろん、実践したことも! ただ、初日はうまくいかなかったということなので、その辺りはプロに徹しないとダメだが)、これぐらいの力を持った劇団がどんどん生まれてくれば、福岡の演劇界もおもしろくなるのに、と思った。こういった作品をきちんと評価して、いいところはいい、悪いところは悪いと評論していく場が必要だろう。ただ、「おもしろかった」じゃダメなのだ。私は、勝手にいろいろ妄想する青山という役をやった椎木樹人が気に入った。彼の芝居を観てるだけで笑えた(笑)。やっぱり役者の力は大きい。と思っていたら、彼は主宰だった(笑)。いいぞ、いいぞ。

 ガラパの公演を観た後、その日の稽古場の福岡市民会館に行き、本格的に各ユニットの稽古を見て、というより、各演出家の演出を見て、それにアドバイスを与えていった。つまり、演出家のダメ出しにダメ出しをするのだ(笑)。これがまた、私は大変なんだけど(笑)、客観的に見るとかなりおもしろい。稽古が終わり、演出家のダメ出しを聞くと、役者は外に出ていく。そして、残った演出家と私が2人だけで話をするのだ(笑)。こんな経験は初めてだ。おそらく演出家たちもそうだろう(笑)。今回の演出家5人のうち、演出経験が豊富なのは2人、1人は4〜5本、あとの2人は初演出。しかも1人は実際の公演の場の経験もない(1人は役者経験は多い)。もちろん、演出経験が豊富だからどうだということでもないし、演出経験がないことがかえって新鮮なアイデアを生み出すかもしれない。そこら辺は、それぞれに対して違うアドバイスになる。もちろん、結果もどうなるかわからない。ただ、人間の見方というのは、特に舞台を作っていく場合には、どうしても一面的な見方になるので、その辺りの広げ方をアドバイスしていった。大切なのは、やろうとしていることが、自己満足ではなく、どう観客に伝わっていくのかということだからだ。

 今回、私は役者に直接ダメ出しをすることはしない。すべて、演出家に伝える。いや、それも役者の演技に関しては何もいわない。だから、いいたいことがあるのにいえないつらさはある(笑)。しかし、「演出家のためのワークショップ」だからしょうがないのだ(笑)。それを察したあるユニットの役者たちが、「発表が終わったらでいいですからダメ出しを下さい!」といってきた。いや、私は公演が終わってダメ出しをするような野暮な演出家じゃないので、ダメ出しはしないよ(笑)!

 今回の「演出家のためのワークショップ」は、この2日目の進行で、意義や方向、やり方がはっきりしてきたと思う。実際、やったことのない試みだし、初めにある程度、方向性ややり方を考えてはいても、どうなるか心配だった部分もあるのだ。それがはっきり見えてきた。と、同時に、これはかなりおもしろいワークショップだと改めて確信した。多分、これから増えるのではないだろうか。いや、東京や神奈川でもやりたい。もっとも、自分のダメ出しにダメ出しをされても素直に受け入れられる度量がある演出家じゃないと意味がないと思うけど(笑)。

 2日目の稽古の後は、演出家5人とユニットのメンバーで残れる人が参加して、飲み会が行われた。総勢30名近く。考えたら、福岡の演劇人のうちの30人が集まってるわけで、これは結構すごいことだと思う。9日の発表会の後の、観客も参加出来る初日乾杯もすごいことになりそうだし(笑)。5人の演出家のうち、2人は初めて会った人だが、すぐに打ち解けていろいろな話をした。この日は、結局、みんなとの飲み会の後も、数人と中洲の“ふとっぱら”へ行ってしまった。毎夜、連荘で、しかもはしご酒。さらに最終日には、稽古が終わった後、帰るまでの時間に「福岡演劇のひろば」のオフ会がある。それについてはまた長くなりそうなので、ワークショップの成果ともども来週報告するとしよう!

 というわけで、今週も金曜日から福岡行きだ! 9日(土)の発表会は夜の6時から大野城まどかぴあの小ホールにて。ぜひぜひお近くの人はいらして下さいな! この、演劇的なおもしろさは、演劇好きな人には自信を持ってお薦め出来ます! ていうか、福岡の演劇人、観に来いや! あ、そんなに入りきれないかな(笑)。

(2007.6.7)


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