2008年3月第2週

 いつのまにか3月になっていた。いや、ホントにそんな感じ。しかも、もう20日も過ぎ、学校の声優科の今期の授業も先週末で終わった。いろいろあった1年が終わったというのに、感慨もない。いや、感慨に耽りたくても、耽っている時間がないのだ。とにかく、このところの忙しさ、というか、慌しさといったら、尋常じゃない。一番の要因は、今期3クラスだった声優科が、来期は一気に17クラスになるということだ。2年次の専科を入れると18クラス。しかも、授業の時間や時間帯がかなり変則的で、9クラスあるボーカル科やサポートカリキュラムの授業も入れると、4つの教室で4つの授業が同時に行われる日もかなりある。つまり、講師が同時に4人必要ということだ。今期は、常任は私一人。しかも声優科のことだけ考えていればよかったが、来期は声優科とボーカル科、合わせてボイスアーティスト学部、全体のことを考えていかなければならない。そのカリキュラム編成と準備で、連日、目の回る、いや、実際に頭がよく回らなくなっている毎日なのだ。

 物忘れも激しい。身体もかなりバテている。そのおかげで、連日遅い時間に家に帰るとバタンキュー状態。休みの日も家で仕事の続き。とても原稿なんか書いている時間はない。X01TのWord Mobileで原稿を書くことが出来る通勤の時間も、疲れてほとんど眠っている。そのためもあり、去年の4月1日から日記もボチボチ書き始めたミクシィの方も3月いっぱいで卒業することにした。マイミクの日記を見ている時間もないし、コミュニティの書き込みなんか、このところまったく見ていない。まぁ別にあれはあれでいいと思うが、中途半端は嫌な性格なのですっきりやめることにした。この乾坤の方は、管理人のダメが出るまで続けるつもりだ。最近、抜け抜けだが、もう6年になるし、いくとこまでいってやろうって心境だ。『小松杏里の韓国映画ベスト100』や韓国行きの写真をまとめる『Koreanri写真館』といった、やりたい企画もあるし。といっても、おそらく4月に入ってからも、新しい授業の流れが落ち着くまで、しばらく激務が続くだろうから、いつのことになるやら。

 それもみな、学校の、というより、声優や役者になりたくて入ってくる、いろいろな可能性を秘めた若者たちのためだから仕方がない。そう、学校に入ってくる時点では、みな、可能性は無限なのだ。大事なのは、そのあとだ。実際、今期も、学校に入って学ぶ「助走」の状態から、いろいろな仕事をもらえる「ホップ」の状態になった子はたくさんいた。そして、それらを生かしながら1年を経て、「ステップ」状態になり、後は、いかに「ジャンプ」=デビューするかだ。すでにジャンプした子も何人か出て来た。もちろん、大きなジャンプをするためには、しっかりした助走が必要なわけで、その手助けをしてあげるのが、私の仕事だ。まぁ、長年、演劇の世界に携わり、日本の狭い演劇界で観客動員がどうのこうのということではなく、広い世界の演劇界で評価されたいという夢を持ってやってきた、いや、まだ可能性は捨ててないから、やっている、だな、の身としては、そっちはちょっとひと休みして、今は、可能性のある若者たちの夢を叶えてあげることに、自分の喜びを見出しているような状態なのだ。

 これは、5年前に福岡の学校に赴任する時に思ったことだ。ただ、そこでは、直接、ホップやステップの状態に持っていくことがなかなか出来なかったため(すぐデビュー出来たSのような子もいたが)、物足りなさを感じていたのは確かで、それが去年の4月から開校した今の学校で、理想的な形に持っていけるようになったというわけだ。もちろん、まだまだ改善していくことは出来るわけで、それも割と簡単に出来るのも、つまり、フットワークがいいことも、新しい学校の利点でもある。まだ発表出来ないが、いろいろ新しい動きもある。とにかく、いい子はすぐ現場に送り込めるという環境がうれしい。そのために前述したような大変な状態になっているのだが、それも若者たちの夢を叶えてあげたいという自分の喜びのためだから致し方ない。忙しいのは別に苦ではないのだ。ただ、落ち着いて原稿が書けないのが残念だ。しかし、こんなに大変なんだから(わからないと思うけど)、みんな、いわれたことをよく聞いて、頑張ってデビューして欲しいと思うよ。まぁ、親心みたいなもんだな。

