2005年1月第4週

 なんか先週は2月の話ばっかりでしたが、まぁ、あまり動きもなかったわけでして、ようやく先週末辺りから、いつも通り、食ったり飲んだり芝居を観たり、いろいろと動き始めました。

 まず、金曜日の夜は、西中洲という、中洲の繁華街から那珂川を隔てた一角の細い路地にあるところに初めて行ったんですが、ここがなかなか隠れ家風のこじゃれた飲み屋が軒を連ねているところでして、私はすっかり気に入ってしまいました。とても中州とは思えないほど、静かな雰囲気のところなんです。といっても、ちょっと高そうな感じのする店ばかりなんで(実際はまだ入ってないのでわかりません)、しょっちゅうは行けないと思うんですがね。で、そこにあるCANDYというライブスペースのあるBARで、先週お知らせしたように、女優の南谷朝子が九州初上陸ライブをやるというので、行ってきたわけです。このCANDYという店、最初は場所がわかり難くて、着いたのはギリギリになってしまいました。ビルの地下にあったんですけど、入るとボブ・ディランの大きなポスターが張ってあるし、なんか雰囲気が、我が青春時代によく通っていた歌舞伎町のBARに似ていて、入るなり、懐かしい匂いを感じたんですが、やはりその通りでした! 朝子のライブが終わって、マスターと話をしたら、店はもう30年近くやっていて、私がたまにカラオケに行くとよく歌う大好きな『プカプカ』の西岡恭蔵さんも、生前ここでよく歌っていたという店なんだそうです。あ、これまた大好きな憂歌団も九州に来ると、ここでライブをやるとか。それに、CANDYという看板の文字はマスターの友人の、椿組でもおなじみのイラストレーターの黒田征太郎さんが書いてくれたものだそうで、CANDYというのは飴のことじゃなくて、男と女をもじってC・AND・YでCANDYなんだそうです。昔はニューヨークのマンハッタンにも店を出していたそうで、なんかドラマに出来そうな話ですよね。今度、ゆっくり話を聞きたいと思っています。

 南谷朝子のライブも、いやぁ、よかったです! ほんと、何年ぶりですかね、バーボンを傾けながら、ボーカルのライブ(弾き語りです)を聴くなんて! 歌は、私も大好きな早川義夫さんの歌をはさんで(もちろん『サルビアの花』も)、朝子のオリジナルを、何曲ぐらいだったでしょうか、数えてませんでしたが、休憩を入れて2時間ぐらいだったかな、久しぶりに歌を聴きながら幸せな気分に浸ることが出来ました。最後に、別に福岡だからってことじゃなかったらしいんですが、福岡出身の松田聖子の『赤いスイートピー』を歌ったんですが、これが、「え、これってこんないい歌だったの!」って思えるようなもので、まぁ、さすがに女優ですね。ブルース風あり、シャンソン風あり、応援歌風ありで、いろいろ楽しませてくれました。

 ライブの後、やはり福岡に朝子が来るということで聴きに来た朝子の友人たちと一緒に、警固にある別の店に飲みに行きました。それがなんと、博多座で『新・近松心中物語』に出演している役者さんたちで、その日は昼だけの公演だけだったため、来ることが出来たそうです。で、そこで、やはり『赤いスイートピー』が違う歌みたいだったと、共に話が盛り上がったのが、寺島しのぶ嬢でした。みんなに「姫」と呼ばれていた彼女とは、もちろん私は初対面でしたが、例によってミーハー的に、去年の映画(『ヴァンブレータ』と『赤目四十八瀧心中未遂』)とテレビで観た『情熱大陸』で、すっかり気に入ってしまった私としては、まさかこんなところで会えるとは、と単純に喜んでしまいました。今年公開された映画『東京タワー』にも出ているとかで、私は未見ですが、観た知り合いは、「寺島しのぶがよかった」といってましたからねぇ。ま、当然だとは思いますが。その場には、朝子の友人の大石継太氏や岡田正氏、それに3人の女優さんたちがいて、みんなが出ている『新・近松〜』の話になり、朝子が翌々日の日曜日に観に行くというので、私も行くぞ、ということになりました。『近松〜』は25年前の初演を観ていて、その後も、テレビで放映されたのを観たりしてましたが、今回の新演出の『新・近松〜』も、寺島しのぶが梅川をやるのでぜひ観たかったので、ちょうどいいタイミングでしたね。考えたら、公演は27日までで、平日は11時半と4時半からなので、土日じゃないととても行けなかったので、それが最後のチャンスだったわけで、ほんとにグッドタイミングというか、観ておけよというお告げというか、なんか縁があるのかなぁ、と思いましたね。いえ別に、寺島しのぶ嬢と、ということではありませんが、ハッハッハッ。先週に引き続き、縁だのなんだのという話ですみませんが、そういえば、日曜日に『新・近松心中物語』を観に行った時に、あの広い博多座で、偶然斜め前の席に(3階でしたが)、暮れに『すぎのとを』を観に行って以来の、ギンギラ太陽’sの立石義江さんに会ったんですよ! 立石さんとは、よく街中で偶然会ったりするんですけど、これも縁なんでしょうかねぇ。

