4月になり、年度が変わった。1月元旦は、社会的なことや個人的に自分の年齢を意識することで年の変わりを感じるが、仕事面において、やはり新しい年度変わりというのは、4月だ。学業においてもそうだ。うちの子供たちもみな1学年進級する。長男は4年かかって、無事、高校を卒業した。
というわけで、気分も新たに、乾坤一滴を再開する! 4ヶ月ぶりだ。Stage Powerもリニューアルされたことだし。
で、新しいサブタイトルは、“五十而知天命(五十にして天命を知る)編”とした。つまり、今年の2月4日で私も50歳になり、論語でいうところの「天命を知る」年になったので、その“天命”なるものを知りたいと思ってつけてみた。“天命”とは何か? ネットで調べると宗教的なことがいろいろ出てくるが、要するに、天の意思というか、天から与えられたその人の役割みたいなもののようだ。「人事を尽くして天命を待つ」という言葉もある。多分、私はまだまだ人事は尽くしきっていないので、ただ天命を待つだけでなく、これからは、天命なるものに向かって、天命なるものを探して生きていきたいと思うのだ。
そんなわけで、昨年暮れからの、仕事先だった某学院のゴタゴタは、一応片付いたようだし(詳しいことは未だにわからないが)、そこは3月で辞め、4月からは新しい職場(今期から始まる新しい専門学校だが)で働くことにした。これも天命かもしれない。私は別に運命論者ではないが、昔から、出会いは大切にしてきたし、「これは運だねぇ」というものにも数多く遭遇してきたので、そういうものは大事にしていきたいし、常にそういうものに敏感でいたい。
新しい職場のことについては、おいおい報告していくとして、まずは、このStage Powerにふさわしい再開として、演劇の話題から始めていこう。とにかく、この3月はよく芝居を観た!
まずは4日の日曜、福岡の某学院にいた時の教え子で、ドラマリーディング『豚とオートバイ』の時にも手伝ってくれた吉富が去年入った青年座研究所の本科32期生実習公演、永井愛・作『空の耳 −Big meを探せ−』を観に行った。場所は、代々木八幡にある青年座劇場。青年座では5年前の韓国現代戯曲ドラマリーディング『無駄骨』の時に稽古もしたし、その年の忘年会にも行ったし、随分昔には、青年座劇場での公演もよく観に行っていた、懐かしい場所だ。『空の耳』は、1年目の本科とはいえ、やはり青年座の研究生の発表公演にふさわしいクオリティの高さで感心した。某学院でも、これぐらいのことをやらせてくれれば、もう少し考えたんだが。辞めることをね。
翌週は、12日の月曜に行われた某学院の福岡校の卒業式に呼ばれていたので、日曜の朝から前乗りし、芝居は観れなかった。約1年ぶりの福岡では、私の大好きな温泉“那珂川清滝”に『豚とオートバイ』、通称「トンバイク」組のハンキンさんと行ったし、トンバイク組の同窓会的飲み会も“ふとっぱら・天神店”であったし、中洲の“辛麺・桝本”にも“コットンフィールズ”にも、さらには、学院の近くの“とんかつ大将”にも行った。みんな、福岡時代の乾坤ではおなじみの店だ。“とんかつ大将”のおばちゃんは、「東京みやげは?」と、覚えてくれていて、うれしかった。行けるとは思っていなかったので用意していなかったが、今度行く時は忘れないようにしよう。卒業式の夜の、1年しか教えてあげることが出来なかった学生たちの、3クラス合同の謝恩会も、なかなか感動的に盛り上がり、みんな1年の間にしっかり成長していて、うれしかった。充分に福岡を満喫した2日間だった。いや、もちろん2日間じゃ物足りないが。
