2006年6月第1週

 演劇でもコンサートでも、興行(公演)として成り立たせるためには、制作者というものが必要になってくる。興行を行うには、当然、お金がかかるからだ。そのお金をどう工面するか、それを考えて実行するのが制作者だ。もちろん、制作者自身がお金を出すわけではない。いや、そういう場合もあるが。大きな組織の場合には、制作者が何人かいて、持ち回りでやったりもする。テレビや映画の場合は、お金のことももちろん考えなくてはいけないが、企画を考える製作者、プロデューサーという存在がいる。その映画やテレビのプロデューサーの組織としては、日本映画テレビプロデューサー協会があり、松竹のプロデューサーだった私の父(小松秀雄)も亡くなるまで所属していて、私も小さい頃、よく、協会の華やかなパーティーに連れて行かれた。もちろん、監督協会も、シナリオ作家協会脚本家連盟もある(他にもいろいろある)。

 そして、演劇界には、演出者協会劇作家協会、また、演劇に関する統括的な日本演劇協会劇団協議会があり(他にも舞台監督や美術、照明などの協会もある)、制作者に関しては新劇製作者協会というのがあるが、小劇場の制作者の横断的な組織はない。

 そんな制作者、特に小劇場の制作者を支援する情報サイトとしてあるのが、かつて遊気舎のプロデューサーだった荻野達也氏が2001年から運営している、fringeだ。そのfringeが、札幌、盛岡、仙台、名古屋、広島、北九州、福岡の中堅制作者を招聘して開催したのが“Producers meet Producers2006”と名付けられた地域の制作者のための創造啓発ツアーだ。先週2日の金曜日から4日の日曜日までの2泊3日、都内の各所で行われた。そのツアーに、福岡にいる間に交流の深まったFPAPの高崎大志氏と、5月に行われた“福岡演劇フェスティバル〈プレ〉”で西鉄ホールでの公演を成功させた劇団藍色りすとの太田美穂さんが参加するというので、金曜日の夜、会場のある西巣鴨に向かった。

 12行われる企画の中で(その間に2回観劇がある)、セッション5と名付けられた、私が向った企画は、「東京に近接する横浜で、いかにアイデンティティを確立しているか?」というテーマで、横浜の演劇について、横浜演劇サロンの中心的人物であり、演出者協会の理事でもある大西一郎氏に高崎氏がインタビューするという、私にとってはどちらも友人であり、どちらについても語ることの出来るという不思議な、というか、一石二鳥(?)的な企画だったので、これはもう行かなきゃならんだろう、ということで、会場のにしすがも創造舎に馳せ参じたわけだ。だが、学院のミーティング終了後、6時近くになって関内を出発したもんだから、当然、6時から始まったその企画を見ることは出来ず、さらに、にしすがも創造舎に着いた時には、すでにみんなは懇親会の会場に向かった後で、関係者は誰もいなかった。にしすがも創造舎は、廃校になった中学校を転用して作った文化芸術創造の拠点で、教室だったところを改造して稽古場として貸し出している。だが、初めてにしすがも創造舎を訪れた私にとっては(しかも夜)、まるで『少年アリス』に出てくる夜の学校に迷い込んだようで、廊下をウロウロしていた。そこに運良く、Ort-d.dの倉迫康史氏が通りかかり、倉迫氏に「PmPに来られた方ですか?」と訊かれたので、私ははいと答え、これから倉迫氏も行くという懇親会の場所に案内してもらった。

 都営三田線西巣鴨駅近くの中華料理店3階の懇親会会場に行くと、3つのテーブルに座った30人近い参加者たちに温かく迎えられ、高崎氏が駆け寄ってきて、私をみんなに紹介してくれた。私も、おそらく初対面だろうと思われる(どこかで会ったかもしれないが)荻野氏に挨拶をし、高崎氏や太田さんのいるテーブルに座った。太田さんの隣りには、大西氏がいた。

 神奈川に戻って来て、久しぶりに行った劇サロに続いて、演劇人の集まり(まぁ、制作者が中心だけど)に参加したわけだが、やはり楽しかった。とにかくすごいのは、上記の全国各地の制作者たちが、ここに集まっているということだ。しばらくしたら、次々に制作者たちが挨拶に訪れ、名刺交換をしながらいろいろ話した。広島市文化財団・アステールプラザの中井さんは、広島で活動していたHARROWのことを知っていてくれたし、今も広島で活躍している元・月光舎の役者たちのことも知っていて、最近の広島の演劇事情についての話も聞くことが出来た。札幌のコンカリーニョの小森さんには、責任者の斎藤さんによろしくお伝え下さいという話が出来たし、名古屋から来た西杢比野さんは、少年王者舘の制作の人だった(私のことは知らなかったようだが)。盛岡の澤田さんとも話をし、今、平田オリザが入れ違いで盛岡で演劇ワークショップをやっているということや、年寄りが頑張っているという盛岡の演劇事情の話も聞いた。