 というわけで、その日の飲み会は、みなさん翌日は11時半からの公演もあるので、早めにお開きにして、寺島さんとも、日曜日に観に行きますねと約束をして別れました。朝子は、まだ知り合いと飲みに行くようでしたが、私は調子に乗ってバーボンを飲みすぎていたので(久しぶりのウィスキーで頭が痛くなっていたので)、そのまま帰りました。

 翌土曜日は、昼間は家の掃除や溜まっている洗濯物を片付けて、夜、学院にダンスを教えに来てくれている先生や、卒業生や在校生も参加している銀色のくじらという劇団の公演『朝日のあたる家』を観に行きました。これがねぇ、またすごかったんですよ。何がって、出演者の数! チラシに載っている人の写真だけで95人ですから! まぁ、これだけの出演者が一人チケット10枚売るだけで約1.000人の動員ですからね。ノルマが何十枚かあったらしいので、当然、客席は知り合いで満席になるわけで、う〜ん、もちろん内輪受けってわけじゃないんですけど、そういう客を対象にして作っているだけのような感じがしましたね。どこかにアマチュア的な意識があるというか、なんか妥協している部分が多いというか、どうせ知り合いの、芝居もよくわからない客が来るんだからいいだろうと思っているのか(そんなことはないと思いますけど)、こんなんで当日3.800円も取る舞台に上げちゃっていいの? っていうところが目に付くっていうかねぇ。もちろん、照明や音響はすごくて、ああ、そういうところには金かけてるんだな、ってわかるんですけど、肝心の芝居の中身というか、演技の部分がねぇ、3.800円取る公演の演技とは、ちょっと思えないところがありまして……装置なんかなくても、照明や音響も効果もすごくなくても、アクションやダンスがなくても、ほんとにいい芝居を観せてくれたら、いくら払ってもいいとは思うんですけどね。以前観た、ここでも紹介したいくつかの、観客動員だけはすごい福岡のアマチュア劇団(アマチュアということではやっていないのかもしれませんが)って、なんかみんな同じタイプのような気がするのは、私だけでしょうか? 知り合いの客で席が埋まって一般の人が観れないようなんじゃなくて、一般の客でチケットが売れて、知り合いがなかなか買えないようなのこそ、あるべき姿なんじゃないでしょうか(知り合いとしては、ちょっと困ることは困りますが、うれしいですよね)。福岡だとギンギラだけなのかなぁ。ま、金取らないでやる分には、いくらでもいいとは思うんですけどね。暮れの『ミカエラ』なんか、観た何人からかは、お金を取ってもいいよといわれましたが、私は「ま、500円ぐらいならね」といいましたもん。やっぱ芝居は、演出というより、役者ですよ。役者のいい芝居を観たいですもん。福岡の青年センターでは、毎月500円のワンコインシアターというのをやっているんですが、あれも、決して500円程度のものというんじゃなくて、装置や効果は凝らなくていいから(ま、凝ることも出来ませんが……でも、工夫次第ではいろいろ出来るとは思いますが)、たとえ500円でも、2.000円や3.000円、いやもっと高くてもいいぐらいの金額を取れるような芝居、つまり演技を、観せてくれたらなぁ、と思うんですけどね。だって、演技は金かけなくて出来るじゃないですか。で、結論として、福岡の小劇場演劇界やアマチュア演劇界には、いい演出家はいないのかなぁ、ということになっちゃうんですけどね。役者からいい芝居を引き出すことの出来る演出家ね。あ、前にも書いたかな?