3月2本目の芝居は、16日の金曜の夜。この日は、某学院の関東圏3学校の合同卒業式で、朝早く、礼服を着て新宿の厚生年金会館に行った。そして、式が終わり、東京校でのミーティングが終わった後、礼服のまま、中板橋の新生館スタジオというところに行き、演劇集団“one for-14”の第1回公演、『新宿アオカンアブレボーイズ〜人生最終地点あとは昇るだけ〜』を観た。作・演出は、山下ともち。ともちとは、もう10年以上前、彼女がある演劇養成所に通っている頃からの知り合いで、私の作品には縁があり、月光舎でも、『眠れぬ夜のアリス』(再々演)と『啼く月に思ふ』(韓国凱旋公演)に出演してくれた。彼女が脚本を書くとは、と最初は驚いたが、ホームレスを題材にした今風の作品で、なかなかよく書けていた。この芝居には月光舎の角館章子も出演していて、しばらく見ない間に、ますます、迫力というか存在感を増していて、いつかまた一緒にやりたいと思った。ともちとは、その後いろいろ話し、4月からの新しい専門学校の講師をやってもらうことになった。
翌17日の土曜には、下北沢のスズナリに、KUDAN Projectの『美藝公』を観に行った。KUDAN Projectの芝居は、乾坤でも何度も書いているように、私の大好きな、天野天街+小熊ヒデジ+寺十吾+スタッフが作り上げる万華鏡的劇世界で、例によって、このままずっと終わってくれるな、という思いで最後まで観ていた。今回は映画の話なので、映像が多用されていたが、相変わらず、天野の映像センスはおもしろい。名古屋から、小熊氏の彼女でもある、元・東海月光舎の美月が観に来ていて、一緒に観た。終演後、飲み会の席に行ったら、天野が流山児さんと佐藤信さんにはさまれていて、大変そうだった(笑)。信さんと会うのは実に久しぶりだったので挨拶して、ちょっと話した。他にもいろんな人がいてワイワイと飲み、最終電車に間に合うように帰った。
翌18日の日曜は、横浜の相鉄本多劇場でマチネ公演のみの『じゃあまた昨日!』。横浜SAACの初プロデュース公演で、月光舎にもよく出てくれていた山本艶さんが出演していた。母親と三姉妹の話で、いろいろ考えさせられる、いい芝居だった。実は、1月ぐらいに私もこの芝居に役者として誘われ(母親でも三姉妹でもなく、便利屋の親父)、かなり食指は動いたのだが、おそらく3月は忙しくなるだろうと予感して断った。その後、予想以上にいろいろあって忙しくなり、結果としてみんなにも迷惑をかけずに済んだので、断ってよかったと思った。終演後、ロビーで、太田省吾さんの『プラスチック・ローズ』を湘南台市民シアターでやった時(96年3月)に出演していた松本丸太さんに10年ぶりぐらいに会った。艶さんにしても丸太さんにしても、もう70を越えてるだろうが、元気そうでよかった。
その後は、23日の金曜に、Space 早稲田で流山児★事務所の『リターン』、24日の土曜は、福岡校の去年の卒業生が通っている、スターダス・21プロダクションの研究科修了公演『四角の死角』を小竹向原のスターダス・21のアトリエに、一日おいて、26日の月曜は、福岡校のおととしの卒業生たちが作った演劇制作集団、イヤヨの挨拶の書き下ろし公演『軋み』を吉祥寺櫂スタジオに、また一日おいて、28日の水曜は、マチネが紀伊國屋ホールでラッパ屋の『妻の家族』、ソワレが下北沢の劇「小」劇場で椿組の『なつのしま、はるのうた』と、結局、3月は、というか、25日間で計9本の芝居を観た。3日で1本の計算だ。ひと月にこんなに芝居を観たのは多分初めてだし、これからもおそらくないだろう。こんなペースで観たら、年間120本も越えてしまう。いや、演劇評論家だったらそんなの当たり前だろうし、一般の人でもいるだろうけど、私には到底無理だ。その間に別の仕事もしなきゃいけないわけだから。
流山児★事務所の『リターン』は、かなりおもしろかった。物語もさることながら、あの役者たちの緊張感溢れる演技を、すぐ目の前で観ることが出来る贅沢さ。やはり小劇場はいいなぁと改めて思った。例によって終演後の飲み会で、魚さんやロミさんはもちろん、北村ムーチョさんや根本和史さん、さらには、蘭妖子さんにも15年ぶりぐらいに会って、いろいろ楽しい話をした。若い演劇人もいたのだが、私はあまり知らないので話さなかった。もう、80年代なんてのは遺物だね(笑)。このいい芝居を、若い連中に観せたいと思って、いろいろ連絡したら、結構観に行って、みんなから「よかった!」「最高でした!」というメールが来たので、うれしかった。