 考えてみれば、藍色りすとの太田さんとも、福岡ではゆっくり飲みながら話したことはなく(一緒に飲む席にいたことは何回かあったが、あまり話は出来なかった)、東京でこんなに話が出来るなんて、とお互いに不思議がった。そうなのだ。右に高崎氏、左に太田さん、そして、その隣りに大西氏がいて4人で話をしていると、まるで福岡に大西氏が来て話をしているような錯覚に陥ったのだ。だが、ここは東京西巣鴨。話しているのは、福岡と神奈川の人間。さらに、各地方の人たち。いやぁ、時間の関係で私は懇親会にしか参加出来なかったが、こういう企画は素晴らしいと思った。やっぱり、演劇人が集まって酒を飲み交わしながら、ああだこうだと前向きな話をする場っていいなぁ! 飲んで管を巻いたり、他人の悪口をいってるようなのは嫌だけどね。あ、飲んでいる場のことだけじゃなく、全体の企画自体が素晴らしいってこと! そうそう、その場で素晴らしい企画の実現に向けての話が出て、高崎さんも太田さんも乗り気になってくれたのだけど、まだ正式に発表出来るものじゃないと思うので、それは、いずれ動き出したら……なんか、『豚とオートバイ』をやろうって決まって盛り上がった時に似てるなぁ。あれも演劇人が集まってる飲み会の席だった。しかし、大西さんも動いてくれそうだし、実現に向けて私も大いに協力したい。一応、演出者協会にも入っているしね。福岡に行けたらいいなぁ。

 というわけで、西巣鴨から巣鴨に出ての帰り路、JRの新宿駅で私は降り(ホントはみんなが泊まっている駒場のアゴラ劇場に一緒に行ってさらに飲みたかったのだけど、下北に住んでた時ならともかく、帰れなくなるので遠慮した)、高崎氏とはいずれ下北で飲もう(古里庵を紹介したい)という約束をして、みんなと別れた。みんなは土日もいくつかのセッションや観劇会など、スケジュールがびっしりなのだ。その経過や今回の企画の総括的なことは、いずれまとめられて発表されるんじゃないかと思うが、楽しみだ!

 さて、私は、土日は家で溜まっている資料や本やCDやビデオの整理に精を出すことにした。とにかく、まだ私の書斎(というか仕事部屋)は、物置に近い状態なのだ。以前からのものだけじゃなく、福岡から持って帰ってきたものも整理分類出来ていない。

 もちろん、合間を縫って競馬もね。GT戦6週連続開催の最終戦、安田記念は……いやぁ、これまた、実に惜しい結果になってしまった! 先週書いた通り、香港から参戦したブリッシュロックが必勝体制で来ていると見て、最終的に私はこの馬を軸にした。ブリッシュラックから、ダイワメジャー、ダンスインザムード、ハットトリック、アサクサデンエン、インセンティブガイ、グレイトジャーニー、オレハマッテルゼへの3連複だ(フジサイレンスとバランスオブゲームは切った)。ゴール前、予想通りブリッシュラックが伸びてきた! アサクサデンエンも来た! 内にダイワメジャーもいる! よし、取った! と思ったら、3着にもう1頭の香港馬、ジョイフルウィナーが残ってしまった! なんだよぉーっ、ジョイフルウィナーなんていらないよぉっ! と、当然思ったが、ダイワメジャーはクビ差で4着。というわけで、安田記念は惜しかったけどダメでした。いやぁ、馬単でも19.790円ついたし、買ってれば取れたんだけどねぇ……残念でした。

 ところが、というか、実は、この日はなかなか予想の調子が良くて、安田記念も惜しいところでダメだったけど、その前の何レースか当たったり、買い方の違い(ちょっとした組み合わせの違い)で当たらなくても、予想した馬はほとんど上位に来ていて、ずっといい感じだったわけ。そして迎えた東京の最終12レース、稲村ヶ崎特別! 名前がいいねぇ! 1、2番人気の馬を1・2・3着のベースにして、2・3着に気になったカッチーこと田中勝春騎手のシルクエフォートを入れ、3着には他に、1・2着は無理でも3着には来そうな、気になった馬4頭を足したフォーメーションで、起死回生とばかりに思い切って3連単28点勝負! そうしたら、1着に2番人気のチョウサン、2着にカッチーのシルクエフォート、3着が8番人気で四位洋文騎手のエアフォルツァが入り、何と3連単58.260円の配当! 取っちゃいましたよ! 去年からの目標、10万馬券には及ばないけど、おそらく私が今まで当たった馬券の最高配当だと思う! まぁ、3連単だから高額配当になるのは当たり前だけどね。もちろん、この日の負け分があるんで、58.260円丸々儲かったわけでもないし、これまでの負け分も考えたら微々たるものなんだけど、とにかく、58.260円の馬券を28点買いで3連単で取れたってことがうれしいわけだ! 予想がズバリ当たったことがね。ちなみに1着になったチョウサンの騎手は、私といつも相性の悪かった横山典弘騎手だった(笑)。しかし、まさに「来たかチョウサン、待ってたホイ」だったわけだ!

 さぁ、これで、しばらくは競馬の話題はお終い! と思いきや、実は今週末で春の東京競馬場での開催は最後なので(10月までない)、行って来ようと思ってる。去年のダービー以来。楽しみ楽しみ!

(2006.6.7)
(つづく)


前週