 すみません、話が脱線してしまいましたが、とにかく銀色のくじらの公演『朝日のあたる家』は、それなりには盛り上げて作られていたし、出演者たちは子供から大人まで一生懸命やっていたので、とりあえず、アマチュア演劇としてはいいんじゃないんですかね。しかし、翌日曜日に観に行った『新・近松〜』が、3階席でしたが4.200円で(でも、博多座は1階よりも3階の方が、全体が見渡せていい、という話も聞きました。ただし、1階客席内にある花道は見えませんが)、子供たちも出演していたし、出演者も70人ぐらいでしたが、決して一生懸命にやっているという感じはしませんでした。ま、当然ですよね。そこがプロとアマチュアの違いなんですから。比べること自体が間違ってましたね。すみません。

 博多座の『新・近松心中物語』に関しては、1.期待していた通りによかったところと、2.期待していた以上によかったところと、3.期待していたほどじゃなかったところが混在してましたね。3番目についていえば、開演直前に、1階の一番前の観客にはビニールシートが配られるんですが、それを見た時、私は思わず「博多座がテント小屋になった!」と思いましたからね。期待しちゃいましたよ。本舞台ではなく、張り出し舞台に、本水の入った川のプールが作られているので、そうせざるを得なかったんでしょうが(昨年の御園座や日生劇場ではどうだったんでしょう?)、ビニールシートを配られたおばちゃんたちは、戸惑いながらも喜んでいるような感じでしたからねぇ。ところが、最後に与兵衛が川に飛び込むシーンで、思ったほど水しぶきが跳ね上がらなかったんですよ。あまりビニールシートを配った意味がなかった感じですね。前にいるのがおばちゃんだけに、もっとバッチャンバッチャンやればよかったのに! と、お後がよろしいようで……って、まだ終わりじゃありません。で、1番目のことは、当然、寺島しのぶ嬢の演技と、やはり、客席にまで降りしきる雪ですね。去年の御園座と日生劇場の公演では、客席にまで雪を降らせるのはやめたそうですね。でも、やはり派手にやってほしいですね、雪は。客席の上にまで雪が降り出した時、客席からオーッという声が上がりましたからね。

 寺島しのぶ嬢の演技に関しては、とにかく、すごい集中力で、全身全霊を傾けた芝居っていうのは、ああいうのをいうんでしょうね! 金曜日の夜に見た素顔とのギャップのすごさにも驚きました。今、一番輝いている女優なんじゃないでしょうかね。素顔もいい女ですけど。実は、2番目のひとつが阿部寛の演技だったんですが、二人が扮する忠兵衛と梅川が初めて会うシーンは、それはもう息を呑む美しさで、二人と一緒に時間が止まってしまうような感覚を受けました。音楽も聞こえなくなって(実際、なかったと思います)、あの緊張感に、知らず知らずのうちに涙が出てきてしまってましたからね。2番目のもうひとつは、田辺誠一と須藤理彩の演技。決してうまくはなくて軽いんですけど、それが今回の新演出とマッチしていて、なかなかよかったんですよ。今回の蜷川演出は、これまでの様式的な演技や演出を切り捨てて、今回は、よりリアルな表現を求めるようになった新演出だと思うんですが、若者らしい二人の演技は、爽やかでしたね。客席からよく笑いが起きるし、心中する時でさえ、笑いが起きてましたからね(いや、それでいいと思うんですよ)。もちろん、これまでの重厚な演技を求める人には、物足りなく感じると思うんですけど、私は、どっちもありだと思いましたし、どっちも好きですね。家に帰って、今回、須藤理彩が演じているお亀を寺島しのぶ嬢が演じた95年の『近松〜』のビデオを観直したんですけど、与兵衛の勝村政信ともども全然違いましたからね。そういった意味では、演出をガラッと変えた蜷川さんもすごいんでしょうけどね。ただ、歌はねぇ、歌詞は同じなので、どうしても猪俣メロディの森進一の声が流れてくる感じがして、なかなか森山良子の歌に溶け込めませんでした。宇崎竜童の曲も悪くはないんですけど、前のを知っているだけに、前のが強烈過ぎるだけに、ねぇ。これはかわいそうですよ。ま、前の歌を知らない人には関係ないと思いますが。

 しかしまぁ、福岡に来て、ようやく初めての博多座で、大好きな『近松〜』を観ることが出来て、よかったです! 蜷川演出作品、来週末は北九州芸術劇場で、ようやく『ロミオとジュリエット』です。東京でやる『〜将門』や、鴻上が役者で出るという『キッチン』も観に行きたいんですけどね。小須田氏は『キッチン』観に行って、役者・鴻上尚史にダメ出しするのかな?

(2005.1.25)
(つづく)


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