 さて、そのメッチャ忙しい合間をなんとか縫って、観たかった映画と芝居を観て来た。映画の方は、招待券があったので行った『母べえ』があまりにガックリ来たので、ホントに観たい映画を観に行った。アン・リー監督の『ラスト、コーション』だ。原題は『色|戒』。韓国映画の前にはまっていた香港映画時代から今も大好きなトニー・レオンが出演しているということももちろんあったが、主演の新人の中国女優タン・ウェイに、観る前からただならぬ気配を感じ、どうしても映画館で観たかったのだ。そして、観て、惚れた。タン・ウェイに。ああいうタヌキ顔の女が好みというのもあるかもしれないが(日本の女優だかタレントだかの誰かに似ているような気がするのだが、思い出せない)、もちろんそれだけじゃなく、女優として惚れたのだ。凄い。最初は野暮ったい感じのただの女学生で登場するのだが、それが演技に目覚め、さらにある使命を帯びて、トニー扮する重要人物に近づいていってから、どんどん輝いてくる。もちろん、監督であるアン・リーの力もあると思うが、それに応えられる力を持っているタン・ウェイの、新人とは思えない表現力と存在感にぐいぐい引き込まれていく。今年で29歳になる彼女は、自分で小説や戯曲を書いたり、舞台の演出もするという才女だから、魅力があるのも当然といえば当然かもしれない。話題になっているラブ・シーンも凄い。カンヌ映画祭の主演男優賞まで取ったトニーがここまでやるかということにも感心するが(『ブエノスアイレス』で男性のレスリーとの絡みまでやってしまった人だし)、タン・ウェイの、これまた新人とは思えない大胆さには度肝を抜かれる。いやぁ、この時代ということもあるけど、タン・ウェイの腋毛のあるヌードの絡みには興奮した。当たり前のようになったアンダーヘアのヘア・ヌードより、腋毛の方がそそられる。かつてそれで売った人もいたが(名前、思い出せない……そうそう、黒木香)、あれはグロイ感じがしたし、いい女の腋毛ヌードはこれから出てくるかもしれない。売れるかどうかはわからないが。ま、それはともかく、この作品は映画的にも、2時間40分という時間がまったく長く感じられず、緊張感と高揚感で最後まで飽きることはなかった。ホント、なんで日本映画はこういうのを作れないんだろうと思う。まぁ、予算も違うのだろうけど、世界に通用する映画って背負ってるものが違うような気がする。今年になって観た映画の中では一番のお気に入りの『ラスト、コーション』、上映が終わってしまった映画館も多いが、渋谷のル・シネマでは4月18日までやっているようなので、必ずもう一度観に行く。

 芝居の方は、龍昇企画の『モグラ町』を観て来た。久しぶりの前川麻子、作・演出作品だ。これもよかった。おもしろかったし、楽しかった。前川は最近では小説家として活躍していて、私も何作か読んでいるが、私はやはり芝居の方が好きだし、おもしろいと思う。それはやはり、彼女の描く世界のおもしろさが、役者の身体や声を通して表現された時に、より増幅されてリアルに伝わってくるからだろう。

 う〜ん、この芝居についてもいろいろ書きたいのだが、頭がうまく回らない。まったく、違う回路ばかりピリピリしていて、創造する力が働かないのだ。多分、今やっている授業のカリキュラム編成などの仕事は、いわゆるクリエイティブな、創造する力とは別の、現実的な作業を行う回路が必要とされているのだろう。そういった回路ばかり使っていると、何かを創作するということが出来なくなってくるようだ。最近、この乾坤の更新が滞っているのも、単に忙しいということだけでなく、思考回路がうまく作動していないということもあるのだろう。実は、毎週ちゃんと少しずつ書いているのだが、しっかりまとめられないうちにズルズル伸びてしまっているのだ。そう、起こった事象だけを箇条書きにでも書いていけばいいのだろうが、それにしても、落ち着いて書いている時間がないのだ。次もいつのことになるやら。う〜ん、いろいろ頭が痛い。あと2週間もすれば新学期だし。私はどうなってしまうのだろう。温泉にでも行ってボーッとしたいもんだ。

(2008.3.21)


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