『死角の四角』は、実は3月に観た芝居の中で、個人的には一番好きな芝居なのだ。研究生の公演だから、演技はそれなりに拙いが、その拙さを生かした作品で、みんなの一生懸命さも伝わってきて、私は終始ニコニコしながら観ていた。構成・演出は講師の酒向芳氏で、元になっているのは寺山修司作品の『大人狩り』だ。それがさらに、寺山+少年王者舘+維新派の世界になっているのだから、私が気に入らないはずがなかろう(笑)。最後に演出家が出て来て、いろいろ説明したのはちょっとどうかと思ったが、おそらく、演じる側も観る側もこういう世界には慣れていないだろうから、いたしかたないか。う〜ん、これが劇団だったらなぁ、すぐお気に入り劇団になるのに。終演後、スターダス・21の養成所長の松永さんと会い、某学院を辞めた話と4月からのことなどをちょっと話し、観に来ていた、去年の福岡校の卒業生と、今年からスターダス・21に入る横浜校の卒業生と一緒に帰った。
『軋み』については、作・演出の平木大士(福岡校の学院祭で4年前にやった『トレイン』の作・演出家で、2年前の学院祭では、その作品を私が演出した)といろいろ話したいと思った。黒沢清的世界の脚本は、もっと整理すれば、かなりおもしろくなると思ったが、演出面がまだまだ甘い。私はどうも、基本的に彼の作品は好きなようだ。これも演出してみたいと思った。平木は、6月に福岡でやる“演出家のためのワークショップ”に来ればいいのに(笑)。いや、冗談じゃなく。出演している役者たちも、7人のうち5人が2年前の福岡校の卒業生で、懐かしくもあり、厳しく見ることも出来て、楽しかった。余談だが、公演の前に井の頭公園に寄ったら、まだちょっとしか咲いていない桜の下で、もう宴会が始まっていた。やっぱり、花より酒なんだな。
ラッパ屋の『妻の家族』は、相変わらずのラッパ屋の世界でおもしろかったが、やはり紀伊國屋ホールは広いのか、変に客観的に観ている感じがして、もうひとつ入り込めなかったのが残念だ。やっぱり、シアタートップスがいいと思った。脚本も、いつもより、ちょっと笑いを狙い過ぎているあざとさを感じてしまったのだが、そう感じたのは私だけだろうか。
椿組の『なつのしま、はるのうた』も、いい芝居だった。これも、戦時下とはいえ、家族の芝居で、年を取ったせいか、こういう芝居にも惹かれるようになったようだ。やはり、客席の年齢層は、かなり高かった。月光舎にいた岡村多加江が頑張っていて、成長を感じ、初日乾杯の飲み会で、「今まで観た中で一番よかったよ!」といったら、かなり喜んでいた。ただ「スロースターターなんだよねぇ」と、周りのみんなやトバさんにもいわれたので、今年の目標は、前もってしっかり読み込んどいて、スタートダッシュで頑張れ、たかえ! 飲み会で、演出の松本祐子さんと話をしていたら、彼女は明治大学の後輩で、よく、螳螂と稽古場が隣り同士で稽古をしていたそうだ。御茶ノ水の学生会館の地下の。今もあるのかなぁ?
というわけで、再開第一弾の乾坤は、演劇ネタでまとめることが出来て、よかったぁ! 今週も、5日の木曜に、ダミアンを観に行く。7日は新しい学校の入校式で、9日の月曜からは授業が始まる。
しかし、乾坤もリニューアルしたことだし、毎回、こんなに長く書くのは止めよう。ま、今回だけね。いつもは、この半分ぐらいにしたいと思う。という決心だけはしておこう。ホント、大変なのよ、結構。
そうそう、上の方にもちょっと書いたが、つい先日、6月に福岡で“演出家のためのワークショップ”を行うことが決まったので、それについては、来週、報告する。
(2007.4.3)
ということで再開しました。これまではケータイで読むことも前提とし、そのメモリ容量を考慮して「ある程度の行数で」とお願いしてきましたが、最近のケータイは大容量ですし、まあPCメインと考えて、あまり長さは気にせずともよいと思うようになりました。にしても、職場が変わったら普通、あれこれバタバタするもんですが、いきなり長文で・・・ありがたいことです。つうか、天命に気づくヒマはあるのか、ちょっと不安。(じんぼ)