2004年3月第2週

 福岡はすっかり暖かくなりました。月曜日には福岡市民会館で学院の卒業式も行われ、私は式で使うBGMの選曲と、会場の音響・照明スタッフとの打ち合わせと、式典中ずっと壇上に座っていての祝辞を担当しましたが、とりあえず無事終了し、ホッとしています。しかし、会場のスタッフの人は、私が式典中も袖で指示を出してくれるものと思っていたらしく、「私は式典の時はあそこに座っています」と壇上のテーブルを指差したら驚いていました。まぁ、それでも何とか、音が足りなくなったら(送辞も答辞も予想以上に延びたので)頭からリピートしてくれたり、よく対応してくれたので助かりました。

 式典終了後は、片づけをしながら、ロビーで卒業生たちと一緒に写真を撮ったりして、学院に戻って来た時には、これで二年生から手が離れるという感じで、一区切りついたような気がしました。まぁ三週間後には入学式があり、新入生が入ってくるんですけどね。来年、声優科は一クラス増えて、4クラスになる予定です。講師も一人増えるんですけど、現在、男の講師ばかり三人の男所帯なので、女性の講師を入れたいということで調整中です。学生たちにもその方がいいと思いますしね。しかし、最終決定は、去年の私のようにギリギリになるんだろうなぁ。

 さて、先週予告した通り、先週末には金・土・日と芝居と映画を観に行きました。先週は、いろいろ卒業式の準備があって大変だったんですが(他の先生方の中には、私の比じゃないぐらい大変な人もいて、当日の朝までかかっていました! もちろん、長谷川先生も!)、私は何とか金曜日の夕方までにBGMの編集を終え(『威風堂々』のボリュームを調整しながらのリピートが大変でしたが)、その夜は、西鉄ホールに『しかたがない穴』を観に行きました。

 これがなかなかおもしろかったんですよ! 脚本は、今年、岸田戯曲賞を取った倉持裕氏。私は彼の作品は初めてで、他の作品も観ても読んでもいませんが、決してわかりやすい台本ではなく、いろいろ想像力を刺激してくれる作りになっていて、なかなか気に入りました。ストーリーは特に紹介しませんが(しても、「しかたがない」ので)、ラストも「え、なんなの?」という感じで、こういう、答えはひとつじゃなくていい、という世界は大好きなんですよね、私。演出はG2で、出演者も松尾貴史や秋本奈緒美で、エンターティメント仕立てになっていたんですが、じっくり作ってもおもしろいんじゃないかと思いましたね。ただ、客を選ぶ作品なので、単純明快な芝居に慣れている人には、ちょっと難しいかも、という感じですね。代アニの学生たちも結構観に行ってたんですが、「どうだった?」と訊くと、「おもしろかった」という声が多かったのでホッとしました。こういうおもしろさをわかってもらえるという意思の疎通は大切ですからね。役者としての松尾貴史の魅力も堪能し、お気に入りの山内圭哉や松永玲子も観ることが出来て、満足した夜でした。え、秋本奈緒美? 美しいし、頑張ってましたけど、別に彼女じゃなくてもいいとは思いましたが。

 で、翌土曜日には、福岡市総合図書館まで行き、図書館所蔵の80年代の韓国映画『鯨とり〜コレサニャン〜』と『赤道の花』(共に監督ペ・チャンホ)を観て来ました。所蔵フィルムの上映といっても、ちゃんと35ミリで、246席ある本格的なホール(シネラ)があり、今までなんで観に来なかったんだろうとちょっと悔しく思ったりしました。入場料は大人500円。客層は、老人(65才以上)は半額ということもあるのか、8割ぐらいがお年寄りでした。入場者自体は少なく、夜の『赤道の花』の時は10人もいませんでしたけどね。『鯨とり』の上映の前に大久保賢一氏の講演があったんですが、中身はともかく、話し方が単調なのか、グッスリ眠っている人が何人もいました。失礼だとは思うんですけど、私もちょっとコックリしてしまいました。いやぁ、講演て難しいですよね。映画については、ここでは深く触れませんが(Koreanriに書きます)、『鯨とり〜コレサニャン〜』は★★★★、『赤道の花』は★★★☆で、どっちも良かったです。若かりしアン・ソンギが、さすが元祖カメレオン役者という感じで、『鯨とり』では役所広司、『赤道の花』では稲垣吾郎(そっくり!)してました。

 結局、土曜日は、福岡市総合図書館で夜まで過ごしたため、ぽんプラザホールでやっていた大塚ムネト氏のワークショップの発表公演は観に行けず、芝居は、翌日曜日に家の近くの公民館でアマチュアのグループが上演した『グレシアの森に』と『しかたがない穴』のニ本観ただけでした。

 その『グレシアの森に』ですが、今はなき演劇舎螳螂が1988年に上演した、もちろん私の作品なんですが、作者にまったく連絡がなかったんですよ。普通、学校の演劇部やアマチュアの劇団でも、上演許可の連絡が必ず来るんですけどね。私は家に配られた福岡市の広報で発見したんですけど、最初は「何これ?」と思いましたもん。御近所なんですぐチラシを取りに行ったら、ちゃんと“脚本・小松杏里”って書いてあるんですよ。しかし、まさか上演する側も、作者が公演する会場のすぐ近くに住んでいるとは思わなかったでしょうねぇ。

 私は事前に何の連絡もせず、当日、受付に行って丁重に「小松杏里と申します」と挨拶をしました。その方は演出助手をやっていた女の人らしく、最初は「は?」という反応でしたが、「作者です」というと、驚いた様子で「少々お待ち下さい」といってその公演の責任者と演出家を呼びに行きました。その公演は、その公民館の青年講座で行われていた演劇ワークショップの発表会で、もちろん無料での公演です。私も別に怒って観に行ったわけじゃないんですけど、その責任者である公民館の人の対応も、ワークショップをやっていた演出家の対応も「いやぁ、連絡しようと思ってたんですけどねぇ」という曖昧な態度だったので、ちょっとカチンときましたが、公演は一応最後まで観ました。アマチュアの出演者たちは頑張っていたし、彼らには何の罪もないとは思うんですが、やはり、市の公民館が主催している公演だったら、ちゃんと作者に上演許可を取るべきだよなぁ、と段々、怒りが湧いてきました。結局、芝居が終わってからは何の挨拶もしないで帰って来てしまいました。名刺は置いてきたので、誠意があれば、後で連絡ぐらい来ると思うんですけど、あの態度だとわかりませんね。

 芝居に関しては、まぁ、よく劇作家で演出家の人が、自分の作品が上演されているのを観に行って、「俺の芝居はこんなつまんないもんじゃない!」と憤慨するといいますが(私も何度もありました)、今回も例外ではありませんでした。オキナワ月光舎の旗揚げ公演として2000年に長谷川演出で上演した時に緒端役をやった、現・声優科の同僚の棚原先生は、一幕が終わったら、休憩の間に苦笑いしながら帰ってしまいましたし、この公演は学院でも告知したので、学生たちも30人ぐらい(それだけで全入場者の三分の一ぐらいでした)観に行っていたんですが、これはもう、後で螳螂版『グレシアの森に』のビデオを観せてやらなきゃと思いましたもん!

 気分を切り替えて、今週末には“福岡演劇のひろば”というサイトのオフ会に参加する予定なので、楽しみにしてます!

【今週は写真はありません】

(2004.3.16)


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